毛受敏浩の「自治体がひらく日本の移民政策 人口減少時代の多文化共生への挑戦」

毛受敏浩の「自治体がひらく日本の移民政策 人口減少時代の多文化共生への挑戦」を読了。かなり飛ばし読み。この本は「外国人労働者受け入れを問う」よりはましな内容と思いますが、正直な所、「多文化共生」といういわばきれい事を強調し過ぎと思います。どのような事にもポジティブな面とネガティブな面がありますが、この本はポジティブな事を中心にかかれており、ネガティブな懸念みたいなことに対しては、きわめて通り一遍の説明しか与えられていません。たとえば「移民が増えれば犯罪が増えるのではないか」という懸念に対しては、近年の外国人による犯罪が減少しているから問題ない、といったレベルで片付けられてしまいます。しかし、本格的に移民を受け入れ、外国人の永住者が今の10倍になった時に、果たしてその説明で、反対者を説得できるかというと、きわめて疑問です。
ただ、この本で良かったのは、国の移民政策の立案がほとんどされていない一方で、都市部よりもいち早く深刻な人口減少に直面している地方都市のいくつかが、外国人受け入れを真剣に検討し始めているというのがわかったことです。例として沖縄県や浜松市、あるいは北海道のいくつかの都市が挙げられます。
しかし、二冊読んでも相変わらず私が知りたいことを十分に知ることは出来ませんでした。

宮島喬、鈴木江理子の「外国人労働者受け入れを問う」

宮島喬、鈴木江理子の「外国人労働者受け入れを問う」を読了。人口が減少していく日本の対策としては、移民の積極的な受け入れを考えるべきで、それに向けての予想される諸問題をオープンに議論していく必要があると思いますが、残念ながら今の政治家にそういう気概のある人は見当たりません。ちょっとこの問題を自分で考えようと思って、2冊買った本の1冊がこの本。残念ながら本自体薄いですが、中身も薄かったです。大体「移民の是非を問う」ではなく、何故「外国人労働者受け入れを問う」なのか。タイトルからは、これまで日本政府が進めてきた、表ドアは閉じておいて、都合の良い時だけ期間を限定して外国人を労働者として使う、という発想しか見えてきません。私は日本のあらゆる産業がガラパゴス化している今、外国から人を受け入れ、日本文化の多様化を図る「第二の開国」が必要と思います。

ロバート・L・フォワードの「竜の卵」

ロバート・L・フォワードの「竜の卵」を読了。ハードSFとして、お友達のKさんのお勧めによるもの。感謝。前半ちょっとかったるい部分はありましたが、通して読んでみるとなかなかの作品と思いました。まず、表面の温度が8000℃、そして重力が地球の370億倍という、中性子星(パルサー)上に生物が発生しているという設定がすごいです。解説によると先行作品としてハル・クレメントの「重力の使命」があり、また1970年代に、パルサー上の生物の可能性は科学者の間で指摘されていたそうですが、しかしそれを実際に書くのはかなりの難度だと思います。フォワードはそれを見事にやり遂げています。また、いわゆる異星人とのファーストコンタクト物なのですが、パルサー上の生物であるチラーが人間より100万倍の時間感覚で生きているという設定が秀逸です。このために、コンタクト当初は遅れていたチラーが人間側が与えた情報を元に、人間時間でほんの数日の内にあっという間に人間を追い越してしまいます。ただ、マイナーな欠陥を指摘すると、たとえばチラーの姿形に関する描写が曖昧で、今一つ文章だけでその姿を具体的に思い浮かべることがうまくできなかったことです。もっともナメクジみたいなものかという予想は大体あたっていましたけど。「デューン」もそうだったですけど、本文だけで語りきれないで、巻末のおまけで解説するというのは、どうも私にはフェアではないように思えます。また、イエスキリストを思わせるような予言者が登場して、民衆に殺害されますが、このお話は全体の中では取って付けたような印象を受けます。そうは言っても、1960年代初めに生まれた私は、子供の頃色んなアニメとか漫画で(当時は平井和正、辻真先、豊田有恒、眉村卓、そして筒井康隆に至るまでの若いSF作家が黎明期のSF設定のアニメに台本を提供していました)、「科学技術の進歩による明るい先進的な未来」というのを刷り込まれているせいか、こうしたちゃんとしたSFを読むとちょっと安心します。

ディケンズの「クリスマス・キャロル」

ディケンズの「クリスマス・キャロル」を「英語で」読了。このお話のラジオドラマ(英語)を、高校の時英語の授業で使って、懐かしかったので改めて英語で読んでみたものです。よく知られた小説で、ストーリーも分かっているし、そんなに難しくないだろう、と思っていましたが、実際には知らない単語だらけで、結構苦労しました。それでもストーリーは分かっているので知らない単語を一つ一つ辞書で引いたりはせずに読み進めました。この小説が書かれたのは1843年で、日本で言えば天保年間の最後の年です。さすがにこれだけ昔の本だと今の英語とはそもそも語彙自体が違うように思います。後読んでいて感じたのは、結構韻を踏むような文章も出てくることでした。
この物語に出てくる、ボブ・クラチットの末の息子で、足の不自由なTiny Tim(これも韻を踏んでます)が、私は好きで、スクルージ爺さんが改心して、ボブの一家を助けてTiny Timを死の運命から救い、Tiny Timの第2の父のような存在になる、というお話が好きです。

NHK杯戦囲碁 趙善津9段 対 志田達哉7段

本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が趙善津9段、白番が志田達哉7段の対戦です。志田7段は私が一番注目している棋士です。布石は白が左上隅と左下隅で地を稼ぎ、その代わり左辺の白がやや薄く、この白に対してどのくらい攻めが利くかがこの碁の焦点でした。志田7段は左辺の薄みは放置し、右辺の黒の構えに深く打ち込みました。ここでの黒の打ち方がやや疑問で、壁石の穴を継がずに、下がって白への攻めを伺いましたが、白は右上隅へすべってあっさり治まってしまいました。黒は代償で厚みを得たので、すぐ左辺の白に厳しい攻めを決行すれば、まだ先の長い碁だったと思いますが、ここで黒は右下隅で地だけの手を打ちました。これに対し白は左辺でノゾキに放置していた所を継いで黒のワタリを促し、そして中央に一手備えて左辺の白を補強しました。黒はそれから攻めに行ったのですが、ちょっとチグハグでした。左辺の白は上辺の白に連絡しようとしましたが、その結果劫になりました。白は右辺から中央で継ぎを打ちましたが、黒はそれに受けずに劫を解消しました。白は黒石にカケを打ち、結果として包囲していた黒が取られ、白が活きただけでなく、元々黒の勢力圏だった所に白地が20目ぐらい出来ました。取られた黒は一応攻め取りで黒は締め付けを利かせて右下隅をまとめましたが、白の得た利益の方がはるかに大きく、白の勝勢になりました。その後ヨセが続きましたが、結局黒が投了しました。志田7段はこれで準々決勝進出です。

クリスマス・キャロル

高校がカトリックの修道会が経営する学校で、それが良かったと今でも思えるのが、クリスマス・キャロルを英語の歌詞で教えてもらったこと。今でも次のような有名なキャロルは英語で歌えます。
God Rest Ye Merry, Gentlemen
The First Nowell
Hark the Herald Angels Sing
Angels We Have Heard on High (Gloria in excelsis Deo)
Adeste Fideles
O Holy Night
O Little Town of Bethlehem
Joy to the World
We Three Kings
中でも、”God Rest Ye Merry, Gentlemen”は、やはり高校の英語の授業で使ったディケンズの「クリスマス・キャロル」のラジオドラマで、冒頭で子供たちがこのキャロルを歌い、それに対し強欲なスクルージ爺さんが子供たちを追い散らすシーンで今でも覚えています。
そういう訳でこの時期はクリスマス・キャロルのCDを買って楽しんでいます。上はルネ・フレミングの、左はキングスカレッジ合唱団の、右下はアンゲリカ・キルヒシュラーガーのです。

ピアノのCDの棚卸し

ピアノのCDの棚卸しをやりました。今までは作曲家順だったのを演奏家順にしました。以下が2枚以上持っているピアニスト。1位は意外にもマレイ・ペライアでした。確かに箱物を3つも持っているので…メジューエワが多いと思っていましたが、実はグレン・グールドの方がまだ多かった…

マレイ・ペライア 33
マウリツィオ・ポリーニ 31
マルタ・アルゲリッチ 29
グレン・グールド 20
スヴァトラフ・リヒテル 19
イリーナ・メジューエワ 18
内田光子 16
ヴィルヘルム・バックハウス 15
エレーヌ・グリモー 14
クラウディオ・アラウ 14
ルドルフ・ブッフビンダー 14
ウラジーミル・アシュケナージ 11
ダニエル・バレンボイム 11
マリア・ジョアン・ピリス 11
アリシア・デ・ラローチャ 10
サンソン・フランソワ 10
ベネディッティ・ミケランジェリ 10
ヴァレリー・アファナシエフ 7
ウラジーミル・ホロヴィッツ 6
エミール・ギレリス 6
ラザール・ベルマン 6
ラドゥー・ルプー 6
イングリッド・ヘブラー 5
クララ・ハスキル 5
バドゥラ=スコダ 5
アルフレッド・ブレンデル 4
河村尚子 4
クリスティアン・ツィマーマン 4
清水和音 4
ジャン=マルク・ルイサダ 4
ジョン・オグドン 4
辻井伸行 4
ファジル・サイ 4
ユジャ・ワン 4
ラン・ラン 4
アリス・紗良・オット 3
アンドラーシュ・シフ 3
イーゴ・ポゴレリチ 3
ヴィルヘルム・ケンプ 3
エフゲニー・キーシン 3
ソロモン 3
マルカンドレ・アムラン 3
レイフ・オヴェ・アンスネス 3
アルトゥール・ルービンシュタイン 2
ヴラディーミル・ソフロニツキー 2
スタニスラフ・ネイガウス 2
スタニスラフ・ブーニン 2
ディヌ・リパッティ 2
ラファウ・ブレハッチ 2

バッハのイギリス組曲第2番ジーグ

アルゲリッチの弾くバッハで一番好きなのは、「イギリス組曲第2番」の最後の部分であるジーグ。この曲では、楽譜に見られるような上昇音型(アナバシス)が何度も何度も互いに追いかけっこするように(つまりフーガ的に)繰り返されます。アルゲリッチの演奏だとこの上昇音型が「パパパパパパ…」と次々に現れては消えて、とても幻想的な効果を上げています。本当に「昇天する」ような気持ちになります。(バッハの音楽でこういった上昇音型が使われる時は、「昇天する」とか「山に登る」みたいな意味が伴われていることが多いです。)
ちなみにグールドのも持っていますが、グールドはこの曲をかなりのスピードで弾き飛ばしていて、この上昇音型がまったく目立たず、好きになれません。

Erin Meyerの”The culture map”

Erin Meyerの”The culture map”を読了。(日本語訳は、「異文化理解力」)
エリン・メイヤーは、フランスとシンガポールに拠点を置くビジネススクールであるINSEAD客員教授です。この本を知ったきっかけは、English Journalにエリン・メイヤーのインタビュー記事が載っていたことです。そのインタビューで、メイヤーが日本の企業について、日本はこの上ない階層社会だけど、決定プロセスは合議とコンセンサスに基づくもの(つまり稟議システムのこと)、そこで決定されたものはDecision(Big-D)でなまじ皆で時間をかけて決めたため、一度決まるとフレキシブルに変更することが難しい。一方でアメリカはフラットな平等主義の社会だけど、企業の決定プロセスはトップダウンで上から降ってくる。しかしそこで決まったものはdecision(small-D)で一度決めても状況が変わればすぐ変更される。といった内容に興味を覚えてこの本を買ってみたものです。
メイヤーは色々な国のビジネス文化を評価・比較するために8つのスケールを持ち出します。
1.コミュニケーションのやり方-簡単で直接的なコミュニケーションを良しとするか、高度な文脈を持った含蓄のある(けどわかりにくい)コミュニケーションが一般的であるか。
2.人の評価方法-ネガティブな評価をダイレクトに伝えるか、遠回しに伝えるか。
3.説得の仕方-原理原則で相手を説得するか(演繹的)、具体的な事実・意見を先に行って説得するか(帰納的)。
4.リーダシップのあり方-平等主義的なリーダーシップか階層的・権威的なリーダーシップか。
5.企業での決定方法-全員のコンセンサスを重視するか、トップダウンでの決定か。
6.人への信頼-あくまでビジネスライクか、個人としての付き合いをビジネスでも重視するか。
7.意見が違う時-対立的か、それとも全体の和を重視するか。
8.時間感覚-きちんとスケジュール化してそれに従うか、成り行きに任せてフレキシブルに対応するか。
日本については、
(1)この上ない程、高度な文脈を持ったコミュニケーション(空気を読む、忖度)
(2)ネガティブな評価はオブラートにくるんで直接的な非難の表現をほとんど使わない
(3)具体的な事実・意見を重視した説得プロセス、原理原則から論じない
(4)かなりの部分階層的で平等主義ではない
(5)コンセンサスを世界でもっとも重んじる
(6)仕事に割切った人間関係というより個人での関係をかなり重視する
(7)ともかく対立を忌み嫌うことでは最右翼
(8)かなり時間に几帳面で正確
となっています。
この本を批判するとすれば、(1)この8つの尺度を持ち出すのが適当であるかどうか(2)その尺度に従った各国の評価がどの程度当てはまっていて、またその国全体に一般化してOKかどうか、という点で可能と思います。私の意見では(1)についてはこの8つはかなりいい線を行っていて、実際にビジネスを行っていく上で非常に重要な尺度が良く集められていると思います。(2)については、個別の会社ではそれぞれ文化が違いますし、過度な一般化は危険なようにも思いますが、ある程度は参考になる評価だと思います。細かく見ると、8.の時間感覚で、ドイツの方が日本より時間にシビアで正確となっているのはまったく納得できませんが。(ドイツに行ってドイツの鉄道の運行時間の適当さにはうんざりしましたから。)また、日本の「コンセンサスを重んじる」ってのは、ちょっと稟議制だけを見た表面的な見方のようにも思います。
ともかく、中にちりばめられた具体的な文化の違いによるビジネス上のトラブルがとても面白く参考になります。たとえば欧州の人とアジアの人を集めたチームで、最初懸念された「欧州人対アジア人」ではなく、実は「中国人対日本人」の対立が一番問題になったとか。(8つの尺度で比較すると、中国と日本は実は同じアジアの国でありながらかなり違います。)国際的なビジネスに携わる人にとっては、ある意味必読の本と思います。
なお、オリジナルの英語版で読みましたが、辞書を引かなければならないのは1ページ辺り1~2回のレベルであり、Newsweekの記事なんかに比べるとはるかに読みやすいです。

アルゲリッチのバッハ、SACD

今日は自分へのクリスマスプレゼント。アルゲリッチの弾くバッハについては、学生時代にドイツからの輸入盤のLPを買い、長く私の愛聴盤です。演奏も素晴らしいですが、録音も故長岡鉄男が別冊FMファンの「外盤ジャーナル」で取り上げる程のレベルで、高音の冴えた音の粒がそろったきわめて魅力的なものでした。しかしこのLPについてはあまりに聴きすぎたために、あちこち傷が入り、またゴミを取ろうとして木工用ボンドを使ってクリーニングした際に剥がすのに失敗して一部ボンドが残ってしまう、というかなり悲惨な状態になってしまっていました。アルゲリッチの演奏ですから当然CDは出ていてそれも持っているのですが、CDの音は高音がぼやけて音の粒もはっきりしなくなった、LPに比べればかなり落ちるものでした。そういう訳で長らくこの演奏のSACDが出るのを心待ちにしていたのですが、ついにエソテリックからSACDが発売されていました!早速聴いていますが、SACDの音はCDよりかなり上質で、かなりLPでの再生に近い感じです。エソテリックさん、有り難う!