約一月前にeBayで購入したPhilips製のPCL86が2本やっと到着しました。早速etracerで測定してみましたが、3極管部でgm(相互コンダクタンス)が一方が他方の+4.4%、5極管部で+1.3%で非常に良く揃っており、これは十分にペア管として使えそうです。端子部を見ても、使い込まれたものは通常黒錆が発生していますが、これはそれも少なく、おそらく新品の状態でそのまま保管されていたものだと思います。
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アンプキット組み立て開始:ファストリカバリーダイオードを試す
確定申告の作業がかなり進んだので、次の真空管アンプの準備に取りかかりました。今回のはKT77のプッシュプルでほとんどが手配線のキットです。今回もかなりの部分の部品を交換して作ります。写真はブリッジダイオードの代りに使う、ファストリカバリーダイオードで作ったブリッジです。左がロームのスーパーファストリカバリーダイオード、右がビシェイのファストリカバリーダイオードです。電流が逆になった時の回復時間が非常に短く、切れの良い音を出すと言われていますが、今回が初トライです。ユニバーサル基板を使い、それにピン端子をくっつけたのですが、なかなか作業は大変でした。まあせっかく2つ作ったので、アンプが完成したら通常のブリッジダイオードも含めて聴き比べてみたいと思います。
Mullardの自称マッチドペアのPCL86
PCL86という真空管は、オークションサイト以外で売っているのは、エレキットのeKジャパンのサイトだけです。そこで最初に2本買ったPCL86はEDICRONブランドのものでしたが、三極管部のIa値が一方が片方の1.45倍という、ペア管としてはまったく使えないレベルのものでした。なのでもう2本買ってその中から選ぼうとしたのですが、何と今度はEDICRONではなくMullard、しかもMade in Great Britainです!(現在新品として売られているMullardの真空管は多くがロシア製です。)更には2本の箱がシールでくっつけてあって「Matched Pair」とあります。おお!と思いましたが、etracerで測定してみたら、三極管部のIaが一方がもう一方の+21%、gmが+9%で、ペア管とはとても言えないレベルでした。こういう風にペア管と称して売っていても、実際はまったくペア管ではないというのは非常に良くあることだと思います。
PCL86再測定-マッチドペアの条件とは?
昨日PCL86の測定をしてから、一般的に真空管でマッチドペアとして売られているものの測定方法とその判定条件をネット上で調べました。昔からある真空管測定器が測っているのはgm(相互コンダクタンス)のようで、これが一番重視され、次がIaの電流値のようです。etracerはQuickScanというモードで、Ia、内部抵抗、gm、μ(増幅率)の4つの値が取れます。なので、もう一度全ての手持ちのPCL86でデータを取り直しました。結果として、最初から販売元によりマッチドペアとして送られて来たEiのが値が揃っているのは当然として、私がある意味勘で選定したITT Lorenzのが非常に似通ったペアになっていて、3極管のgmに至ってはわずか0.6%しか違いません。一般的にはシングルアンプに使うのであれば5%以内ぐらいにあればいいみたいです。というか聞いて問題無ければそれでいいということです。(シングルアンプの場合。プッシュプルではペアの2本が揃っていないとトランスに直流が流れてコアを磁化して歪みが増えるということになるようです。)
なお、Ei以外で最初に買ったMazdaの内一本はかなり電流値が低くなっています。もう寿命が近いのではないかと思います。
etracerによる各種PCL86の測定
etracerを買った最大の目的である、色んなブランドのを入手したPCL86の特性値を測定してみました。PCL86は3極管とビーム管の複合管であり、測定はそれぞれ別に行ないました。etracerは12AX7のような双三極管については、1度に両方の特性が取れますが、さすがに種類が違うと一緒には測定出来ないようです。
EIのはPCL86シングル超三結アンプキットに最初から付いて来たもので、販売元でチェックしたペア品です。なので3極管特性は良く揃っています。しかしビーム管部はそうでもないです。この辺り、ペア管の選定にはどこを重視すべきなのかがまだ良く分かっていません。Mazdaの2本がかなりバラバラですが、この2本はeBayで別々の売り手から買ったものなので仕方ないかと。Lorenzの4本(内2本がITT、後の2本がSELブランド)はマッチ品として売られていたものですが、特性を見る限りまったくマッチ品ではないです。これとは別にAmazonで買ったKT77のクワッドを測って見ましたが、こちらはきちんと揃っていました。また、EDICRONのはエレキットのサイトで補修品(同社のPCL86シングルアンプ用)として売られているものですが、確かにペアとして売られているものではないにせよバラツキがかなり大きいです。なお、今私が実際に超三結アンプに使っているのはITT Lorenzのです。なお、特性が揃っているからといって実際に聞いてみて音がいい訳ではありません。むしろばらついていても、聞いてみるとまったく問題を感じないことの方が多いです。なお、etracerでPCL86を測定する時のcfgファイルを付けておきます。(3極部用と5極部用)もしかすると間違いがあるかもしれませんが、少なくとも測定結果はほぼレファレンス値に近い結果が出ています。
なお、参考までにPCL86のピン配列を私なりに分かりやすく書いておきます。
① 三極管のグリッド
② 三極管のカソード(陰極)
③ 五極管(実際にはビーム管)の第2グリッド
④ ヒーター1(三極管、五極管共通)
⑤ ヒーター2(三極管、五極管共通)
⑥ 五極管(ビーム管)のプレート(陽極)
⑦ 五極管のカソード(陰極)、ビーム形成電極、三極管と五極管の間のシールドの全てに接続(下のPhilipsのデータシートにある図だと、五極管みたいな書き方がしてありますが、実際には一番上のグリッドはカソードにつながっていて、他の2つのグリッドを取り囲んでビーム効果を出します。下右の五極管{ビーム管}のみの図解を参照。)
⑧ 五極管のグリッド1
⑨ 三極管のプレート(陽極)
真空管測定器:etracer
ジャーン!真空管測定器をゲット!台湾製のetracerというものです。一般に真空管測定器と言うと、1940~1960年頃の中古でちゃんと動くかどうかも分からないものをオークション等で買うぐらいだったのが、これは完全な新品で、2018年ぐらいから発売されているものです。しかもこれは単に各パラメーターを測定するだけでなく、いわゆるプレート特性図まで作ってくれる優れものです。私に使いこなせるか不安でしたが、やってみたら簡単でした。各真空管の設定ファイルを読み込み、それに従ってジャンパー線で配線を行ない、ソフトのRUNボタンをクリックするだけです。設定ファイルにない真空管のはデータさえあれば自分で作ることが出来ます。これでオークション等で入手したビンテージ真空管の特性をチェックして、ペアを選定したりとかが簡単に出来ます。グラフは手持ちのGolden DragonのKT88のものです。
次の真空管アンプキット:サンバレー SV-P1616D(部品大幅改)
2月に、音の工房のPCL86シングル超三結アンプキットで、プリント配線板ベースの真空管アンプキットの作成に成功、また部品のほぼ総取っ替えも大成功でした。
それで今度は手配線のキットをもう一度作りたいと思ったのと、現在KT77とEL34がそれぞれ4本余っているので、これが使えるアンプキットを探しました。結果としてサンバレーのSV-P1616D(真空管無し)、税抜き95,000円、を買いました。(本当は上杉佳郎さん設計の真空管アンプを自分でシャーシの穴開けレベルから作ってみたいですが、まだそこまでのノウハウと知識が無いです。)
他のページで書いたように、このサンバレーのアンプは本当は「買ってはいけない」と判断しているものですが、部品の大幅取っ替えを行えば大丈夫かと思いました。また、最初にここのアンプキットを組み立てたのはほぼ10年前なんで、さすがに色々批判されて多少はまともになっているかと期待しました。しかし、届いた現品の部品を見て、期待は悪い方に裏切られました。良くなるどころか、更にひどくなっていました。以下、どういう風に変えるか、どこがおかしいかを説明します。(以下の写真は左がキット付属のもの、右が私が自分で用意したものです。)
1.電源スイッチ
サイトの写真ではベークライトのボディーだったので、お、ついにNKK製トグルにしたかと思ったら、届いたのは黒い中国製トグル。しかも定格20A@12VDC、ってこれは自動車電装品用ですが…しかもタブ端子(ファストン端子用)!これだけでもサンバレーという会社の部品の選定がいかに適当かが良く分かります。DC12Vで20Aという定格は、NKKのスイッチの例で125VACに換算すると、せいぜい6A~8A定格に過ぎません。このアンプキットに付いているヒューズが5Aですから、この定格はちょっと不安があります。真空管アンプの電源部には大容量のコンデンサーが使われているため、スイッチONの瞬間にかなりの突入電流が発生します。しかもこのアンプにはスパークキラーは付いておらず、何も突入電流対策はされていません。速攻でNKKのS-21Aを注文しました。(2極単投=ON-OFF)こちらは125/250VACで15Aの十分ゆとりがある定格です。2極にしているのは、電源の+と-側を両方一度に入り切りする「両切り」にするためです。高電圧がかかる機器では普通両切りにします。なお、このNKKのSシリーズのトグルは上杉研究所の真空管アンプにも電源スイッチとして使われています。(型番は違います。)
それからスイッチONの時の突入電流を防ぐスパークキラーですが、何と10年経っても付いてきませんでした!たかが200円もしない部品なんですが。デフォルトのまま使うと、ON時のポップノイズでスピーカーが傷むだけでなく、中国製自動車用トグルの接点も損耗して行き、おそらく5000回も開閉すればダメになるのではないかと思います。(ダメにならなくても接点の損耗により接触抵抗が増加し、音質的にどんどん劣化して行きます。)ちなみに音の工房のアンプキットにはきちんとスパークキラーが付いてきましたし、エレキットのアンプはスパークキラーまたは遅延リレーで対処しています。トライオードの完成品は遅延リレーで突入電流対策をしています。何もしていないのはサンバレーのアンプだけです。ちなみにスパークキラーは電源トランスの0Vと100Vの端子に接続します。スイッチに並列に接続すると、スイッチがOFFの時でも50Hz、60Hzという交流がわずかですがスパークキラーのコンデンサーを流れます。
2.電解コンデンサー
電解コンデンサーで一番大事な電源での平滑用の温度定格が他のが105℃なのに85℃です。私が買ったのは当然105℃で電圧も350VDCにしていますが(キット付属品は315VDC)、高さがありすぎてケースに入らないので放熱も兼ねてケースに穴を開けることを考えています。また一応同スペックで高さが同じのも取り寄せ中です。
3.カップリングコンデンサー
同じ会社の真空管アンプマニアに海神無線という店を教えてもらって、ASCと言う会社のフィルムコンデンサーを買いました。しかし耐圧が付いてきたものよりちょっと低いので、別のものを検討しています。
4.セメント抵抗
カソード抵抗用に20Wのセメント抵抗が付いてきています。しかし、以前作ったサンバレーの300Bシングルのセメント抵抗は、下の写真のような状態になっています。(このグリスのようなしみ出して来ているのが何なのかは不明です。一応まだ動作はしています。)実はセメント抵抗の耐熱性ってあまり高くはなく、発熱が多い場合は、金属ケース固定抵抗を使うべきだと思い取り寄せ中です。しかもマニュアルにはこのセメント抵抗の細いリード線で、熱対策のため基板から浮かせて取り付けろとなっています。振動による音の劣化が懸念されます。
5.その他抵抗
その他の抵抗も、すべて定格を1ランク上げ(例えば1/2W→1W、1W→3Wなど)、TOAかVishayのものに変更します。音質のためと言うより、全体での発熱を下げるためです。
6.ボリューム
今回付いてきたのが、またも左の小型で摺動面が露出している安物です。ツマミも安物のラジオのようです。以前300Bシングルのアンプにもこれと同等のものが使われていて半年で壊れました。(摺動部が露出しているのでホコリやゴミ等が中に入れば短期間でダメになります。)当然右のアルプスアルパインのRKシリーズに変更します。穴径を大きくし、回転止めの穴を新たに開ける必要があります。
7.ACインレット
付いてきたのはアース端子無しのもの。確かにアース端子には普通接続しないので不要と言えば不要ですが、コネクターの物理的な固定には役に立っている筈です。ともかく少しでも安物をというのは徹底されています。
8.整流用ダイオード
これは品質とか信頼性の問題では無く、音質の向上策として、今回初めてファーストリカバリーダイオードを4本使って自分でブリッジにして使おうと思っています。
9.真空管ソケット
付いてきたのはプラスチック製。挿入しにくい上に固定も弱いです。ステアタイトというセラミック製のに変更。このアンプ、出力管を色々差し替えられますよというのがコンセプトのようですが、それであれば真空管ソケットは良質なものを使うべきです。そうでないと接触不良とか最悪ピンが折れると言うトラブルが予測出来ます。
10.配線材
サンバレーのアンプキットは、スピカー出力回りにシールド線を使いますが、上杉佳郎さんによれば真空管アンプにシールド線は不要で、却って高域が落ちたりすることがあるということであり、今回はシールド線は使わないつもりです。その代り、音の工房のアンプでマスターしたツイストペア線は使いまくろうと思っています。その他付いてきた線は細すぎで、もっと太いOFC線やテフロン絶縁の線を使う予定です。
以上見て来てお分かりになると思いますが、サンバレーのアンプキットは組み立てた直後はちゃんと音が出ていたとしても、半年、1年経つとトラブルとなることが十分予測出来るような、そんな安くて信頼性に疑問がある部品が多用されています。間違えても完成品を買わないように。完成品で買いたいならトライオードの真空管アンプの方が10倍まともです。キットを買う方も、安い部品は総取っ替えした方がいいと思います。サンバレーのサイトでカップリングコンデンサーのアップグレード用のものを売っていますが、そういうものを買ってそこだけ良くしても、他の部分が故障したら何の意味も無いですから。
3WアンプでJBLが鳴りました。
PCL86シングル超三結アンプに、駄目元でJBL4307をつないでみたら、何とプッシュプルの高出力真空管アンプでもきちんと鳴らせなかったのがわずか3W+3Wのシングルアンプがちゃんと鳴らせました!
但し条件付きで、サブウーファーを使用することです。JBL4307自体はサブウーファーは必要無いんですが、真空管アンプにとってはサブウーファーで低音をカバーしてもらうと楽になるみたいで、どの真空管アンプも高音での歪みが減ります。
このPCL86シングル超三結アンプの結果が良かったのは、
(1)超三極管接続を行うことにより歪み、特に高音の歪みが減る。
(2)超三結で出力管のインピーダンスが減りダンピングファクターが高くなる。このアンプのダンピングファクターは12.5です。上杉佳郎さんはダンピングファクターは10以上あれば良いと言っています。
PCL86の色々
今回の超三結アンプ用のPCL86、結局これだけ揃いました。左下の箱無しが最初から付いていた旧ユーゴスラビアのEiのもの。左上の4本は4本マッチでeBayで買ったLorenzのもの。左2本がITT Lorenzブランド、右2本がSEL (Standard Elektrik Lorenz)ブランドで、右の方が新しいようです。Lorenzの真空管はラジオ用ではテレフンケンのライバルであり、昔はナチスドイツの軍事用無線機にも使われたようです。その右はGEの真空管ブランドのMAZDA。ロンドン製となっています。マツダというと日本のもののように思われるかも知れませんが、あれ(マツダランプ)は東芝がGEのライセンスでマツダ名(日本語の松田ではなく、ゾロアスター教の光の神のアフラ・マズダから取った名前)で電球などを作っていただけです。その下のEdicronはエレキットのサイトで補修用で売っているもので、これもロンドンという表示があります。(HPはここで、この会社の内容を見る限りロシアや東欧、中国の真空管を仕入れて選別して売ってるだけの業者に見えます。)その左がPOLAMPでポーランド製です。PCL86は東欧のテレビの音声出力管として良く使われたようで、その関係でポーランドで生産されていました。このブランドが一番多く市場に出回っているようです。PCL86はこのようにラジオやテレビに使われたのでそれなりに生産量は多く、しかしヒーターの電圧が14Vと特殊なので(電源トランスのタップは6V、12Vはありますが通常14.5Vとかは無いです。但し春日無線のトランスが一部対応しています。)、素性のいい真空管の割りには安く手に入ります。入手していないものではPhilips製があります。これもeBayでいくつか出ていました。
取り敢えず今はITT Lorenzをアンプに挿して聴いています。気のせいかもしれませんがやっぱりEiのよりいいような気がします。(超三結では出力管の差は出にくいとされていますが。)