包丁を日本刀風に研いでいる内に、やはり本物の日本刀を研いでみたいと思うようになりました。少なくとも砥石に関しては必要なものはすべて揃っています。色々調べ、店で普通に買うと、脇差しレベルでも50万円以上し、ちょっと手が出ません。また完成品を研ぎ直すのは、私の未熟な研ぎでダメにしてしまう可能性大であり、その意味でも普通に刀剣店で売っているものは候補外です。しかし、ヤフオクで検索したら、結構欠点のある日本刀がかなりの安い価格で出されていることが分かりました。それで、今回柄も鞘もない剥き出しの脇差しで、かなり錆が広がっているものを、3万5千円くらいで落札しました。それが今日届きましたが、宅配便(日本郵便)の品名は「工芸品」、こんなので簡単に送れてしまうことにびっくりします。
で、作法にのっとり(本阿彌家のDVDで学習)、白手袋を付けかつ唾が飛ばないようにマスクして、一礼してから拝見しました。
錆はかなり全体に広がっていますが、赤錆ではなく黒錆であり、かつそれほど深くは錆びていない感じなので、この程度であれば仕上げ研ぎ工程のみで綺麗になると思います。刃はそれなりに付いていて、ちょっと再度しまう時に切っ先で指を刺してしまいました。刃こぼれはほとんど見受けられません。この日本刀は長州住藤原清重のもので、幕末に鍛えられたものです。清重は山口県須佐の人で、現在の萩市の一部です。私は赤ん坊の頃萩に住んでいたので(当時亡父が萩高の先生をやっていました)、何か不思議な縁を感じます。
ともかく長さも台所の流しで研ぐ私には適度で(現在砥石の高さを上げる砥台を、並川平兵衛商店から取り寄せ中)、かつ荒砥から研ぎ直す必要もなく、よくもこんな好条件の日本刀が短期間に入手出来たものだと、ちょっと不思議に思います。
急がずに時間をかけて綺麗にしていこうと思います。
ちなみに必要な手続きは、元の登録証の発行者(各都道府県)に対し、名義変更の連絡を20日以内にするだけです。実は思っているよりもかなり簡単に日本刀は購入出来るのでした。
「Japanese sword」カテゴリーアーカイブ
ヤフオクで入手した「伊予砥」ではない「伊豫砥」
ヤフオクで、「伊豫砥」と称して出品している天然砥石がありましたので、落としてみました。6000円弱くらいの落札価格です。目的は、日本刀研ぎとして、備水(びんすい)の替わりに使えないかということです。というか、話は逆で昔は伊予砥が使われていて、今はそれが採れなくなったから備水を使っていると聞いています。(手持ちの備水の品質に、今一つ満足していません。)
何故採掘されていない伊予砥が今売られているのか、出品者に聞いてみました。その話によると、伊予砥そのものの採掘は昭和40年代~50年代で絶えてしまったのを、現在復活させようとしている人がいて、採掘は行われているとのことです。文献(百科事典類)を見ると、「伊予砥」は柔らかめで白色の砥石とありますが、今回入手したのは黄色の虎目です。
出品者に色々質問をしたら、落札したの以外にコッパも4種類ほど付けてくれました。その中に白色のものがあり、これは触ってみても目が細かく、ちょっと名倉っぽく、これが日本刀に使われたというのなら、理解できなくもありません。しかし、メインの黄色い縞入りの砥石ですが、触った感じはかなりざらついていて、実際に研いでみるとかなり強く砂によるジャリジャリ感を感じ、砥汁を触ってみてもその中にかなりの砂を含んでいます。正直な所、研いだ感じは悪く、これが日本刀に使えるものとはとても思えません。砂を含んでいなければ、ベースの部分はそれなりに細かい泥を吐くので使えるのでしょうが、この砂が後の研ぎ工程で悪さをする可能性もあり、私は正直な所、包丁であれ日本刀であれ、この砥石を使い続ける気にはなれませんでした。「伊予砥」といっても、確かに白色だけではなく、コッパを見れば分かるように様々な色のがあるというのは、京都の天然砥石でもそうですから別に不思議はありませんが、「伊予砥」であれば何でも日本刀研ぎに使える、というのは間違いだと思います。なお、ヤフオクで売られている「伊豫砥」で白色のものは私は発見出来ませんでした。
日本刀風包丁の仕上げ
日本刀風包丁の仕上げにちょっと前からチャレンジしています。包丁を内曇砥と鳴滝砥で研いだ後、それぞれを薄くスライスし、小さくした地艶、刃艶というので刃の所を磨きます。そして今日「拭い」の液(「古色」という古刀風の味わいを出すもの)と磨き棒が届いたので、仕上げを施してみました。拭いの液を刃面に適当に垂らし、それを綿で若干圧力をかけながら拭って、液を地にしみこませるようにします。それが終わったら、新しい真綿で全体を拭い、液の膜がうっすら残るぐらいにします。その後、内曇の地艶を小さくして、それで刃の部分の液を取り去って、刃を光らせます。最後に磨き棒で刃の部分をこすっていって光沢が強くなるようにします。
この包丁は鋼100%ではなく合わせ(本霞)なので、刃文みたいに見えるのは実際には本当の意味の刃文ではなく、鋼と軟鉄の境界線ですが、一応それらしくはなったかな、と思います。「拭い」については最初着色に近いものかと想像していましたが、実際にはやってみたらかすかに色を滲ませる、ぐらいのものでした。
鋼100%の包丁はあまり高くないのを見つけて注文しています。届いたら、また日本刀風仕上げをやってみたいと思います。
研ぎ水を弱アルカリ性にする。
天然砥石の中には、研ぎ汁が酸性になるものがあり、そういう砥石で鋼の包丁を研ぐと、研いだ後すぐに錆が発生します。手持ちの天然砥石では巣板の2つが、リトマス試験紙でテストしてみたら研ぎ汁が酸性になっていました。それではどうすればいいのか、ということですが、日本刀の研ぎでも同じ現象が発生し、そちらでは研ぎ汁に炭酸ナトリウム(洗濯用ソーダ)を入れて弱アルカリ性にすることで、研ぎ汁の酸性を中和しています。
それで炭酸ナトリウムを注文しましたが、それが届いたので、早速研ぎに使ってみました。取り敢えず研ぎ桶(台所の流しに収まるくらいの桶)に7分目くらいに水を溜めて、写真に写っている添付のスプーンですりきり一杯入れて、pH計でpHを測定したらpH11で明らかにアルカリ性が強すぎます。結局水を3倍くらいに希釈してやっとpH10位になりました。つまり炭酸ナトリウムはアルカリ源としてはかなり強力です。多分研ぎ桶に小さじすりきり一杯くらいで十分と思います。また、手が荒れるのでゴム手袋必須です。強すぎるアルカリ性は砥石にもダメージを与える可能性があります。
日本刀用の砥石一覧
この度、改正砥、中名倉砥、細名倉砥(人造)の3種を求めて、これで目出度く日本刀に使う砥石が全部揃いました。
もっとも備水砥(びんすいと)を使っている所は、本来は伊予砥というのを使いますが現在もう生産されておらず、ネットでまだ残っているものを買おうとするとコッパレベルで3万円とかします。更には伊予砥ですら代用品で、元は福井の常見寺(じょうげんじ)砥が使われていましたが、これもとうの昔に生産されなくなっています。また細名倉も本来は天然砥ですが、これも現在入手困難で代用の人造砥が売られています。
仕上げ砥で天然砥を使う人は多いですが、荒砥や中砥まで天然砥にしようとするのは日本刀研ぎの人だけです。今は荒砥や中砥は人造砥石の方が品質が良いと思いますが、長い間伝えられてきた手法に従えば天然砥は研ぎ上がりの状態がある程度予測されるのに対し、人造砥石ではその辺りのノウハウが欠けているのではないかと思います。
私も、天然砥の中砥として、雲仙、天草を持っていますが、不純物が多くて品質が研ぐ場所によって均一ではなく、あまり積極的に使いたいとは思いません。
現時点の手持ちの天然砥石の仕上げ砥
本日時点の天然砥の仕上げ砥の手持ち。包丁、鉋・鑿、日本刀、床屋用剃刀、やろうと思えば何でも研げます。(曲線の刃は除く。)
内曇砥は本当は柔らかい刃砥と硬めの地砥の2種類があるそうですが、産出量が減っていて、現在では2種類に分けて販売することが困難なのだそうです。
鳴滝砥はその内曇砥の更に後に使う日本刀用の仕上げ砥です。内曇砥、鳴滝砥の両方とも、本来の砥石として使う以外に、鏨(タガネ)で薄く割って磨いて、裏に漆で美濃紙を張り、親指で刃に押しつけて日本刀を磨くのに使います。
巣板は、包丁用にももちろん最高ですが、鉋や鑿の大工道具にも良く使われます。しかし左のコッパの方は鋼を研ぐと鋼を変色させますので、ステンレス包丁専用です。一番右は巣板なのに巣がほとんど入っていない、一生物の一品です。
若狭の戸前は、これも巣板と並んで天然仕上げ砥の二大ブランドの一つで、特にこの浅葱(浅黄)は、かなり硬くてしっかりした砥石で、鉋向きと言われています。
対馬と名倉は、砥石の面を整えるのと、硬めの砥石で砥汁を補給する役割を果たします。巣板のコッパは卵色の巣板のおまけです。
右下の青砥2本は、今でもそれなりにコンスタントに採取されていて3千円ぐらいで買えるので、天然砥の入門としてはお勧めです。結構柔らかくて砥汁が良く出るので、#1000くらいの中砥で研いだ後の仕上げ砥として使えます。