オリバー・ハーマナスの「生きるーLIVING」

「生きるーLIVING」を観ました。ご承知でしょうが、黒澤明の不朽の名作を、カズオ・イシグロがイギリスを舞台に翻案したものです。十二分に感動的で良く作られていますが、それでもオリジナルに及ばない映画と思いました。残念だった点は、
(1)主人公がブランコに乗って口ずさむのがオリジナルは「ゴンドラの歌」でその歌詞が「命短し恋せよ乙女」で見事に映画の内容と共鳴していましたが、この映画では「ナナカマドの木」というスコットランド民謡で、単なる子供時代に親しんだ懐かしい歌、になってしまっていました。(ググったら、これはカズオ・イシグロがオリジナルはあまりに直接的過ぎるとしてこの歌に変え、歌によって亡き妻(スコットランド出身)と亡き妻が生きていたころもっと精力的に働いていた自分を懐かしむ、ということでこの歌にこだわったようです。しかし亡き妻なんて写真一枚しか出てきませんし、またオリバー・ハーマナス監督もこの歌は別のに変えたかったようで、カズオ・イシグロのこだわりは独りよがりなものになっていると思います。)
(2)オリジナルでは元部下の女性でオモチャ工場で働いていた人に「あなたも何か作ってみたら」と言われ、公園建設を思いつきますが、この映画はそういう理由付けがなく唐突に主人公が公園作りを開始します。
(3)主人公に歓楽の世界を教える文士が、オリジナルでは伊藤雄之助によって演じられ、名演でしたが、この映画の同じ役の俳優はあまり存在感がないです。

オリジナルには無い、新人の部下を付け加えたのは、悪いアイデアでは無いと思いますが、逆にそれほど効果的とも思いませんでした。

一つ心に刺さったのは、「何か(前向きなこと)をやろうとすると憎まれ役になる」というセリフで、実際に最近もそういう経験をしたので、ちょっと身につまされました。
オリジナルを観ないでこれを観た方には、是非オリジナルを観ていただきたいです。リメイクがオリジナルを超えることはまず無いということです。