白井喬二の「東海の佳人」、15回の連載の内、10回分を読了。大日本雄弁会講談社の「キング」に1935年1月-1936年3月の間連載されたものです。最後の3回が揃っていたのと、各回に前回までのあらすじがついていたので、何とかストーリーを追っていくことができました。「陽出づる艸紙」をもう一つの「富士に立つ影」と評しましたが、この「東海の佳人」も、「富士に立つ影」と共通の要素を持った作品です。それは何かというと、時代は幕末で、幕府が行った鎌倉から逗子へ抜けるトンネルの工事を巡って、幕府側と倒幕反路軍が争って、最後はどちらが正しいかを論争で決着をつけるという話だからです。「東海の佳人」とは、工学者雲井濱太郎の娘の以勢子のことです。女性を主人公とする白井作品は比較的珍しく、この「東海の佳人」、「露を厭う女」そして「地球に花あり」くらいでしょうか。お話は、この以勢子とその兄の徹也、さらにその友人で幕府と反乱軍の間に立っているような鶴見平夷馬(へいま)、そして徹也と以勢子を捕らえ、さらに以勢子に迫る粗暴で傍若無人な幕府軍路隊長の細木原幹丈らを中心に進んでいきます。お話はトンネルを雲井濱太郎が設計し、その施工を長男である徹也が自ら行い、その工事の位置が間違っていて、トンネルが正しく掘り通せなかった場合には、徹也が射殺される、という緊迫した場面で始まります。ところが、トンネルは正しく掘り通されさましたが、工事を終えトンネルから出てきたのは徹也ではなく平夷馬でした。この事を追及に来た幹丈によって、雲井濱太郎の仕事場は焼き払われてしまい、濱太郎はショックでそのまま死亡してしまいます。以勢子は親の敵と泥酔していた幹丈を刺してしまいます。といった具合にかなり波乱万丈に話は進んでいきます。また、鶴見平夷馬は元々幕命で中国に渡って長髪族の乱(太平天国の乱)を調べてきた、というかなり変わった過去が設定されています。本当にこの頃の白井喬二は充実していると思います。この作品も何故単行本として出版されなかったのか理由がわかりません。
白井喬二の「東海の佳人」
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