白井喬二の「江戸市民の夢」を読了。文藝倶楽部で1928年2月から12月まで連載された作品。老大工の金剛寺の厳八というのが主人公です。この厳八が仕事で江戸に向かう途中で、ある城主の調練所に、まさに銃殺されそうになって調練所から逃げだそうとしている武士を見つけ、大工の腕で窓の鉄棒を切ってその武士を助け出します。で、その武士が活躍するかというと、全然大したことなくて、活躍するのは厳八の方です。大工としての腕はきわめて確かな上に、交渉事でも抜かりはなく、ある悪旗本が偽の工事を発注して、手付金の1万両を払うのに、贋金で払おうとしたのを、その上を行ってまんまと本物の1万両を持っていってしまいます。その金を取り返そうと、旗本の手の者が追ってきた時には、川へ飛び込んで30分も潜って逃げて無事です。この老大工、生涯童貞で、何と大工になる前は三十六回も職業を変え、その中の一つは手品師だったという、何とも理解不能の人物です。そうやって引っ張って、最後はどうなるかと思ったら実に意外な結末でした。ですが、ストーリーとしてはある意味無茶苦茶で出来はあまり良くないと思います。
白井喬二の「江戸市民の夢」
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