ヤフオクで、「伊豫砥」と称して出品している天然砥石がありましたので、落としてみました。6000円弱くらいの落札価格です。目的は、日本刀研ぎとして、備水(びんすい)の替わりに使えないかということです。というか、話は逆で昔は伊予砥が使われていて、今はそれが採れなくなったから備水を使っていると聞いています。(手持ちの備水の品質に、今一つ満足していません。)
何故採掘されていない伊予砥が今売られているのか、出品者に聞いてみました。その話によると、伊予砥そのものの採掘は昭和40年代~50年代で絶えてしまったのを、現在復活させようとしている人がいて、採掘は行われているとのことです。文献(百科事典類)を見ると、「伊予砥」は柔らかめで白色の砥石とありますが、今回入手したのは黄色の虎目です。
出品者に色々質問をしたら、落札したの以外にコッパも4種類ほど付けてくれました。その中に白色のものがあり、これは触ってみても目が細かく、ちょっと名倉っぽく、これが日本刀に使われたというのなら、理解できなくもありません。しかし、メインの黄色い縞入りの砥石ですが、触った感じはかなりざらついていて、実際に研いでみるとかなり強く砂によるジャリジャリ感を感じ、砥汁を触ってみてもその中にかなりの砂を含んでいます。正直な所、研いだ感じは悪く、これが日本刀に使えるものとはとても思えません。砂を含んでいなければ、ベースの部分はそれなりに細かい泥を吐くので使えるのでしょうが、この砂が後の研ぎ工程で悪さをする可能性もあり、私は正直な所、包丁であれ日本刀であれ、この砥石を使い続ける気にはなれませんでした。「伊予砥」といっても、確かに白色だけではなく、コッパを見れば分かるように様々な色のがあるというのは、京都の天然砥石でもそうですから別に不思議はありませんが、「伊予砥」であれば何でも日本刀研ぎに使える、というのは間違いだと思います。なお、ヤフオクで売られている「伊豫砥」で白色のものは私は発見出来ませんでした。
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正本の相出刃、研ぎ直し
正本の相出刃、日本刀研ぎのプロセスは一応一通りやったんですが、その結果としてすっかり刃先が丸くなって(多分刃艶・地艶の工程で刃先も削ってしまったんだと思います)、観賞用としてはともかく実用としては大いに問題あるので、全部研ぎ直しました。今回はわざとすべて人造砥石で、ナニワのセラミック700番、キングハイパー1000番、ナニワの化学砥石4000番に、キングのS1の8000番という4種です。結果、ぴかぴかの光沢あり包丁になりました。内曇が名前の通り、刃の光を曇らせ、人造砥石はその反対で光沢系になるということが分かりました。まあ切れ味はまったく問題なく戻りましたが、私の研ぎの課題はもっと仕上がりの見た目を良くすることですね。
土佐の皮むき包丁
毎日、一番良く使っている土佐の皮むき包丁(両刃)。当然一番良く研いでいる包丁でもあって(刃渡りが短い{75mm}ので、研ぐ時場所を変えながら研ぐ必要がなく楽です)、使ってまだ1ヵ月ぐらいにもかかわらず、かなり減っています。左がオリジナル、右が現在の状態。この包丁、実が固くて、そのため皮も固い富有柿を剥くのには最適です。他の包丁を使う気がしません。
日本刀風包丁の仕上げ
日本刀風包丁の仕上げにちょっと前からチャレンジしています。包丁を内曇砥と鳴滝砥で研いだ後、それぞれを薄くスライスし、小さくした地艶、刃艶というので刃の所を磨きます。そして今日「拭い」の液(「古色」という古刀風の味わいを出すもの)と磨き棒が届いたので、仕上げを施してみました。拭いの液を刃面に適当に垂らし、それを綿で若干圧力をかけながら拭って、液を地にしみこませるようにします。それが終わったら、新しい真綿で全体を拭い、液の膜がうっすら残るぐらいにします。その後、内曇の地艶を小さくして、それで刃の部分の液を取り去って、刃を光らせます。最後に磨き棒で刃の部分をこすっていって光沢が強くなるようにします。
この包丁は鋼100%ではなく合わせ(本霞)なので、刃文みたいに見えるのは実際には本当の意味の刃文ではなく、鋼と軟鉄の境界線ですが、一応それらしくはなったかな、と思います。「拭い」については最初着色に近いものかと想像していましたが、実際にはやってみたらかすかに色を滲ませる、ぐらいのものでした。
鋼100%の包丁はあまり高くないのを見つけて注文しています。届いたら、また日本刀風仕上げをやってみたいと思います。
研ぎ水を弱アルカリ性にする。
天然砥石の中には、研ぎ汁が酸性になるものがあり、そういう砥石で鋼の包丁を研ぐと、研いだ後すぐに錆が発生します。手持ちの天然砥石では巣板の2つが、リトマス試験紙でテストしてみたら研ぎ汁が酸性になっていました。それではどうすればいいのか、ということですが、日本刀の研ぎでも同じ現象が発生し、そちらでは研ぎ汁に炭酸ナトリウム(洗濯用ソーダ)を入れて弱アルカリ性にすることで、研ぎ汁の酸性を中和しています。
それで炭酸ナトリウムを注文しましたが、それが届いたので、早速研ぎに使ってみました。取り敢えず研ぎ桶(台所の流しに収まるくらいの桶)に7分目くらいに水を溜めて、写真に写っている添付のスプーンですりきり一杯入れて、pH計でpHを測定したらpH11で明らかにアルカリ性が強すぎます。結局水を3倍くらいに希釈してやっとpH10位になりました。つまり炭酸ナトリウムはアルカリ源としてはかなり強力です。多分研ぎ桶に小さじすりきり一杯くらいで十分と思います。また、手が荒れるのでゴム手袋必須です。強すぎるアルカリ性は砥石にもダメージを与える可能性があります。
日本刀用の砥石一覧
この度、改正砥、中名倉砥、細名倉砥(人造)の3種を求めて、これで目出度く日本刀に使う砥石が全部揃いました。
もっとも備水砥(びんすいと)を使っている所は、本来は伊予砥というのを使いますが現在もう生産されておらず、ネットでまだ残っているものを買おうとするとコッパレベルで3万円とかします。更には伊予砥ですら代用品で、元は福井の常見寺(じょうげんじ)砥が使われていましたが、これもとうの昔に生産されなくなっています。また細名倉も本来は天然砥ですが、これも現在入手困難で代用の人造砥が売られています。
仕上げ砥で天然砥を使う人は多いですが、荒砥や中砥まで天然砥にしようとするのは日本刀研ぎの人だけです。今は荒砥や中砥は人造砥石の方が品質が良いと思いますが、長い間伝えられてきた手法に従えば天然砥は研ぎ上がりの状態がある程度予測されるのに対し、人造砥石ではその辺りのノウハウが欠けているのではないかと思います。
私も、天然砥の中砥として、雲仙、天草を持っていますが、不純物が多くて品質が研ぐ場所によって均一ではなく、あまり積極的に使いたいとは思いません。
現時点の手持ちの天然砥石の仕上げ砥
本日時点の天然砥の仕上げ砥の手持ち。包丁、鉋・鑿、日本刀、床屋用剃刀、やろうと思えば何でも研げます。(曲線の刃は除く。)
内曇砥は本当は柔らかい刃砥と硬めの地砥の2種類があるそうですが、産出量が減っていて、現在では2種類に分けて販売することが困難なのだそうです。
鳴滝砥はその内曇砥の更に後に使う日本刀用の仕上げ砥です。内曇砥、鳴滝砥の両方とも、本来の砥石として使う以外に、鏨(タガネ)で薄く割って磨いて、裏に漆で美濃紙を張り、親指で刃に押しつけて日本刀を磨くのに使います。
巣板は、包丁用にももちろん最高ですが、鉋や鑿の大工道具にも良く使われます。しかし左のコッパの方は鋼を研ぐと鋼を変色させますので、ステンレス包丁専用です。一番右は巣板なのに巣がほとんど入っていない、一生物の一品です。
若狭の戸前は、これも巣板と並んで天然仕上げ砥の二大ブランドの一つで、特にこの浅葱(浅黄)は、かなり硬くてしっかりした砥石で、鉋向きと言われています。
対馬と名倉は、砥石の面を整えるのと、硬めの砥石で砥汁を補給する役割を果たします。巣板のコッパは卵色の巣板のおまけです。
右下の青砥2本は、今でもそれなりにコンスタントに採取されていて3千円ぐらいで買えるので、天然砥の入門としてはお勧めです。結構柔らかくて砥汁が良く出るので、#1000くらいの中砥で研いだ後の仕上げ砥として使えます。
シャプトン砥石を水に長時間漬けるとどうなるか実験
シャプトンの昨日届いた1500番のセラミック砥石(マグネシア系)について、ちょっと使う気が失せたので、この際マグネシア系がどの程度水に弱いのか調べるために、一晩水に漬けて放置しました。大体7時間半です。結果として、見た感じの変化はほとんどなく、クラックや剥がれも発生しませんでした。ただ、やはり硬度は落ちている感じがあり、試しにアトマエコノミー(ダイヤモンド砥石)で角部をこすってみたら、結構簡単に削れました。おそらくこういう吸水した状態で刃物を研ぐと、ぼろぼろいきそうな感じです。実際に研いでみれば良かったんですが、朝で時間がなかったのでそこまでしませんでした。まあこの結果からは普通の人造砥石のように使う前に15分くらい水に漬けても、そこまでひどいことにはならないのではないかと思います。ただ注意点は今回テストしたのは5mmの砥石層に15mmの補強層が付いたタイプであり、15mm全体が砥石層で補強がない「刃の黒幕」シリーズが、長時間水に漬けてトラブルがない、という保証にはならないと思います。
マグネシア系の長所は、1000℃以上の高温で焼き固めるビトリファイ系に比べ、ほぼ常温での製造になるので、収縮が小さくサイズについて精度を出しやすく、特に研磨粉の径が小さい仕上げ砥が作りやすいということだと思います。(ビトリファイ系で小さい径の研磨粉を使うと収縮が大きくなり、歩留まり良くサイズを揃えるのが難しくなる。)
ちなみにビトリファイ系のビトリとは、元々ラテン語で「ガラスの」という意味です。丁度12月の実践ビジネス英語で、体外受精のことをIVF=in-vitro fertilizationというと習ったばかりです。(この場合はガラス=試験管のことです。)日本語でガラスのことを昔「びいどろ」と言いましたが、これはこのvitroと同語源で、おそらくポルトガル語のVidro(ガラス)から伝わったものです。
シャプトンの「刃の黒幕」ではないセラミック砥石1500番
丁度昨晩、シャプトンの「刃の黒幕」についてまとめを書いた後に、Amazonから、シャプトンの「刃の黒幕」ではないセラミック砥石1500番が到着しました。これには一応説明書が付いていますが、「長時間水につけないでください」とあるだけ。どのくらいの時間なのか、長時間水につけるとどうなるのか、まったく書いていません。というかこれある意味詐欺商品です。研磨に使える層はトータルの厚み20mmの内、たったの5mmしかありません。それで価格は研磨層15mmの刃の黒幕とほぼ一緒です。また「下部に補強材を使用しているため多少のヒビは問題ありません」とも書いてあります。つまり15mmの補強層がないとヒビが入って使えなくなるみたいです。で、研磨層は「刃の黒幕#1500」とおそらく同じだと思います。色もブルーで一緒です。(ちなみに1000がオレンジで2000がグリーンで刃の黒幕とまったく一緒です。)おそらくこのシリーズが「刃の黒幕」に変わったんだと思いますが、ヒビが入る欠点をどのように克服したのか不明です。(先のポストで書いたように、この商品はシャプトンのHPに出てきません。)
でもともかくこの会社のインチキ臭さがこれ見てよく分かりました。私は今後二度とシャプトン製品は買わないでしょう。
シャプトン 刃の黒幕シリーズ 私なりのまとめ
シャプトンの砥石「刃の黒幕」シリーズについての私なりのまとめ。
現時点の結論:
私の砥石の使い方からするとあまりメリットがなく、今後これ以上このシリーズを買い進めていくことはしない。ただ、単純にステンレス包丁を切れるようにしたいので砥石が一種類だけ欲しい、という人にはこのシリーズの#1000~#2000辺りがまあお勧めでしょう。
この会社については、実はわずか従業員20人の小さな会社です。(信用調査会社の情報によれば、資本金:2,200万円、売上:2億4千万円/年、社員:20人)しかしその割りには非常にマーケティングが巧妙と感じます。ホームページもなかなか良く出来て格好いいですが、私が別に購入した刃の黒幕シリーズ外のセラミック砥石1500番についてはまったく情報無く、困ったHPの見本でもありますが。
マーケティングがうまいというのは、先行する名前の通ったキング砥石とエビ印に対し、以下のような差別化を図っている点です。
(1)キングが手を出していないマグネシア系セラミック砥石に集中
(2)現状ほとんどの家庭がステンレス包丁しか持っておらず、それがキングの砥石より短い時間で研げることをアピール。
(3)なおかつマグネシア系の特徴として、長時間水に浸す必要もなく、すぐ研げるメリットを強調。
(4)同じデザインで色んな番のを揃えて統一感を出し、またそれぞれの番で色を変えて、研いで表面の文字が消えても番号がすぐ分かるようにした。
(5)「刃の黒幕」「空母」といったネーミングの面白さ。
(6)マグネシア系はビトリファイ系より単価が高いが、砥石の厚みを15mmに抑え、値段を安くした。(通常の砥石の厚みは25mm~30mm。)一般家庭で15mmでもそれが半分になるまで使う人はまずいないと思いますので、一般用としては確かに15mmで十分です。
反面、マグネシア系の欠点を含む様々な問題点がユーザーにきちんと伝えられていないとも感じます。
(私が買った2000番と320番には取扱説明書は無かったと思います。)
(1)30分以上水に漬けたままにしておくと、表面が軟化したりクラックが入ったりして砥石としては使えなくなる。
(2)経年変化で砥石自体の硬度が変化する。(おそらく吸湿により柔らかくなる。)→砥石としてはかなり大きな問題。
(3)付属プラスチックケースが安っぽく、また強度も十分でない。更にサイズもぴったりではなくガタがあり、砥石台としては良くない。また保存用としても湿気が中にこもりやすく良くない。
(4)HPのFAQに意味のよく分からないことが書いてある。「名倉砥石はついていますか?→名倉砥石をすることで砥面が荒れて凸凹になる為、名倉砥石は必要ございません。」→一般論として、名倉をかけて砥面が荒れて凸凹になることはなく、むしろその逆で微細な凸凹を直す機能がある筈。シャプトン砥石との相性でそのような現象が起こるのかどうか説明がきわめて不足している。
ちなみにマグネシア系の砥石は、ナニワ研磨工業は昭和35年から発売していますので、新しい技術でも何でもありません。(シャプトンの創業は1983年=昭和58年でそれよりずっと後。)世の中にはマグネシア系の耐湿性を改良する技術がいくつか出ていますが、シャプトンの砥石がそのようなものを採用しているという情報はありません。