NHK杯戦囲碁 今村俊也9段 対 黄翊祖8段

本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が今村俊也9段、白番が黄翊祖8段の対戦です。今村9段は棋風通り厚く打ち進め、ポイントは右辺で白がかけて来たときに、這って受けずに逆にケイマに踏み込んで白の切断を狙いました。結果的に黒も白もお互いに相手の石を取る振り替わりみたいになりましたが、黒は右上隅からの石を安定させられたのが大きく、白はまだ治まっていませんでした。黒は右辺にもう一手かけて取られていた石を助け白の全体を狙いました。白は右下隅の黒の二間ジマリに潜り込んで隅の地を取り、更にその外側の黒を攻めることで白の右辺の石のしのぎのたしにしようとしました。この黒と白の弱い石の絡み合いは下辺左の白にも波及してきました。そのあたりの折衝で白におそらく見落としがあり、右下隅からの黒と左辺の黒が上手くケイマで渡って連絡し、逆に白は中央の石を切り離されて取られてしまいました。これで形勢は黒が盛り返しました。しかし白も確定地が多く、勝敗はまだ分かりませんでした。黒は左上隅の三々に打ち込み、白地を荒らしに行きました。単独ではなかなか活きない所を上手く左辺の白にからめて行きました。ここで黒の好手、白の再度の見落としが出て、左上隅は白地となりましたが、左辺の10子くらいを切断され取り込まれてしまい、ここに30目ぐらいの黒地が出来ました。これで黒がはっきりリードし、その後数手打ち進めて白の投了となりました。今村9段の手厚い打ち方と、それによる攻めの余得の稼ぎ方のうまさが光った1局でした。

NHK杯戦囲碁 瀬戸大樹8段 対 結城聡9段

本日のNHK杯戦の囲碁は黒番が瀬戸大樹8段、白番が結城聡9段の対戦です。二人のこれまでの対戦成績は結城9段から見て何と16勝0敗だそうです。一流のプロ同士でここまで偏るのは珍しいと思います。布石は瀬戸8段の3手目の三々が珍しいです。最近星に打つと、AIの真似でいきなり三々に入る手が流行っており、三々がまた打たれるようになって来ているそうです。この碁の中盤での焦点は黒が右下隅の白に一間に高くかかり、白が一間に受けたのに黒が覗いていったことです。部分的には黒が相当損な手でしたが、黒の狙いは右上隅から延びた白の大石がケイマしている所をツケコシて、白を分断することでした。黒はこの狙いを決行しましたが、白から上手くかわす手を打たれ、中央で白1子を取って若干の地が出来ましたが、それより右下隅の損の方が大きく白が優勢でした。黒はそれでも更に白の一団に食いついていきましたが、ここでも白はアタリの1子を逃げずにポン抜かせて打ち、その代償に下辺で黒1子を先手で取って大石の活きを確保しました。これで白が勝勢になりましたが、黒が上辺で白に付けていったのが勝負手で、白は内側から押さえて受けておけば多少地が損でもそれで勝ちだったと思いますが、結城9段はそこは既に読んでいるという感じでノータイムで外から押さえました。黒は白地の中で二眼作って活きることはできませんでしたが、結局攻め合いで一手寄せ劫になりました。一手寄せ劫といっても劫材は黒の方が多く、また非常に大きな劫で白からはどこにもそれだけの大きさの劫材は無く、ここで白の投了となりました。結城9段はちょっと油断して好局を落としました。瀬戸8段は対結城9段からの初勝利です。瀬戸8段は2回戦でも河野臨9段といううるさ型を破っており、今期のダークホースになりつつあります。

依田紀基9段の「どん底名人」

依田紀基9段の「どん底名人」を読了。本人の一生を振り返って「遺書」の積もりで書いたものだそうです。依田9段というと、若い頃から知っていて、故藤沢秀行名誉棋聖を慕って集まっていた若手の一人で、よくその碁が秀行さんの講座なんかの題材に取り上げられていました。当時から碁の才能は素晴らしく、将来タイトルを取るのは間違いないだろうと思っていましたが、現時点で35のタイトルを取っており、予感は外れませんでした。でもまだ棋聖のタイトルは取っていませんし、いつまでも井山裕太7冠王にタイトルを独占させておかないで、依田さんみたいな今やベテランが奮起して欲しいものです。師匠の秀行さんは60代で王座のタイトルを取り、しかもそれを防衛したのですから。その秀行さんが「俺は50代になってから碁が強くなった」と仰っていたとあり、偉大なる秀行さんと同列に論じるのはおこがましいですが、私も50代になってから棋力がかなり向上したので嬉しかったです。
依田さんのこれまでは、バカラという博打にのめり込んで借金作ったり、最近多い優等生型ではない、昔からの「棋士」という感じがして、私はむしろ好感が持てました。碁打ちは碁さえ強ければそれでいいと思います。

稲葉禄子の「囲碁と悪女」

稲葉禄子(いなば・よしこ)の「囲碁と悪女」を読了。依田紀基9段の自伝である「どん底名人」を買おうとしたら、Amazonが一緒に買いませんかとお勧めで出して来て、表紙と題名に負けて(笑)ついポチってしまったものです。
筆者は私は知らなかったのですが、囲碁界では有名人みたいで、以前NHKの囲碁講座のアシスタントとかNHK杯戦の司会をやっていたようです。また、懐かしい白江治彦8段の義理の娘さんでもあります。筆者は日本棋院の院生になったけれど、プロ棋士には成れず、囲碁のインストラクターをやっていて、その仕事を通じて色々な人と交流した記録です。囲碁関係の本ですが、棋譜とかはまったく出てこないので、囲碁を知らない人でも楽しく読めるというか、囲碁をむしろ知らない人にお勧めかも。故与謝野馨さんと小沢一郎氏の対局の話と、最後の「ソウタとオシカナ」のお話がお勧め。故与謝野さんはカメラマニアでもあってPentaxの645Dを持っていましたし、私と趣味が近いなと思いました。「ソウタとオシカナ」は、筋肉の癌という不治の病で命を落とす天才数学者とその病気を知っていて結婚した女性棋士の話です。