NHK杯戦囲碁 井山裕太6冠 対 余正麒7段

本日のNHK杯戦の囲碁は黒番が井山裕太6冠王、白番が余正麒7段の対局です。この2人はついこの間、王座戦挑戦手合を戦っていますが、井山6冠王の3連勝で終わっています。余7段はまだ井山6冠王に勝ったことがないとのことです。対局は井山6冠王が小目をたすきに打ったのに対し、余7段が4手目で左下隅にかかり、井山6冠王は右下隅を放置したまま左上隅にかかり返しました。左上隅の定石の折衝で井山6冠王は途中で手抜きし、右下隅を打ちました。この結果、白は左上隅でかなりの実利を得ました。しかし黒は上辺から右上隅を地にしようとしています。白は右上隅に対し1間高ガカリをし、黒は下につけました。これに対し白はなだれていきました。小ナダレ定石になるかと思いきや、白は跳ねている黒を切る所を切らないで下から当てました。この手が解説の依田紀基9段によれば、江戸時代以来の囲碁の歴史で初めての手ということです。でも、なだれていく打ち方は昭和になって初めて打たれたのであって、江戸時代にはなかった打ち方だと思うんですが…ここの折衝で白は黒の跳ねた所に切り込んでいきましたが、その後更に追求せず、あっさり切った3子を捨ててしまいました。この結果は、黒が25目ほどの確定地を得たのに対し、右辺に展開した白はまだはっきり活きておらず、この結果は明らかに黒良しでした。その後白は左下隅で黒の石に対し大斜にかけました。これに対し黒はコスミツケの簡易型を選択しました。その後白は右下隅につけていき、ギリギリの手を打ったので、黒からは白を丸取りにする手がありましたが、黒は手厚く白を活かしました。その後黒は左辺で左下隅の白に目いっぱい迫る手を打ち、隅への置きを決行し、白地を削減するのと同時に白の眼を奪いました。その後の折衝で中央が劫になりましたが、劫のやり取りの中、白は黒の中地を破りましたが、黒も右下隅の白を取りました。その後しばらく打って白は投了しました。黒は終始巧みに打ち回し、白にはつけいる隙がありませんでした。

ホン・ミンピョ他の「人工知能は碁盤の夢を見るか? アルファ碁 VS 李世ドル」

「人工知能は碁盤の夢を見るか? アルファ碁 VS 李世ドル」を読了。アルファ碁と李世ドルの対戦については、これまで棋譜をじっくり眺めておらず、今回初めて全局の棋譜を見ました。碁盤に一手一手並べた訳ではないのですが、アルファ碁が決して完全なソフトではないことはわかりました。多くの人は、コンピューターは部分の読みで人間に優り、人間は全体の構想力でコンピューターに優ると思われると思いますが、5局の棋譜を眺めた限りでは、実際は逆です。コンピューターは決していつも部分的に正しい手を打っている訳ではなく、李世ドルの読みや他の棋士が後から発見した手の方が良かったケースが何度もありました。また第4局で李世ドルの「勝着」となった白78の「神の手」も正しくコンピューターが応じていれば成立していませんでした。むしろコンピューターが優れているのは数手のセットで、人間が考えつかないような構想を見せてくれた所で、囲碁というゲームの奥深さがいっそう明らかになったように思います。また、第1局から第3局までは李世ドルはほとんどいいところがなく、コンピューターにやられっぱなしでしたが、第4局で初勝利し、第5局も惜しい戦いでした。このことは、李世ドルがアルファ碁との戦いに慣れてきて学習効果が出てきたことを意味します。もし、5局で終わりでなく、さらに対局が続けば李世ドルがもっと勝つ場面があったように思います。また、持ち時間が2時間というのも人間にとって不利です。アルファ碁の打ち方は、間違いなく人間が打った碁をベースにして学習したものですし、第4局で見せた明らかにバグであるような2手もあって、まだまだこれからという風に思いました。オセロも今は人間はとても勝てないですが、森田オセロが出てきた頃は最初の頃は人間に連勝していても、やがて研究されて人間の勝率が良くなった、ということもありました。コンピューター囲碁もまだこの段階で、完全に人間がコンピューターに負けたという段階までにはまだ来ていないように思います。

NHK杯戦囲碁 伊田篤史8段 対 本木克弥7段

本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が伊田篤史8段、白番が本木克弥7段の一戦です。この碁は序盤の下辺での戦いがほとんどすべてでした。黒は右下隅から延びた石の形に隙があり、白から両切りを狙う筋がありました。白は下辺から延びる石で普通中央に一間に飛ぶのをケイマに打って、この筋を強調しました。しかし黒は受けなかったので、白はすぐに狙いを決行したのですが、まず黒の一間飛びの所に覗いたのが手順前後で、黒は継がずに下の石から左に伸びました。ここでの折衝の結果、黒は2つの弱石が下辺でつながって治まり、なおかつ中央へはタケフの形で白を2つに割いており、黒は非常に打ちやすい碁になりました。その後白は右上隅にかかっていき、隅を捨て石にし、うまくさばきました。さらに白は左辺を目いっぱい囲おうとしましたが、黒は白地の中で切断されていた石を動き出し、ここをうまく活きて、黒の優勢は変わりませんでした。その後上辺の黒で白が1線を跳ねてきたのを、欲張って受けようとして、白から2子取りで劫にする手をうっかりし、ここが劫になりました。この劫に負けると黒は1眼となり、中央で眼を作らないといけなくなります。しかし、白は劫材が続かず、黒が劫に勝ち、白は右辺を連打しましたが、弱石がつながったというだけで、形勢に大きな影響はありませんでした。その後下辺の寄せで、あわやという場面がありましたが、黒が受けきり、白は持ち込みになり、ここで白が投了しました。伊田8段の冷静な読みが光った一局でした。伊田8段はこれでベスト8進出です。

天頂の囲碁6との九路盤対局

天頂の囲碁6との九路盤対局は、今の所手合いは私から見て定先です。定先の時の布石で、この写真のパターンが勝率がいいです。このように黒7と突っ張るのは普通はやらない打ち方ですが、先日NHKの囲碁フォーカスで、九路盤の囲碁と将棋とオセロをいっぺんにやるという大会(グロービス・トライボーディアン選手権)で、プロが同じような打ち方をしているのを見ました。こう打つと白は必ずB4と当ててきますが、そうやると白に断点が2つできます。それを放置すると後で切る手順に回れますし、つげば、他の所に黒が先着できます。
今日もこの布石で1目勝ちでした。

中山典之の「昭和囲碁風雲録」(下)

中山典之の「昭和囲碁風雲録」(下)を読了。上巻を読んでの感想で、「読売新聞は今でも一番賞金の高い棋聖戦を主催していますが、そういう歴史的経緯がある訳です。」と書きましたが、これがとんでもない思い違いであることがこの巻を読んでわかりました。昭和36年に読売新聞で第1期名人戦が始まりますが、この時の賞金総額が2,500万円でした。しかし、10年経って昭和46年になっても、賞金総額は2,750万円で10年前とほとんど変わっていませんでした。しかし、この間に日本は高度成長を遂げ、物価はその10年で約2倍になっています。これに対してついに怒って重い腰を上げた日本棋院が昭和49年に読売新聞に対し、名人戦の契約の打ち切りを通告します。これによって日本棋院と読売新聞は一種の戦争状態に入り、結局裁判にまでなります。結果として名人戦は朝日新聞に移り、裁判の和解条件として読売新聞が序列1位の別の棋戦を主催することになり、こうして生まれたのが棋聖戦でした。さらに知らなかったのは、朝日新聞が棚ぼた?で囲碁の名人戦を手に入れた訳ですが、今度は将棋界が将棋の名人戦の賞金が囲碁に比べて低すぎると言い出し、将棋の名人戦は結局毎日新聞に移ります。この辺りの関連は知りませんでした。
登場する棋士は、呉清源は別格として、本因坊戦9連覇の高川秀格、その後に全盛時代を迎えた坂田栄男、その坂田の全盛時代を終わらせた林海峰、そしてその林海峰を「どこが強いんですか」といって、林相手に7割の勝率を誇った石田芳夫、と続き、更には大竹英雄、武宮正樹、加藤正夫の木谷一門全盛期となり、その後趙治勲、小林光一の時代へと移って行きます。
振り返ってみると、昭和は囲碁にとっていい時代だったと思います。いまやコンピューターの囲碁がプロ棋士を抜いてしまっていますが、今後も新聞社が囲碁に高いお金を出し続けるとは正直思えません。

NHK杯戦囲碁 寺山怜4段 対 新垣朱武9段

本日のNHK杯戦の囲碁は黒番が寺山怜4段、白番が新垣朱武9段の対戦。寺山4段は先期準優勝でした。対戦は新垣9段が左下隅を目外しに打ち、寺山4段はそれに対し普通に小目にかからず、三々に打ちました。白はそれに対し大ゲイマにかけ、黒は手抜きし、白は左下隅にもう一手かけました。黒は右辺を、白は左辺を模様にする展開になりました。こういう単純な囲い合いになるとコミがある分白が有利で、黒はどう局面を動かしていくのかと思ったら、左下隅を動き出しました。黒は封鎖されないように中央に進出しましたが、はっきり活きておらず、白から攻めを見られて、白が打ちやすい碁でした。黒は、守ってばかりだとじり貧になると見て、白が左辺を囲ってあと一歩で完全な地になる所で打ち込みました。これがタイミング良く、黒は包囲する白の切断を見つつ、白2子を取って活きました。この辺りは黒は悪くなかったと思います。その後白は黒を攻めながら右辺になだれ込み、自然に黒の模様を消すことが出来ました。このあたり、黒はじっと我慢の碁でした。勝負は左上隅から左辺にかけて白地がどのくらいまとまるかでした。黒は中央の白の切断を狙いつつ、左辺の白の断点に覗きを打ちました。白は継がずに別の所打ちましたが、続けて黒が左上隅の三々に打ったのが当然とはいえいいコンビネーションで、ここで活きることを匂わせながら、中央の白の切り離しに成功しました。中央右側の白にも二カ所断点があるため、この時点でまず尻尾の6子が取られ、残りの部分も劫になり、両劫で右上隅の所を取られてしまいました。しかし黒は他の大場を打って、白に片方の劫を継がせて、本劫にしました。しかし黒の劫材は下辺と左上隅にたくさんあり、白は劫に勝てないため、白の投了となりました。たぶん盤面で20目くらい黒が良かったと思います。これで寺山4段は、昨年優勝の張栩9段に続けてベスト8に進出しました。

中山典之の「昭和囲碁風雲録」(上)

中山典之の「昭和囲碁風雲録」(上)を読了。ここの所、ずっと白井喬二ばかりを読んできたので、ちょっと目先を変えました。文字通り昭和の囲碁史で、日本棋院が成立する直前から、戦後関西棋院が分離・独立するまでを描きます。筆者は囲碁ライターではなく、執筆当時6段の専門棋士です。(死後7段を贈られています。)大体は知っている話でしたが、知らないエピソードもたくさんありました。特に昭和20年の本因坊戦は「原爆下の対局」として有名で、当然知っていましたが、元々は広島市内で対局する予定で、当局に危険だと言われて五日市に場所を変えたということを知りました。わずか10Km移動しただけですが、それが明暗を分けました。本来の広島市内で対局が行われていたら、岩本薫も橋本宇太郎も原爆の犠牲になっていた訳です。
後は、新聞社にとって囲碁が今では考えられないくらい大事なコンテンツだったということで、読売新聞は、何回か囲碁のお陰で部数を大幅に伸ばしています。囲碁がなかったら、読売新聞は三流新聞のままでした。読売新聞は今でも一番賞金の高い棋聖戦を主催していますが、そういう歴史的経緯がある訳です。
後は何といっても呉清源の活躍で、昭和囲碁史の前半は間違いなく呉清源のためにあります。

NHK杯戦囲碁 山城宏9段 対 張栩NHK杯選手権者

jpeg000-105本日のNHK杯戦の囲碁は本日から3回戦で、黒が山城宏9段、白が張栩NHK杯選手権者の対戦。対局は黒の山城9段が2連星から左上隅が二間高ガカリ、左下隅が白の目外しに対して高目ガカリと徹底した外回り指向。これに対して白は各所で地を先行して稼いで余し作戦です。こういう碁では、白の弱石を黒がいかに攻めて得を図るかが焦点になりますが、張NHK杯選手権者者は唯一の白の弱石の左辺から延びた白石を、その上方に展開する黒に効かせて、うまく中央に脱出しました。(写真参照)この白石に心配がなくなったので白は右下隅で三々に入って地を稼ぎ、右辺でも露骨に2線を這って更に地を稼ぎました。この折衝で黒は右上隅で白に覗き一本を打たれたのが大きく、後で黒は中央を囲いきれず、右上隅を守る手を打たされてしました。白は当然中央に進出して黒地を消し、これで白が優勢になりました。黒は厚みを生かして寄り付きを図りたい所でしたが、白に弱石はなく、単なる囲い合いになりました。こうなると白が先行した確定地がものを言い、最後は盤面でも白が良くなり、白の中押し勝ちとなりました。山城9段はこの碁ではあまりいい所がなかったです。

NHK杯戦囲碁 河野臨9段 対 柳時熏9段

jpeg000-99本日のNHK杯戦の囲碁は黒が河野臨9段、白が柳時熏9段で、タイトル経験者同士の重厚な組み合わせです。特に河野9段は棋聖戦の挑戦者にも決まり、好調です。布石は黒が右上隅、右下隅とも同じ方向の小目という珍しいもの。右上隅のツケヒキ定石で黒が一間に開いて受ける代わりに覗くのはよく見かけますが、付けていったのが珍しい打ち方です。黒はさらにそこから延びて覗きましたが、白は継がずに左を押しました。白からは、黒を切断する手が残りましたが、黒はそれを守らずに中央にケイマしました。白はすかさず右辺に割り打ちし、黒が隅から詰めたのに二間に開き、黒が上から圧迫してきたのに対し、更に上に二間に開いて黒の切断を狙いました。結局黒は守る手を打たざるを得なくなり、右辺の白を固めてしまいました。この結果は白がうまく打っています。黒は挽回のため、多少無理気味でしたが上辺に深く打ち込みました。この黒に対し白は上から圧迫し、黒は左辺になだれ込んで活きにいきました。白は左辺の眼を取りつつ、劫付きですが、黒の切断にいきました。これに対し、黒は白の中央で二間に飛んでいる所を切断にいき、逆襲しました。白は中央の黒の囲みを切断して下辺の黒模様になだれ込みました。結果として攻め合いになり白は劫を継いで黒を切断し上辺の黒を取りました。しかし下辺の白は一手違いで取られてしまいました。お互いにすごい抜き後ができましたが、この別れはほぼ互角でした。寄せに入って右上隅に黒が先着したのが大きく右辺の白が多少寄り付かれてしまいました。これで黒が優勢になったようで、終わってみたら黒の2目半勝ちでした。プロらしい好局でした。

テレビ囲碁アジア選手権決勝 李欽誠2段(中国) 対 シン・ジンソ6段(韓国)

jpeg000-91本日はNHK杯戦の囲碁の放送はなくて、テレビ囲碁アジア選手権の放送が3時間ありました。日本、韓国、中国の3ヶ国7人の出場で、日本からは張栩9段と寺山怜4段が出場。残念ながら2人とも1回戦負け。2000年くらいから日本は国際棋戦で勝てなくなっています。ただ、3年前のこの大会で井山裕太6冠王が例外的に優勝しています。決勝は黒が中国の李欽誠2段で17才、白が韓国のシン・ジンソ6段で16才の、日本風に言えば高校生同士の対戦です。対局は大変な石のねじりあいとなり、盤上に5つの双方の大石がからみあう、ということになりました。白は一旦下辺から中央に延びた大石が取られましたが、その代償に右上隅の黒を取りにいきました。黒はこれに対し、右辺の白を攻め、最悪攻め取りにさせることを狙いました。これに対し白は取られていた下辺から中央に延びた大石の復活を狙って中央を切っていきました。白は右下隅に手掛かりを求めましたが、黒は手抜きして中央の白を切り離しました。この結果右辺の白は取られてしまいましたが、右下隅で劫になり、この劫は白が勝って取られていた白の大石が復活しました。これの収支は黒にメリットがあり、黒優勢になりました。残りは上辺となり、ここをうまく切り上げれば黒の勝ちでしたが、黒は無難にまとめました。右辺の取られている白からは、寄せとして1線にはねる手があり、尻尾の4子を生還させる手がありましたが、残念ながら白には手番が回りませんでした。結局黒の中押し勝ちで、李2段は優勝の最年少記録を作りました。