大日本雄弁会講談社の雑誌「キング」の昭和7年4月号に掲載された、「人気花形作家大座談会」を読了。白井喬二の小説が載っているというので買ったものですが、そちらは「天晴れ啞将軍」で既に読んだものでした。それで勿体ないので何か面白い記事はないかと思って見つけたものです。
出てくる作家は、「キング」にその当時書いていた人、過去書いていた人、これから書く予定の人ということで以下のメンバーです。
菊池寛、長田幹彦、前田曙山、本田美禅、久米正雄、白井喬二、江戸川乱歩、大佛次郎、中村武羅夫、加藤武雄、三上於菟吉、佐々木邦、子母沢寛、野村愛正、細木原青起
今でも非常に有名な作家以外に、当時は有名だったけど今はほとんど知られていない作家も多く含まれています。特に中村武羅夫と加藤武雄は、三上於菟吉と合わせて三羽烏と呼ばれたようですが、今は無名です。
座談会全体自体は大して面白くないのですが、いくつか白井がらみなどで抜き出し。
・菊池寛が「大衆小説ではどんな筋も考えられるけど、現代小説は非常に限定される」という意味のことを言ったのに対し、白井が「大衆小説も高級なものになると、やはり範囲が狭められてゆく」と反論しているのが興味深いです。
・国枝史郎はこの座談会には出席していませんが、司会のキングの記者が、「国枝史郎という方は、長篇を一つ書くのに荒筋を五十枚位書かなければ書けないそうです」と述べていて、実に意外。国枝は荒筋なんか作らないでどんどん興の赴くままに書いていっていたのかと(またそれで大体途中で破綻したのかと)思っていました。
・それに対して白井が、「長いものは十編なら十編に分けて、全体の荒筋と十編に分けたものの筋とを大体考える」と言っています。「富士に立つ影」が全十編ですので、それを念頭に置いての発言だと思います。こちらは頷ける話です。
・白井が「昼書くか、夜書くか」という話題を出し、昼でも戸を閉めて夜の気分を出して書くという人の例として「江戸川さんなんか、そうじゃないですか」と振っています。既にこの頃から江戸川乱歩の「土蔵で蝋燭を灯して書く」というイメージが人口に膾炙していたようです。
・前田曙山が、金色夜叉の貫一のモデルは巌谷小波だと言っています。当時の定説だったみたいです。
大日本雄弁会講談社「キング」昭和7年4月号「人気花形作家大座談会」
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