黒澤明の「生きる」

結局、オリジナルの「生きる」をAmazon Primeで見直しました。その結果、今回のカズオ・イシグロ版は単なる二流のダイジェスト版だな、と思うようになりました。今回のイギリス版が時間を短縮して色んなオリジナルの小さなエピソードをはしょっていますが、それらの小さなエピソードが実は本当にオリジナルの感動を増幅していることが良く分りました。またオリジナルでは、お役所仕事への批判という要素も強くありますが、イギリス版はそれをかなり弱めてしまっています。このお役所仕事の巨大な無力さが観る人に実感されないと、最後の仕事で公園を作り上げた主人公の鬼気迫る熱情が十分理解出来ないと思います。またイギリス版で、マーガレットとウィリアムズがUFOキャッチャーみたいなので獲得するウサギのオモチャは、オリジナル版で小田切とよが工場で作っていたものがそのまま使われていて、これはオリジナルへのオマージュだなと思いました。
それからオリジナルのもう一つの素晴らしさとして、主役の志村喬は言うまでもなく、とよ役の小田切みき(あのチャコちゃんのお母さんです)、文士の伊藤雄之助を始めとして、出てくる役者が皆本当に上手いのに感心しました。この時代はまさに日本映画の黄金時代だったのだと改めて思いました。
また主人公が胃癌であることを知って歓楽の世界を知るのは「ファウスト」ぽいなと思っていましたが、オリジナルではちゃんと伊藤雄之助演じる文士が「僕がメフィストフェレスの役を務めます」と言っていました。