本日のNHK杯戦の囲碁は黒が湯川光久9段、白が潘善琪8段の対局です。潘善琪8段は6年ぶりのNHK杯戦出場で、前回負けた相手が奇しくも湯川9段で雪辱を期しての対局です。布石は双方が小目を打ち合い上下対称の形です。白は左上隅から延びた石が厚みとして働くのか、それとも攻められる石になるのかが焦点でした。しかし左下隅から左辺にかけての折衝の結果、白は左辺に潜り込みましたが、黒からツケコシを打たれ、2つに分断されてしまいました。しかし白は当たりにされた4子を捨てることで、全体を連絡する手を残しました。しかし白の潘8段の判断は下辺から右下隅にかけての模様を盛り上げることで、左上隅の白の切断を放置して下辺を打ちました。黒はこの白を切っている暇はなく、まず右辺から白模様を制限する手を打ち、白が受けた後に、右下隅の白の大ゲイマジマリに手をつけていきました。これに対し白は黒を隅に閉じ込めて活かすのではなく、黒全体を殺す手を選びました。結果として黒のしのぎはうまくいかず、打った黒全体が取られてしまい、ここで勝負がつきました。局後の検討ではもっと難しくする打ち方があったようですが、それでも黒がしのげていたかどうかははっきりしませんでした。白の中押し勝ちで、潘8段は雪辱を果たしました。
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NHK杯戦囲碁 王銘エン9段 対 本木克弥7段
本日のNHK杯戦の囲碁は新しい期になって1回戦の第1局。黒が王銘エン9段、白が本木克弥7段の対局。黒は3手目でいきなり大高目で、初めて見ました。ただその後2間に締まったので普通の布石に戻りました。黒は上辺と下辺に展開しましたので、白は右辺にワリウチから2間に開きました。黒はここで左下隅の星からケイマした白に肩付きしました。白が下を這って受けたのに黒は手抜きで右辺を打ちました。白はすかさず下辺に展開し、黒の肩付きを悪手にしようとしました。黒は右辺の白を攻める展開になりました。しばらく右辺の攻防がありましたが白は手を抜いて上辺の左上隅にかかりっぱなしの黒を1間に挟みました。黒はこの石を動いて挟んだ白を攻めようとしましたが、ここで単純な2間開きではなく上辺の黒に付けていった白の手が機敏でした。結果として上辺の白は眼二つの活きになりましたが、右上隅の黒も、上辺左の黒も味が悪く、ここで白が一本取りました。その後黒は左辺に打ち、左上隅の白を封鎖しようとしました。そこで白は上辺左の黒の味悪を追及していきましたが、そこは黒がうまく打ち、白は大した戦果は上げませんでしたが、黒1子を取っての厚い活きが残ったのはメリットでした。黒はその後右辺の白への攻めをしつこく狙いましたが、白にあっさりかわされて、左辺に先着されてしまいました。そのため左辺の黒が攻められ、その代償に左下隅から左辺で白に大きな模様を築かれてしまいました。ここが全部白地だと黒は負けなんで黒は三々に打ち込みました。この黒が活きるか死ぬかで勝ち負けが決まることになりましたが、本木7段は的確に受けて黒を全部取ってしまい、なおかつ下辺の黒5子も取りました。これで勝負がつき、本木7段の中押し勝ちになりました。
ワールド碁チャンピオンシップ DeepZenGo 対 井山裕太棋聖
ワールド碁チャンピオンシップの、DeepZenGoと井山裕太棋聖の対局を、ニコニコ動画で鑑賞。DeepZenGoが先番で、3手目でいきなり白にかかっていったのが珍しく、その後白は上辺を中心に打ち、黒4子を大きく取り込んで成果を上げました。その後も右下隅の地を取り、また左下隅にも白が侵入して、うまくさばいて左辺に地を作りました。この辺りまで白が良かったと思いますが、黒も中央が厚く、かなり細かい勝負になってきました。そのため、白の井山棋聖は右上隅で劫を仕掛けました。この劫立てで、右辺を打ったのが小さく劫は黒が勝って振り替わりとなりましたが、この収支は黒が得でした。結局終わってみれば、黒の5目半以上の勝ちで、井山棋聖の投了となりました。DeepZenGoは中国・韓国の棋士には連敗したのですが、ヨセで乱れなければどちらも勝っていた対局でした。開発者の話によると、主にネット碁でチューニングしたのが、ネット碁では細かいヨセになるような対局が少なく、ヨセに関するチューニングが十分できていなかったということです。この辺りをきちんと修正すれば、少なくとも人間の棋士にはもう負けなくなるように思います。
王銘エン9段の「囲碁AI新時代」
王銘エン9段の「囲碁AI新時代」を読了。アルファ碁と、Zen及びそのディープラーニングを採り入れた強化版であるDeepZenGo、そしてアルファ碁の強化版であるMasterを取り上げ、棋譜を分析したものです。王9段といえば、隅よりも辺を重視する独特の棋風を持ち、その打つ囲碁は「銘エンワールド」として高く評価されています。また、ゴトレンドという台湾の囲碁ソフトの開発チームにも参加しています。Masterはアルファ碁の強化版ですが、王9段に言わせると、どちらかというとスマートな打ち方であったアルファ碁に対し、より戦闘的になったということです。また厚みを高く評価するアルファ碁に対し、より地に辛くなったということです。それに対し、日本発の囲碁ソフトであるDeepZenGoは、ディープラーニングを採り入れてかなり強くなりましたが、元々Zenが持っていた戦闘的でねじり合いに強いという特長が残っているとのことです。もうすぐ井山裕太棋聖とDeepZenGoの対戦があるので楽しみです。また、印象的だったのは人間がコンピューターに棋力で抜かれたのについて、写真が出てきて絵画がそれまであった「どれだけ似せられるか」という点から開放されて自由になった、というのを挙げていることで面白い比較だと思います。また、これからのコンピューター囲碁の課題としては、これまでは人間の棋譜を参考にしていますが、今後はどれだけコンピューター独自の手を打っていくようにするかだ、ということです。そうなって初めて囲碁の打ち方の本当の革命が起きるのだと思います。
斉藤康己の「アルファ碁はなぜ人間に勝てたのか」
斉藤康己の「アルファ碁はなぜ人間に勝てたのか」を読了。といっても、斜め読みで、AIの歴史みたいな所はかなり飛ばして読みました。「アルファ碁」とは何かというと、この本によれば、「畳み込みニューラルネットワーク+モンテカルロ木探索」だということです。2000年代に入って囲碁ソフトが飛躍的に強くなったのはモンテカルロ法を採用してからですが、私はいくらコンピューターが進歩したといっても、囲碁の膨大な手数を全部試して勝敗を判定するなんて、一定の時間内に可能なのか、疑問に思っていました。この本によると、モンテカルロ法といっても、全ての手を読んでいるのではなく、ツリー検索と組み合わせて有望そうな手の周辺だけを読んでいるとのことでした。それが「モンテカルロ木探索」です。ここまでは今までの囲碁ソフトも同じですが、アルファ碁の特長はそれに「畳み込みニューラルネットワーク」を組み合わせたことで、KGSというネット碁会所での強い人の棋譜データ16万局分を学習して、「次の一手」をできるだけ正しく打つようにしたものです。この意味でアルファ碁の打ち方は人間の延長戦上にあり、決して突飛なものではありません。実はモンテカルロ木探索無しでも、アルファ碁は80%以上の確率でプロ棋士とほとんど同じ「次の一手」を打つそうです。アルファ碁に悪手が少ないのは「ニューラルネットワーク」のお陰で、また時に人間に理解ができない手を打つのは「モンテカルロ木探索」の結果でないかということです。
この作者は囲碁の実力は10級とのことなので、囲碁の方から見ての深い分析はありません。プロ棋士から見た本として、王銘エン9段の「囲碁AI新時代」が3月15日に発売予定であり、予約しています。
なお、先日たまたまFacebookで「巡回セールスマン問題」の話をしましたが、実はこれを解くアルゴリズムと囲碁ソフトのアルゴリズムは一部共通性があるとのことです。
読売新聞社の「第二十二期棋聖決定七番勝負 激闘譜 棋聖趙治勲 挑戦者碁聖依田紀基」
読売新聞社の「第二十二期棋聖決定七番勝負 激闘譜 棋聖趙治勲 挑戦者碁聖依田紀基」を読了。依田紀基が碁聖を3連覇した勢いをもって、初の三代タイトルである棋聖位をかけて、趙治勲名誉名人に挑戦した戦いです。依田紀基は若い時から名前が通っていて、よく故藤沢秀行名誉棋聖の教えを受けていました。で、初めての二日制の七番勝負になりましたが、依田の方が二日制の対局に慣れていない感じで、出だしから3連敗します。しかし、そこから盛り返して2勝しますが、第6局では依田が形勢を楽観していて、守りの手を打って負けてしまいます。結果的に4勝2敗でしたが、内容を見れば依田は決して趙治勲名誉名人に負けていなかった感じです。その事は2年後の名人戦で、趙治勲名誉名人に勝って初の名人位を獲得したことからもわかります。
NHK杯戦囲碁 一力遼7段 対 井山裕太棋聖 (決勝戦)
本日のNHK杯戦の囲碁は、いよいよ決勝戦で一力遼7段の黒番、井山裕太棋聖の白番です。どちらが勝っても初優勝になります。対局は右上隅で黒がかかって来た白を一間に挟んだのに、白が両ガカリで挟み返したのが珍しい打ち方でした。上辺の白は黒石一子を抱えて治まりましたが黒は当てと継ぎを利かしました。この後、白はこの黒3子を攻撃目標にして全局を組み立てていきました。白は左辺の黒にもたれていき中央を厚くし、上辺から中央に延びる黒を狙っていきました。黒はこの大石から左辺に向かって一間に飛びましたが、これがある意味疑問手で白に上からのぞかれてしのぎが見えなくなりました。黒は包囲している右側の白にアヤを求めて打ち、結果的には白の包囲網を破り、白2子を取って活き、上辺3子も連れ戻すことが出来、ここでは黒が優勢になったかと思いました。しかし白は右辺の黒模様になだれ込んでおり、また黒が活きたことにより薄くなった左上隅も下がりを打って頑張りました。手を抜いた右辺の白は攻められましたが、井山棋聖はここで見事にしのぎました。その後黒の一等地である右下隅の折衝になりましたが、ここでも白の打ち方が冴え、かなり黒地を減らすことに成功しました。その後、逆に黒が下辺の白地を荒らしにいきましたが、井山棋聖は無難に切り抜けました。これで白が勝勢になりました。その後白は右下隅の黒をいじめ、黒が頑張ったので結果的に劫になりましたが、この劫に負けても包囲している白は活きており、ここで黒の投了になりました。井山棋聖はNHK杯初優勝です。これで国内の公式タイトルを全て一度以上獲得したことになりました。スーパーグランドスラムとでもいうべきでしょうか。この後、井山棋聖と一力7段はアジアTV早碁選手権に出場になりますが、頑張って欲しいものです。
読売新聞社の「第二十一期 棋聖決定七番勝負 激闘譜 棋聖趙治勲 九段小林覚」
読売新聞社の「第二十一期 棋聖決定七番勝負 激闘譜 棋聖趙治勲 九段小林覚」を読了。二人の三年越しの棋聖戦での対決の最後の年。1年目は小林覚が勝利して棋聖位をもぎ取り、2年目にすかさず趙治勲がタイトルを奪い返し、決着の3年目。この棋聖戦が始まる直前までの二人の対戦成績は小林覚から見て18勝19敗とほぼ互角でした。しかしながら、第1、2局と趙が連勝し、小林が第3局で一矢報いたものの、第4、5局とまた趙が連勝し、ある意味あっけなく趙の防衛が決まりました。最終局は小林にとっては惜しい一戦で、ヨセに入るまで白の小林がリードを保っていましたが、左下隅へのハネツギにかけついだのが一路違っていたためにその後黒からの先手のヨセを喰い、折角の好局を逆転されてしまいました。趙治勲名誉名人はこの前年、二度目の大三冠を達成しており絶好調でした。小林覚は敗れたとはいえ、全盛期の趙治勲名誉名人に互角に近い所まで戦ったということで、十分評価される内容だと思います。小林覚九段は、2007年の第31期棋聖戦でも挑戦者として登場しますが、この時も棋聖位は奪取ならず、今の所棋聖位は1期だけに終わっています。
読売新聞社の「第二十期 棋聖決定七番勝負 激闘譜 棋聖 小林覚 挑戦者本因坊 趙治勲」
読売新聞社の「第二十期 棋聖決定七番勝負 激闘譜 棋聖 小林覚 挑戦者本因坊 趙治勲」を読了。趙治勲と小林覚の、3年に渡る棋聖戦での激闘の2年目です。棋聖戦というのは不思議な棋戦で、一度棋聖になった棋士は何期も続けて棋聖を防衛するケースが多く、2016年まで棋聖戦は40回行われていますが、棋聖になった棋士はわずか9人です。(藤沢秀行、趙治勲、小林光一、小林覚、王立誠、山下敬吾、羽根直樹、張栩、井山裕太)趙治勲名誉名人は、19期に小林覚に2勝4敗で敗れ棋聖位を渡してから、すぐに次の年に挑戦者になって晴れ舞台に帰ってきます。これは簡単にできそうでなかなかできないことです。棋聖戦の40年の歴史で趙治勲名誉名人だけです。19期の棋聖戦では、小林覚が木谷門下の棋士で初めての年下の挑戦者ということがあって、色々気持ちの上で戦いに徹しきれない点があったのと、また秒読みで多く間違えたのが趙の敗因でしたが、この20期はそれをきっちり修正してきます。出だしこそ小林が1勝しましたが、その後趙が3連勝します。しかし、小林もその後粘り、ついに3勝3敗のタイにこぎつけます。こういう場合、最終局は追いついてきた方が有利な場合が多いのですが、この時の趙は黒の小林の大模様に斬り込んでいくような手を打ち、見事しのぎきって勝ちを納めます。小林覚は残念ながら防衛ならず1期で棋聖の地位を明け渡してしまいます。しかし、次の年、再度挑戦者として趙の前に立ちはだかったのは小林でした。
読売新聞社の「第十九期棋聖決定七番勝負 激闘譜 趙治勲棋聖 小林覚9段」
読売新聞社の「第十九期棋聖決定七番勝負 激闘譜」を読了。趙治勲棋聖に、小林覚が挑戦したもの。実はこの19期、20期、30期はこの2人の3年連続の対決になります。囲碁の7大タイトルでの3年連続同一カードは、以前紹介した本因坊戦での趙治勲対小林光一、そしてこの棋聖戦での趙治勲対小林覚、天元戦での河野臨対山下敬吾、そして再び棋聖戦でつい最近の井山裕太対山下敬吾というのがあります。
小林覚はこの時棋聖初挑戦で、4勝2敗で見事に趙治勲から棋聖を奪取します。趙治勲名誉名人がそれまで戦ってきた同じ木谷一門の棋士は、大竹英雄、加藤正夫、武宮正樹、小林光一などすべて年上でした。しかしながらこの時初めて、同じ木谷一門の棋士で3歳年下の挑戦者を迎えます。これでやりにくかったのか、趙治勲名誉名人らしい粘りがなく、1日目で投了せざるを得ない見損じをしたり、またシチョウを見落としたりして、特に秒読みになった時の正確さが無くなったと言われました。大して小林覚は読みがさえ、2勝2敗の後、あっさり連勝して、大タイトルを手にします。