MQAというハイレゾの形式の音源を聴き始めて3日ですが、早くもこの方式はインチキではないかと思うようになりました。
左のグラフはMQAが単に圧縮形式というだけでなく、より音が良いという説明に使われているものですが、要するに従来のデジタル録音は、音の立ち上がり・立ち下がりの前後に一種のノイズが乗って、立ち上がり・立ち下がりとも丸く広がってしまうのを、MQAでは非常にシャープに出来ると言っています。
しかし、これは当然元のマスターの音をデジタル的に加工して作っている訳で、写真で言うならフォトレタッチでコントラストを上げたり、シャープネスを上げるのと似ています。しかし写真と違うのは、写真の場合は一枚一枚最適なレタッチは違い、プロの写真家であれば全ての写真に一括していつも同じシャープネスをかけたりしません。しかしMQAでは元のマスターがどのような音であるかに関わらず、常にこのような処理が入る訳です。これまでMQA-CDをリッピングしたもの2種とe-onkyoでダウンロードしたアルバム2枚でMQAの音を聴きました。私の印象では直接音がやや細身になって、間接音から分離されて聞こえるような傾向を感じました。この傾向はソースによっては好ましいでしょうが、全てのソースにいいかというと大いに疑問です。また、今使っている超三結アンプとONKYOのD-77NEの組み合わせでは、ピアノの高音がSACDやDSD音源では本当に綺麗に繊細に響きますが、MQA音源ではわずかですが、濁りみたいな歪みを感じました。もしかするとそれはMQAが上記の処理をした結果の副作用として出てきている可能性があります。実はe-onkyoで売られているMQA音源には単なるMQAとMQA Studioがあります。後者の意味が分からなかったのですが、後者は元々その音源のマスターを作った人がMQA処理した後の音を確認して承認したもの、ということみたいです。ということは、逆に言えば単なるMQAは元のマスター作成者が承認していない勝手な音の加工をしているということになります。ちなみにMQAは非可逆の処理であり、一度MQAにしたものを元の音には戻せません。
それからMQA-CDもきわめてナンセンスです。ちなみにこんなものを売っているのは日本だけです。ハイレゾのCDとしてはSACDが既にありますが、プレーヤーが最低でも9万5千円くらいするし、またPCでは再生出来ないので(ハイブッリド盤は除く)、マニア以外にはほとんど普及していません。というか既に若い人はCDを買うことをしなくなっています。そこにおいてMQA-CDをかけられるCDプレーヤーは現時点で最低16万円です。普通のCDプレーヤーにMQAフルデコーダーを組み合わせるというやり方もありますが、そのデコーダーも最低で14万円くらいです。一体誰がそんなものを買うのでしょうか。
「Music」カテゴリーアーカイブ
河村尚子さんのベートーヴェンのソナタ
河村尚子さんのベートーヴェンのソナタが素晴らしいです!
現在第3集まで出ています。ドイツのブレーメンでの録音で、面白いのは調律師の名前が出ていることで、ゲルド・フィンケンシュタインという人です。面白いことに、アファナシエフのCDの多くもこの人が調律師として名前が出ています。河村尚子さんはこの調律師のことを「魔法の調律師」と呼んでいます。
河村尚子さんの最初のCDは2009年に出ていますが、私は日本での最初のCD「夜想」を聴いてすぐ好きになり、これまでコンサートも2回行ってます。
これまでショパン弾きとベートーヴェン弾きは分かれていて両方弾く人はあまり多くなかったように思いますが(特に女性ピアニスト)、最近は両方こなす人が多いようです。例えばメジューエワさんも両方こなします。
中野英男さんの「音楽 オーディオ 人々」
中野英男さんの「音楽 オーディオ 人々」を読了。筆者はトリオ(現JVCケンウッド)の3人の創業者の一人で、残りの2人の春日兄弟とは義兄弟の関係。トリオの社長、会長を務められました。オーディオ会社の経営者であり、同時に大変なオーディオマニアで、JBLのパラゴンという有名なスピーカーを日本で初めて買った人ですし、またVita Voxもそうです。さらにはトリオにレコード部門を作り、シャルランという録音の良さで有名なレーベルのLPを日本で販売したり、またジャズで有名なECMブランドのLPを日本で販売したりしています。今はこういう経営者でかつオーディオマニアって人はほぼいないですね。(日本の話)
1972年に春日兄弟はトリオを辞めてアキュフェーズ(最初はケンソニック)を作りますが、Wikipediaには「社内クーデター」とありましたが、中野さんは特にこの本の中で二人を批判的に書いたりはしておらず、むしろ春日二郎氏(アキュフェーズ初代社長)を「天才」と呼んでいます。私の推測は、1971年のニクソンショックによる円高(1ドル=360円が308円になった)によって輸出比率の高かった当時のトリオの業績が悪化し、銀行から役員を迎えたりしていますので、その辺の責任を取らされたのではないかと思います。
また、面白かったのが、高級プリメインアンプのKA-8004のエピソードです。何でもトリオの自信作として出したものが、試供品がある評論家に酷評され、既に生産に入っていたのを中止。そうしたら技術系ではない社員が「こうすれば良くなる」と言って来たのがコンデンサー2個をあるメーカーのものに変えるだけ。しかしそれで高音のざらつきが取れ、きわめていい音になるのを皆が確認。件の評論家も「初めて石のアンプが真空管と同じ音の艶を出した」と一転して激賞。しかし、そのコンデンサーは既に3年前に生産中止になったもので、ジャンク屋でしか入手出来ない。メーカーに打診したら最小発注数30万個ならやるが、納期は3ヵ月という回答。それで全国の支店に声を掛けジャンク屋を訪ね回ってなんとかコンデンサーを入手ししのいでいたが、コンデンサー屋から3ヵ月後に届いたものがまったく音が良くなく使えない。結局、ジャンク屋からの入手が出来なくなった時点で生産中止という顛末です。このトラブルは春日兄弟退社の一年後ぐらいのことなので、これによってお二人が責任を取って辞めたということではないようです。
また、この事件をきっかけにアンプの最終的な音質をチェックし責任を持つ音質係という役職が作られますが、それに従事していた30歳ぐらいの社員が、当時会長であった中野さんに「一生この仕事をやらせて欲しい。」と直訴してきたそうです。
このトリオに限らず、昔のソニーとかホンダとか、フロンティア精神に満ちあふれていた会社が今の日本には残念ながら見当たりません。
オクタヴィアレコードの高音質CD類
Extonなどのレーベルで知られるオクタヴィアレコードがいくつか普通のCD、SACDより音質の良いCDを過去に出していたり、また今でも売っているものがあります。
(1)マスターディスク・クローン・コピー
https://www.octavia.co.jp/news/2013/01/post-81.html
2011年頃売っていましたが、要するにCDのマスターディスクを作成する時の原データを、CD-Rに音楽CDとして焼いて再生出来るようにしたものです。故に盤面は真っ白で何も印刷していません。2枚だけ持っています(確か当時1枚1万円でした)が、これの音は本当に素晴らしいです。鮮度がまったく違います。これまでのCD、SACDが何だったんだという音です。しかし、残念ながら2枚の内、1枚の方は最後の2トラックで盛大に音飛びノイズが入りまくります。今もう売っていないようで、おそらくは同様の品質問題が他でも発生したのでしょう。なんせCD-Rなので、長期的には保たないと思った方が良いです。
(2)ダイレクトカットSACD
(1)がもう売っていなくて、今はこちらだけのようです。CDのプレス用のスタンパーを作るためのマスタースタンパーでプレスしたSACDのようです。価格は(1)の倍で1枚2万円。今回初めて買ってみましたが、悪くはないですが(1)ほどの鮮烈さは無いです。
まあいまはハイレゾ音源のDLがあるので(1)みたいなメディアは意味が無いのかもしれませんが、ハイレゾのファイルのファイル管理は面倒で、個人的にはCDの方が手軽で好きです。
ウィーンフィルのニューイヤーコンサート2021(指揮:ムーティー)
ウィーンフィルのニューイヤーコンサート2021のCDを買いました。今年はマエストロ・ムーティーの指揮というのもありますが、TVでご覧になった方はご存知だと思いますが、ニューイヤーコンサートが始まって以来初めての無観客開催で、客席にスピーカーを置いて家で観ている人の拍手を流すという形で行われました。この楽友協会ホールですが、当然ある程度観客が入って残響が丁度良くなるように設計してある筈で、気のせいか今回の録音は残響が多い気がします。曲目ではスッペが入っているのが珍しいですね。いつもの最後のおなじみの挨拶の”Wiener Philharmoniker und ich wünschen Ihnen prosit Neujahr!”が今回ほど心に染みた年は無いと思います。
「古関裕而秘曲集~社歌・企業ソング編~」
「古関裕而秘曲集~社歌・企業ソング編~」が到着。昨晩から聴いていますが、さすがの古関マニアになっている私といえど、全部聴くのは結構辛かったです。何故かというと、7割方ほとんど同じような曲調で、曲が始まった途端、「ああ、またか」という感じです。多くの場合社歌とか校歌はヘ長調で、たまにト長調やハ長調といった感じでしょうが、古関の場合はこれに加えて多くが2拍子の行進曲です。実際、このCDの中に入っているので、サビがほとんど一緒というのもあります。
その中で面白かったのは、
(1)賀茂鶴酒造の社歌、歌っているのが何と村田英雄
(2)福島トヨタ自動車社歌、歌詞の中に「走るクラウン颯爽と」というのがあり、車名が出て来るのは珍しいかなと。自動車ショー歌は例外として。
(3)関彰商事社歌、これは曲がどうというより、最初会社に入って1年ぐらい茨城県下館市(現在筑西市)にいて、この会社は下館に本社があってガソリンスタンドとかやっている会社で懐かしいというだけです。
(4)山一証券社歌、これは古関の奥さんが株の名人で、売買に山一証券を使っていた縁で頼まれたのではないかと思います。
(5)かわしんの歌、地元の川崎信用金庫の社歌。「モットゥはフレッシュ アンド ヒューマン」と社歌に英語が出て来るのは珍しいかなと思います。
(6)北野建設の歌、なんとロ短調の社歌。何でも社長が特攻隊の生き残りで、戦争中に古関の軍事歌謡を好んで歌っていたからだそうです。
(7)エースの歌、カバンのエースの社歌ですが、何とムード歌謡になっていて、歌詞も「正しい商売(あきない)をつらぬきつらぬきつらぬきとおしてほしいのよ」と女性からの呼びかけになっています。社長がムード歌謡が好きでこうなったのだとか。古関の唯一のムード歌謡です。
(8)日立物流社歌、この会社も昔よく付き合いましたが、古関の最後の社歌だそうです。
「古関裕而 秘曲集 歌謡曲編」
「古関裕而 秘曲集 歌謡曲編」を聴きました。この歌謡曲編以外に12月23日には「社歌編」も発売されます。古関裕而の評伝を書き、また「エール」で風俗考証を担当した刑部芳則氏の企画で、氏が蒐集されたSPレコードその他の貴重な音源を初CD化したものがほとんどです。(一部既発のCDに入っているものもあり。)古関裕而が生涯で作曲した曲は、ラジオドラマの伴奏なども含めて5,000曲以上と言われていますが(正確な数は古関裕而本人も確認していないようです)、その内音源としてこれまで聴くことが出来るのはせいぜい150ぐらい、楽譜だけのを合わせても200がいいところでした。そういう状況なので未発売の音源が聴けるようになるのは非常に嬉しいです。
ディスク1は純粋な歌謡曲ですべて戦争前、戦争中のものです。そしてほぼすべてあまりヒットしなかったものですが、それは曲が悪かったからではおそらく無く、その時々の時代の好みと合わなかったということだと思います。そういう中で古関が苦労して色々な曲を作っており、決して本人の好みではない古賀メロディー調のものまで作っていたことが確認出来ます。音丸の「鳴門しぶき」が入っていなかったのは残念ですが。
ディスク2は軍事歌謡です。音丸や小梅など女性4人での三味線伴奏での「露営の歌」とか、コロンビアが「露営の歌」の大ヒットの2匹目のドジョウを狙った「続露営の歌」などの貴重な曲が聴けます。それ以外にも「露営の歌」風のが色々作られていたのも確認出来ます。「歌と兵隊」は引用されている曲が面白く、「戦友」「元寇」、「露営の歌」、「雪の進軍」などの有名軍歌・唱歌が散りばめられています。ただ刑部氏がこうした引用を行ったのが(同時代の歌謡曲の作曲家では)古関以外は皆無と言っているのは明らかな間違いです。大体が古関がプッチーニの「蝶々夫人」のハミングコーラスを間奏で引用している「雨のオランダ坂」は、その前に同じ渡辺はま子で「長崎のお蝶さん」があり、作曲は竹岡信幸で、こちらは間奏に「ある晴れた日に」を引用しています。「君が代」の引用も、それが本当に「君が代」なのか、軍艦マーチの中に入っている「海ゆかば」の信時潔のではないバージョンの引用なのかは分りかねますが、他にもあります。後はちょっと感動したのは「よくぞ送って下さった」で、これは大平洋戦争開戦の直前に駐米大使として活躍した斎藤博大使が、結核のため米国で亡くなったことに対し、大統領であったルーズヴェルトは斎藤の死を惜しみ、わざわざ巡洋艦アストリア号で遺骨を日本にまで送り届けたことに対する返歌のようなものです。「大米国よ ありがとう」という歌詞の曲が戦争開始の2年前に歌われていたということはある種の感慨を覚えざるを得ません。
しかし古関裕而に限ったことではなく、こうした大衆と密着した芸術を全て記録して残すというのはなかなか行われていません。私もずっと白井喬二の作品を追いかけていますが、8割ぐらいの所で止まっていてそこから先はなかなか大変です。
「社歌」というCD
キングレコードより出ている「社歌」というCDを聴きました。弓狩匡純さんというジャーナリストが日本の200社あまりの社歌を調べて、その中からの抜粋でCD化したものです。中には純粋な社歌ではなく「ととべんきのうた」みたいに、歌詞にTOTOが入っていても、TOTOとまったく関係無い外部で作られた曲や、マキタの電動ドリルを使ったドリル奏法というのをやっていたMr. Bigというロックミュージシャンがマキタに感謝して送った英語の曲など、色んなものが含まれています。印象に残ったものでは、鉄道ファンには有名みたいなJR九州の「浪漫鉄道」、土岐善麿と橋本國彦のコンビによるなんとワルツの社歌の「資生堂社歌」、とてもさわかな大同生命保険の「夢直行便」、いかにも古関裕而な「東宝株式会社社歌」、ほとんど戦隊シリーズの主題歌みたいな日本ブレイク工業「社歌」、いかにも正当な社歌である「ユニ・チャームグループ社歌」などです。
弓狩さんがライナーに書かれていますが、社歌がありそれを大切にしている会社は不況に強く好況の時は元気がある、というのは分るような気がします。今「エンゲージメント」ということが叫ばれ、社員の参加意識が低いことが多くの企業で問題になっていますが、社歌というのはこれ以上なく簡単に自分の企業の理念を示し、それを社員に徹底するのに最良の手段の一つだと思います。今私がいる会社にも社歌があって、朝礼の時とかに歌っていました。しかし数年前に社名を変更し、社歌には旧社名が入っているため歌われなくなりました。実は先日発見したのですが、この社歌のサビの部分と古関裕而さんの「高原列車は行く」の「高原列車はララララ行くよ」の所、非常に綺麗につながります。
古関裕而作曲の社歌や企業ソングCD
もう少しで「エール」もおしまいです。古関裕而の作曲した曲は生涯で5000曲以上と言われていますが、その内実際に聴けるのは楽譜だけのものを含めて私の知る限りではせいぜい200ちょっとです。残りの内、校歌や社歌がかなり多くあるのですが、古関裕而作曲の社歌や企業ソングを集めたCDが12月23日に発売されます!私は速攻で予約しました。山崎製パンとか山一証券とか象印マホービンとか鈴木自動車とか、期待しています。山一証券は古関の奥さんの金子さんが、ある種の株の名人のマダムとして有名で、山一証券から株を買っていた関係で古関が社歌を作曲しています。
倉田喜弘の「日本レコード文化史」
倉田喜弘の「日本レコード文化史」を読了。元は1979年に出た本のようです。なので丁度コンパクトディスクが登場する所で終っています。日本にフォノグラムが入って来たのが1879年とのことなので、それから丁度100年目に書かれた本です。その100年の歴史で結構色んな資料をあたっていて、情報源として貴重です。1979年から41年経っている訳ですが、その141年の間に、フォノグラム(蝋管式)→円盤形蓄音機(SPレコード)→電気録音によるSP→LP(Long Play)→LPのステレオ→(LPの4チャンネル)→コンパクトディスク→ダウンロード音源、と目まぐるしく変って来ています。私が生まれた1960年代初期は既にLPの時代で、SPというものを所有したことは一度もありません。(神田の中古屋で見たことはあります。)
円盤形蓄音機とSPレコードの歴史で興味深いのは、音楽だけでなく、結構政治家が自分の演説などを広めるのに使っていたということです。そういえば、大平洋戦争のいわゆる天皇による終戦の詔勅も、直接放送用マイクに喋ったのではなく、レコードにしたと聞きました。
後は戦前のレコード業界の事情が良く分るのが貴重で、最初は5000枚も売れると大ヒットだったのが、古関裕而がコロンビアに専属の作曲家で入った時は5万枚はいかないとヒットとは言えない、というのもこの本で裏付けが取れました。
しかし、日本人ほどこのレコードやCDというものを愛した国民はいないのではないでしょうか。世界の主流は既にダウンロード音源や定額聴き放題サービスに移行している中、日本だけがまだCDがそれなりに売れています。最近さらにブルーレイオーディオとかも出ていますが、個人的にはこれ以上円盤ものの音源を増やしたいとは思わなくなっています。