PCL86-各ブランド毎のハードウェア形状比較

PCL86の各ブランドを良く見ると、ハードウェアの形状という意味で結構色々違っています。6つの部分にて仕様を比較してみました。結果的にどことどこのが同じ仕様、同じ製造場所の物なのかが分かったように思います。
結論としては、以下のようになりました。異なる仕様の数は10種類でした。
1.PhilipsとSiemensは同じ仕様、それに準じてEIとMullardは上部ゲッター部材の形状のみ異なります。これら4社は同一グループと言って良いと思います。
2.Mazda(UK)はPhilipsとはまったく異なります。これに対しMazda(仏)は両者の混ぜこぜ仕様です。
3.Lorenzは10本はPhilipsと同じ。SELで1本、ITTで1本だけ異なる仕様のものがあり、それもSELとITTでそれぞれ違います。
4.HaltronとTungsramは同一仕様。
5.EdicronとEuropa80も同一仕様。
6.ValvoとPolampはPhilipsとも異なり、またこの2つ双方でも違います。

私がPCL86を使っているのは超三結アンプで、超三結は真空管による差が出にくいと言われています。(100%NFをかけたのに近いため。)しかし、これだけハードウェアの形状が違うと音も当然変わってくると思いますし、実際にこれまで数種類試した限りでは確実に音の差はあります。

P.S. 最初上部の円盤またはリングを放熱用かと思っていましたが、これは蒸発型ゲッターといって高周波加熱でタングステンやバリウムを蒸発させてガラスの内側にゲッター層を作り、これが余分なガス類を吸着して真空度を保ちます。また、同じく上部のフィンみたいなのも、私は放熱フィンかと思いましたが、おそらくこれもゲッターです。リボン型のゲッターは真空管の初期からありました。現在でもサエスという会社から、ストリップ型ゲッターというものが販売されています。→(2022年1月21日追記:と思ったら、グリッドが熱くなりすぎるとそこから電子が出てきて{グリッドエミッション}真空管としての動作がおかしくなるので、それを防止する放熱フィンがJJの300Bの一世代前のものなんかに付いています。そちらかもしれません。)

手持ちのPCL86のブランド

手持ちのPCL86のブランド別。これだけ持っている人はそんなにいないと思います。入手先はeBay、ヤフオクと、イーケイジャパン(エレキットの会社)の販売サイト(エレキットにPCL86シングルアンプがあるのでその保守部品として売っています。但しマッチドペアでは販売されていません。)。
1.LORENZ/ITT ドイツのLorenzがITTに買収されたもの。Lorenzの真空管は第二次世界大戦のドイツ軍の通信機器にも使われたようです。戦後はラジオ用がメインのようです。
2.LORENZ 1.と同じでしょうが、ITTが書いていない箱もあります。
3.POLAMP ポーランドの会社。現在一番多く出回っているものです。会社(国営電球メーカー)はもう無くなっており、出回っているのは昔(1960~1970年代)製造したものだと思います。東欧では真空管のカラーTVがかなり後まで製造されていたみたいで、箱単位で未使用のが売られている場合があります。(PCL86のような複合管は、白黒TVに比べ大量の真空管が必要なカラーTV用として開発された例が多くあります。PCL86の原型である6GW8{ECL86}はまさにカラーTVの音声出力用に開発されたみたいです。PCL86でヒーターが14Vになったのは、トランスレスのラジオ用ではないかと思います。トランスレスのラジオでは、使う真空管のヒーターを直列に接続して、100V、115V、250Vにしていました。なので少しでもヒーター電圧が大きい方が使いやすかったようです。例えば日本の1960年前後のトランスレスのラジオは整流管を含めて5本の真空管を使い、そのヒーター電圧は12V+12V+12V+30V+35Vで合計101Vでした。)
4.Mullard イギリス。技術的にはフィリップスから供与を受けたものではないかと思います。
5.Edicron これもイギリスの商社で製造はどこか別の国と思います。EIその他複数の製造元があるようです。
6.SIEMENS ご存知ドイツのシーメンス。
7.Philips オランダ。おそらくPCL86の元祖だと思います。
8.HALTRON イギリスの商社のブランドのようです。
9.VALVO ドイツ製です。会社はもうありません。品質の良さで定評があったようです。一部のテレフンケンの真空管はVALVOのOEM供給品だそうです。
10.TUNGSRAM ハンガリー。真空管製造のもっとも古い会社の一つのようです。
11.EI ユーゴスラビア。音の工房のアンプキットに付いていたものなので箱はありません。このEIも比較的沢山市場で見かけます。テレフンケンの製造ラインを引き継いだという話と、逆にテレフンケンの偽物として流通していたという話があります。
12.MAZDA(1)MAZDAはGEの真空管・電球のブランド名です。日本では東芝がいわゆるマツダランプを販売していました。これはMazda Electroniqueというフランスの電球会社の製品のようです。
13.MAZDA(2)販売はThorn-A.E.I. Radio Valves & Tubes, Ltd.で調べてみたらBrimarの子会社みたいです。
14.EUROPA80 ドイツのゾーリンゲンの会社。商社だと思います。
その内、ハードウェアとしての構造上実質的に何種類あるか、調べてみるつもりです。

各社PCL86の内部構造の違い

以前オークションで集めた色んなブランドのPCL86を良く眺めて見ると、同じ規格の真空管にもかかわらず、各社でかなり構造が違うことに気が付きました。例えば真空管の一番上の円盤みたいになっている部分がシーメンスだと文字通り中が詰まった円盤ですが、EI(ユーゴスラビア)だと、金属の輪っかです。またその円盤部を支える縦の金属部も、ITT Lorenz(ドイツ)、Tungsram(ハンガリー)、Polamp(ポーランド)で3社3様で太さがまるで違います。またITT LorenzとTungsramは中にロット番号と思われる数字が入った四角のプレートが入っていますが、ITTがほぼ正方形を垂直に立てているのに、Tungsramのは45度に傾けて立てています。こういう物理的な構造の違いって、必ず音質の差となって現れると思います。いつか全部聴き比べして違いを評価してみたいですね。このPCL86というのは真空管の時代の最後期に作られたもので、技術的には色々と進んでいたみたいです。

PCL86の超三結アンプ、発振音解消

音の工房のPCL86超三結アンプ(キットの部品大幅改)ですけど、KriptonのKX-1.5をつなぐと、かすかですがボリューム位置によって「ピィー」という発振音がします。スピ-カー端子にスパークキラーを並列につないでみましたが、効果がありませんでした。試しに出力管(PCL86)を現在のITT LorenzからPhilipsに交換してみたら、これがバッチリで、見事に発振音は消えました。

真空管アンプの棚卸しの最後-JB300B Ver.3

真空管アンプの棚卸しの最後、サンバレー(キット屋)のJB300B Ver.3です。一番最初に組立てた真空管アンプです。このアンプのせいで真空管や300Bの音が「甘い」と誤解をすることになったアンプです。まだこのアンプにPSVANE WE300Bを刺して聞いてなかったのでやってみました。悪くは無いですが、音が雑で余計な残響がくっついているような音になりました。このアンプは通電していると、いつ故障するかと冷や冷やします。実際に中のセメント抵抗がグリスが染みだしたようになっていて劣化していますので。かといって今さらこれの部品を総取っ替えして音質向上を目指そうという気にもちょっとなれないです。

P.S. 2時間ぐらい聴いたら演奏中に勝手にフェードアウトして電源のパイロットランプが消えて音が出なくなる現象が出ました。一旦電源を切って何分か後にONにするとまた音が出ますが、その後10分くらいで駄目。おそらく電解コンデンサー辺りが死にかけているのかと。→廃棄することにしました。やはりここの真空管アンプは耐久性に欠けるということがまたも実証されました。

さらに真空管アンプの棚卸し-エレキットのTU-8200R

真空管アンプの棚卸しは続きます。今日はエレキットのTU-8200Rです。元々は6L6GCシングルアンプですが、このアンプはバイアス電圧の自動調整機構が付いていて、まったく調整無しで、KT66、KT77、KT88、EL34、5881などのオクタルピンの各種ビーム管・五極管に差し替え可能です。それで今挙げた真空管は全てペアで持っています。こういうのを球転がしといって、なかなか楽しいですが、気を付けないと真空管のソケットというのは、そんなに頻繁に抜き替えることを想定していませんので、やり過ぎるとソケットが壊れます。後それから、NF(負帰還)をかけたアンプでは、出力管を変えても音の変化というのはほんの微差です。ブラインドテストをやったら聴き分けられる人はほとんどいないでしょう。
このアンプは出力管が差し替えられる以外に、増幅の方式として、普通の五極管接続、ウルトラリニア(UL)接続、三極管接続に、ジャンパー線の変更で切り替えられます。なので真空管入門としては最適のアンプだと思います。価格はキットで実売6万7千円くらいです。エレキットの真空管アンプはプリント配線板を使っていますので、組立てるのが楽ですし、マニュアルも非常に良く出来ています。

トライオードのTRV-88SER

なんか年末大掃除じゃなくて、手持ち真空管アンプ棚卸しみたいになって来ました。これはトライオードのTRV-88SERです。KT88のプッシュプルで35W+35Wのプリメインアンプです。さすがにこれだけパワーがあると余裕を持ってゆったりと鳴ります。300Bみたいな繊細な感じではなく、大らかに包み込むような音で、オーディオマニアより音楽ファン向けのアンプです。作っているのは中国ですが、品質は非常に良いです。ただリモコンの電池ボックスだけはリード線付きの市販品そのままでこれはちょっといただけませんが…初めての真空管アンプにお勧めです。といっても18万円弱くらいしますが、私は逆に手配線のアンプで、よくこの価格で出せるなと思います。

超三結アンプ再び

真空管アンプを聴きなおしが続いています。今日の組み合わせはこれ。
LUXMAN CL-38uC + 音の工房 SK-60KT(PCL86超三結アンプ)。
これがなかなかいいです。超三結アンプは前は高音の独特の輝きみたいのが強すぎる感じがありましたが、しばらく聴かないでいたらそれなりに熟成したように感じます。私としては全段差動プッシュプルアンプよりもこちらの超三結アンプの方が音としては好みですね。定位とか音像の実在感は全段差動プッシュプルアンプがいいですが、何というか全段差動は音が太めな感じで、真空管アンプらしさが減じているように思います。
超三結は3W + 3Wで現代スピーカーを鳴らすには非力ですが、CL-38uCが上手く補ってくれる感じです。この超三結アンプは音の工房のキットの部品を7割方取っ替えて、私なりにベストの音を出そうとして作ったものなので思い入れがあります。良く超三結アンプの音をドンシャリと評する人がいますが、私に言わせれば普段真空管アンプのカマボコ形の周波特性の音ばかり聴いているから、超三結の音がドンシャリに聞こえるんだと思います。私としては超三結アンプの方が自然な音に聞こえます。

久しぶりに全段差動プッシュプルアンプ

明日、冬用のタイヤに交換するのでタイヤを取りに行ったついでに、4ヵ月ぶりに全段差動プッシュプルアンプを持ってきました。ルネ・フレミングのクリスマスアルバムを聴いています。久しぶりですけど、これはこれでいい感じです。全段差動らしく定位は非常にいいですが、300Bシングルに比べるとちょっと音が太め、という感じがします。

真空管アンプで低能率な現代スピーカーを鳴らすには

このブログで何度も紹介していますが、何故かインターネット上で他に見かけることがないので、改めて独立記事として書いておきます。
真空管アンプ(パワーアンプとプリメインアンプ)をこれまで7台使った経験があります。真空管アンプの最大の欠点は能率(出力音圧レベル)の低い現代スピーカーを上手く鳴らせない場合が多いことです。特にシングルアンプは厳しいです。ここで能率が低いスピーカーとは、出力音圧レベルで87dB/W・m以下ぐらいが目安になります。上手く鳴らせない、というのを現象で言えば、再生音の高音で音割れがすることです。特にピアノの高音の強打で顕著です。誰が聴いても分かるひどい音です。
この現象を回避する手段が一つあります。アクティブなサブウーファーを追加することです。私はFostexのサブウーファーを3種類(CW250A、PM-SUBmini2、PM-SUB8)持っていますが、どれも効果があります。これによって今まで盛大に割れていた再生音がぴたっと正常になります。但し、Fostex以外のサブウーファーでは確認していません。
このサブウーファーの追加で音割れが無くなる理由ですが、以下は私の推定です。サブウーファーを入れると、100Hz以下などの低域の信号が多くサブウーファー側に流れるようになり、真空管アンプに流れる低域の信号が減ります。これにより、パワーの無いシングルアンプなどで低域を無理して再生することで高域が歪んでいた(つまり低域の歪で高域が揺すぶられた混変調歪)のが無くなるということだと思います。この方法で、3W+3Wのシングルアンプが出力音圧レベル86dBのスピーカー(KriptonのKX-3P)を問題無く鳴らせています。
なお、今回PSVANE WE300Bを入れたエレキットのアンプ(TU-8600S、9.2W+9.2W)ですが、能率88dBのKriptonのKX-1.5は問題無く鳴らせますが、能率85dBのTannoyのAutograph/mini GRを鳴らすとやはり高音が割れます。しかしPM-SUBmini2をかませることで問題無く再生出来るようになります。
この事実があまりWeb上で出ていない理由ですが、真空管アンプを使っている人は、アクティブなサブウーファー(通常D級アンプ)という真空管アンプ以外のアンプを追加することに抵抗があるのだと思います。私は以前からハセヒロのブックシェルフタイプのバックロードホーンの低音が不足するため、元々サブウーファーをずっと使って来ています。
なお、真空管アンプの音割れはシングルアンプだけではなく、出力30W+30W程度のプッシュプルアンプでも発生することがあります。この場合もサブウーファーの追加でOKになります。