白井喬二の「上杉謙信」

jpeg000-39白井喬二の「上杉謙信」を読了。上杉謙信と武田信玄の戦いを描いて、いわゆる川中島の戦いがクライマックスになります。
ただ、前半は上杉家の武将の鬼小島弥太郎とその友である甘粕備中守(後に甘粕近江守)が、若き謙信である長尾景虎と三人で不犯の誓いを立て、一生女人を遠ざけるとしていた所へ、鍛冶屋の娘の小衣が弥太郎に恋します。弥太郎も困惑しつつもまんざらでもない所があったのですが、甘粕備中守もあろうことか小衣に恋してしまいます。その結果二人で競い合うようなことになり、二人は手柄を求めて甲斐の国に間者として忍び込みます。二人は結局武田方の武将二人を斬り殺して、甲斐の国を脱出して越後に帰って来ますが、このことが原因で弥太郎は味方から甲斐に通じているという疑いをかけられ…(以下省略)というのが川中島の戦いの前までの話になります。いざ信玄との戦いになると、鬼小島弥太郎も甘粕近江守もそれぞれ鬱憤を晴らすような大活躍をします。
謙信と信玄の戦いを描いた作品では、海音寺潮五郎の「天と地と」が有名で、NHKの大河ドラマや映画にもなりましたが、この白井喬二の「上杉謙信」も悪くないと思います。信長や秀吉や家康ではなく、この謙信と信玄こそ、戦国時代のスーパースターで、川中島の戦いこそ、その二人ががっぷり四つに組んで戦った素晴らしい戦いだったと思います。

曲亭馬琴・白井喬二訳の「南総里見八犬伝」(下)

jpeg000-37曲亭馬琴・白井喬二訳の「南総里見八犬伝」(下)読了。
なんせ、八犬伝のオリジナルは、全98巻、106冊もあるそうですから、それがこのボリュームで読めるのは幸いです。それでも普通の文庫本の4冊分くらいありますが。私は伝奇小説が好きなんですが、考えてみればこの八犬伝が元祖ですよね。
とにかく八犬士が八人集まるまでがはらはらどきどき、そして最後の犬江親兵衛が現れると、この人が年は一番若く、再登場時(4歳の時に神隠しに遭い、行方不明になります)の時もまだわずか9歳。しかしながら武芸抜群で、再登場後は胸が空くような大活躍です。しかも美少年という設定です。後は出てくる悪役の名前が素晴らしいです。鰐崎悪四郎猛虎(わにさきあくしろうたけとら)、暴風左衛門舵九郎(あかしまざえもんかじくろう)なんてのはすごいです。
全体に白井喬二の訳はとても読みやすく、そして格調も失っていません。お勧めです。

曲亭馬琴作、白井喬二訳の「南総里見八犬伝」(上)

jpeg000-35曲亭馬琴作、白井喬二訳の「南総里見八犬伝」(上)を読了。白井喬二関係の著作で、現時点で一番売れているのはどうも「富士に立つ影」ではなく、この八犬伝のようです。Amazonのレビューを読む限り、白井訳は非常に評判がいいみたいなんで、読んでみました。「八犬伝」は子供の時、子供向けの翻案を読んでいますが、ちゃんとしたのは読んだことがなかったので、丁度いい機会と思いました。白井喬二は学生時代から、近松門左衛門や井原西鶴の作品の現代語訳を手がけていて、手慣れたものです。白井の現代語訳は、非常に読みやすく、リズムもいいと思います。そして白井は馬琴からストーリーテリングの手法を学んでいるように思います。
上巻では、八犬士のうち、六人までが判明し、七人目と思われる人物が出てきた所で終わっています。

白井喬二の「東遊記」

jpeg000-31白井喬二の「東遊記」を読了。飛鳥亭主人のペンネームで1922年に「人情倶楽部」に連載したもの。名前から分かるように、「西遊記」のパロディーで、三蔵法師が一念法師、お供が孫悟空、沙悟浄、猪八戒の代わりに、蛙舎麟(あしゃりん)、土竜星(どりゅうせい)、爬六甲(はろくこう)が付き添い、天竺ではなく地竺にお経を取りに行くという話です。孫悟空の如意棒に相当する武器は蛙舎麟、筋斗雲に相当するものは土竜星がそれぞれ所持していて、一対一の対応にはなっていません。活躍の仕方も最初は蛙舎麟が活躍しますが、土竜星が登場してからはもっぱら土竜星が活躍します。こういう偽古典的な大ぼら話を書かせたら、白井喬二の右に出る人はいません。1940年4月に単行本になってから、再版されておらず幻の本となっていましたが、1999年にようやく出たのが今回読んだ版です。本来は学芸書林の全集に入る筈でしたが、第二期の全集が中止されて日の目を見ませんでした。
それ以外に、白井狂風名義での「旧造軍艦」も収録。こちらは全5回の子供向けのお話し。残念ながらクライマックスと思われる第4回の分が欠けています。1886年にフランスで建造され、日本に回航される途中、南シナ海で行方不明になった、防護巡洋艦の「畝傍」の話をベースにしています。

白井喬二の「雪麿一本刀」(下)

jpeg000-30白井喬二の「雪麿一本刀」(下)読了。上巻では、仇と付け狙う青江霧太夫の手下の剣士10人ばかりをばったばったとなぎ倒して来た雪麿ですが、下巻に入るとようやく霧太夫の正体を突き止め、直接渡り合います。しかし、その戦いは邪魔が入ったり、霧太夫が逃げ出したりしてなかなか本懐を達することができません。そうこうしている内に、霧太夫は偽の切腹騒ぎを起こして死んだふりをし、その間に講武所の後釜を募集するという名目で、名だたる武門の秘伝書を集めて、それを自分のものにしてしまうという陰謀を企みます。霧太夫はある屋敷に隠れているのですが、それが「怪建築十二段返し」の再来のようなからくり屋敷で、その仕掛けにはまって雪麿は苦戦します。しかしながら奉行所の助けも借りながら、再度その屋敷に忍び込んで、見事秘伝書を取り返します。その時手伝った奉行所の者が忍術の心得があって、とこれは「忍術己来也」の再現。そして最後は奉行所公認での御前試合で、霧太夫と真剣勝負をして見事勝つ、という王道的展開です。全体的に深みはまったくないのですが、肩の凝らない理想的大衆小説です。雪麿を巡る女性も、最後に雪麿の妻となる香鳥、雪麿が世話になる大名家の鏡姫、年増のお壺、料亭の女お琴など、たくさん出てきて鞘当てを演じて飽きさせません。
なお、1961年にNETでTVドラマになっていて、主題歌を村田英雄が歌っています。

白井喬二の「雪麿一本刀」(上)

jpeg000-28白井喬二の「雪麿一本刀」(上)を読了。昭和31年から32年にかけて京都新聞に1年半連載されたもの。タイトルからもわかるように、雪麿という主人公が刀を執って剣の腕をひたすら奮っていく話です。「国を愛すされど女も」の大鳥逸平、「神曲 左甚五郎と影の剣士」の森十太郎と同じく、雪麿も何故強いのかがよくわからない(剣はちょっと習っただけで後は自己流)のに、次から次に現れる名剣士達をばったばったと倒していくという展開です。白井喬二も戦前の初期の作品では「新撰組」の独楽勝負、「兵学大講義」での兵学勝負、そして「富士に立つ影」での築城術での勝負のように、チャンバラに頼らないストーリー展開を主として来たのですが、戦後の作品は一転してチャンバラ主体の話が多くなったようです。後もう一つの特徴は、エロチックなお話しが多く含まれるようになったことで、雪麿の養父の為永春歌が、16歳の美人の弟子の裸絵を描いて、あげくの果てはその女性を犯してしまおうとしたりします。さらにはお壺という中年女性が出てきて雪麿を誘惑したりします。白井喬二も戦後になって、自己流の制約を取っ払って、伸び伸びと書いているように思います。

白井喬二の「寶永山の話」

jpeg000-27白井喬二の初期の短篇集である「寶永山の話」を読了。入っている話は、寶永山の話、月影銀五郎、本朝名笛傳、築城變、老子鐘、九段燈と湯島燈、拝領陣、遠雷門工事、油屋圓次の死、剣脈賢愚傳、青桐證人、鳳凰を探す、獅人面のぞき、芍薬畸人、ばっさい、闘鶏は悪いか、猿の方が貴い、神體師弟彫、國入り三吉、目明き藤五郎、邪魂草。読後感は一言で言えば、「奇妙な味」としかいいようがない内容です。白井喬二はおそらく実際には存在していないと思われる怪しげな出典文献を次から次に繰りだして、奇妙なお話を語ります。出てくる人物は白井喬二の趣味と見えて、何かの技術を持った職人みたいな人が多いですね。「富士に立つ影」に先駆けて、築城師も既に登場します。後は門作りの名人だったり、彫刻師だったり、水門作りの名人だったり。ただ、全体的に中篇・長篇と比べると、白井喬二の短篇はあまりうまくないように思います。お話がただ奇妙だ、に終わってしまっていてもう一ひねりがないように思います。

谷川流の「涼宮ハルヒの驚愕(後)」

jpeg000-24谷川流の「涼宮ハルヒの驚愕(後)」読了。
ともかく、表紙の女の子が可愛いので、それで十分です。
「涼宮ハルヒ」シリーズは、いとうのいぢの絵でもってます。
この「驚愕」は「分裂」の続きということみたいですが、「分裂」読んだのは8年も前なんでまったく覚えていないです…1年前に買った本でも行方不明になる部屋ですので、8年前のものは腐海の奥底に沈んでいます…

小林信彦作品についてのエントリー、リンク集

このブログにおける小林信彦作品へのエントリーのリンク集です。

袋小路の休日
虚栄の市(1)
虚栄の市(2)
虚栄の市(3)
冬の神話
監禁
日本橋バビロン
汚れた土地-我がぴかれすく
大統領の晩餐
丘の一族
夢の砦
衰亡記
極東セレナーデ
ドジリーヌ姫の優雅な冒険
唐獅子株式会社、唐獅子源氏物語
コラムの冒険 -エンタテインメント時評 1992~95
消えた動機
小説世界のロビンソン
パパは神様じゃない
素晴らしい日本野球
地獄の読書録
神野推理氏の華麗な冒険
ぼくたちの好きな戦争
地獄の映画館
超人探偵
変人十二面相
地獄の観光船
オヨヨ大統領の悪夢
一少年の観た<聖戦>
オヨヨ島の冒険
時代観察者の冒険
ビートルズの優しい夜
怪人オヨヨ大統領
オヨヨ城の秘密
名人 志ん生、そして志ん朝
セプテンバー・ソングのように 1946-1989
大統領の密使
合言葉はオヨヨ
秘密指令オヨヨ
怪物がめざめる夜
背中合わせのハート・ブレイク
紳士同盟、紳士同盟ふたたび
イエスタデイ・ワンス・モア
イエスタデイ・ワンス・モアPart2 ミート・ザ・ビートルズ
世界でいちばん熱い島
サモアン・サマーの悪夢
私説東京放浪記
ドリーム・ハウス
つむじ曲がりの世界地図
小説探検
ハートブレイク・キッズ
イーストサイド・ワルツ
ムーン・リヴァーの向こう側
新編 われわれはなぜ映画館にいるのか
裏表忠臣蔵
結婚恐怖
本は寝ころんで
東京少年
<超>読書法
私説東京繁昌記
流される
兩國橋(家の旗)
決壊
和菓子屋の息子 -ある自伝的試み-
四重奏 カルテット
横溝正史読本
決定版 日本の喜劇人

谷川流の「涼宮ハルヒの驚愕(前)」

jpeg000-23谷川流の「涼宮ハルヒの驚愕(前)」読了。ここのところ、ずっと白井恭二ばかり読んでたので、ちょっと気分変え。「涼宮ハルヒ」シリーズは、最初アニメ見てそれから原作を読みだして、2008年前半に「涼宮ハルヒの分裂」まで読んでいました。その後はフォローしていませんでしたが、久しぶりに検索してみたら続刊が出てたので(といっても5年くらい前)なので、久しぶりに買って読んでみました。このシリーズについては、巻が進むほど訳の分からない話になっていく、という印象でしたが、この巻はますますそうなっていました。新しい宇宙人、未来人、超能力者が増えていて、本当にワケワカです。しかも、同じ時間帯で二つの話が並行して進む、というパラレルワールド的構成。とりあえず、(後)を読まないとどうなるかわかりません。