大西一成の「マスクの品格」と自家製マスクの改良

大西一成の「マスクの品格」をざっと斜め読みしました。コミックが表紙ですが、中身は真面目です。
現在、サージカルマスクは医者が細菌やウィルスを吸い込まないためのマスクと一般に思われていますが、話は逆で医者が自分の唾とかを手術する患者の手術野に飛び散らせないようにするのが目的、ということでそれはそうですね。
やはり予想した通り、BFE(細菌捕捉率)とVFE(ウイルス捕捉率)の試験というのは、マスクの周囲をテープで止めて、周囲からの空気の漏れを0にして行うもの。BFEとVFEが99%とか謳ってあってもそれは要するにフィルター素材の特性であり、通常に装着した不織布マスクは、マスク周囲からの漏れがほぼ100%だそうです。しかし最近の日本メーカーブランドの不織布マスクにはかなり密着性が改良されたものもあり、場合によっては漏れ率が10~30%ぐらいまで行くものがあるそうです。
逆にN95マスクであっても、その形状は決まっているため人によって合う合わないがあり、合わないN95マスクは非常に効果が低いということになります。
結局、本当にウィルス予防効果が100%ではなくてもある程度あるマスクを作ろうと思ったら、個人毎に採寸して専用のマスクを作るしかないということだと思います。しかしこのために、市販の不織布マスクの周囲を押さえる形状記憶合金で出来たフレームみたいなのを作ったら、かなり売れるんじゃないかと思います。
取り敢えず自家製マスクで、今ノーズフィットを半田でやっていますが、これを口の周りを円周上に配置して、密着性を改良出来ないかを検討してみます。→結局やってみて、顎の所の下部にフィット機能を追加するのは効果ありました。しかし左右の頬の所はカーブがゆるやかであまり効果がなく、結局上下だけにしました。(なお、ついでに今までビニールテープでハンダをマスクに付けていましたが、結構外れるので、強力な両面テープに変え、マスクと不織布の両方で固定するように改良しました。

なお、ブックカバーチャレンジで表紙デザインの著作権についてうるさく言って来た手前、若干著作権に配慮(?)しました。(却って改変で著作権者に怒られるかも。)

これが本当のアベノマスク?

不織布マスクの密着性を改善するのに、プロレス用の覆面が使えないかと思ってAmazonで検索していて出てきたのがこれ。うーん、これは感染予防に実に効果が高そうです。アベノマスクの布マスクじゃなくて、これを一家に一つ配っていたら支持率上がったかも。(笑)

盲目になるなかれ

キケロの格言で”Non solum fortuna ipsa est caeca sed etiam eos caecos facit quos semper adjuvat.”というのがあります。意味は「運命の女神は自分自身が盲目であるだけでなく、自分がいつも手助けする者も盲目にする。」です。解説するとローマの神話では運命の女神は盲目であるとされ、そのため「何でこんな奴にこんな幸運が」という事態がしばしば起こります。しかもそれだけではなく、しばしば幸運に助けられる人、つまり運命の女神が助ける人は、それが単なる幸運のおかげではなく、自分自身が優れていたから、とか思い始めて正しいことが見えなくなる「盲目」になる訳です。多くの場合手痛いしっぺ返しを後でくらうことになります。この格言、今の日本にぴったり。政府その他の政策が優れていて新型コロナの拡散がほどほどに済んだのではなく、おそらく何らかの免疫などに単に助けられていたから欧米のような大惨事にはならなかった、というだけ。それが分らないで「日本すごい、日本人すごい」とか言っている人は本当に盲目なんだと思います。(別に視覚障害の方を差別する意図はありません、念のため。)

帯電処理不織布使用の自家製マスク試作

新しい帯電処理不織布を用いたマスクの試作品が出来ました。付けてみましたが、懸念であった息苦しさはあまりなく、また暑苦しさも直射日光下を長く歩いたりしない限りは大丈夫かなという感じです。
私は今の日本のコロナウイルスの状況で安心すべきではなく、変異したウイルスの第2波、第3波が来ることを想定して今の内に個人で準備出来ることをしておくべきだと思います。マスクはこれ以外にも国産ブランドがあれば買ってますし、また中国製不織布マスクも5種類くらい買って比較してテストしています。
なお、このウレタンフォーム製マスクは、マスクとしてのフィルターの機能には疑問がありますが、全体で弾力性があるという長所もあります。普通の不織布マスクの上からこのウレタンフォーム製マスクをすると、不織布マスクの密着性が向上し、手軽に出来るマスク強化法としてお勧めです。

自家製強化マスクの最終兵器

自家製強化マスクの最終兵器。帯電処理してある不織布です。元々は車のエアコン用のフィルター素材です。実は帯電剤というのを探してそれで今使っている不織布を処理し静電気を帯電させようとしました。丁度静電気でゴミを吸着させるモップの帯電を復活させる薬剤があったのですが、成分を見ると有機溶剤を使用していて、残留した揮発分が出る可能性があるものを呼吸器の側で使うのは危ないので断念しました。それで代わりに見つけたのがこれ。サイズは500x500mmで、100x100mmサイズで使えば25回分になります。それはいいんですが問題点は厚すぎること。これを付けるとかなり呼吸が苦しくなりそうですし、またこれからのシーズンの暑さに対しても良く無さそうです。なので、このフィルターの使用はよっぽど感染の危険性が高い場所に行くときとかになりそうです。

感染の確率を下げる

コロナウイルスの予防に関する議論で、目に付くのは1か0かの議論で、ともかくコロナウイルスは例え1ウィルスでも体に入ったら駄目と考えて極端なことを言っている人が目立ちます。ウィルスの中には確かに数個レベルでも症状を引き起こすものもあるみたいですが、一般的なコロナウイルスでは最低でも1万個レベルぐらいが体の中に存在しない限りは、普通の免疫システムで排除されるようです。もちろん新型コロナウイルスがどのレベルまで入ってきたら症状が出るかという正確な研究結果はまだありませんが、他のコロナから考えてほぼ同等レベルであろうという推測は可能です。なので不完全な手洗いでも体に入るウイルスの数を減らすという意味では有意であり、うがいも同じです。すべての細菌・ウイルスを死滅させるのを滅菌といい、病院で手術に使う道具(メスなど体の組織の中に入る器具)は滅菌しないといけません。そのレベルは細菌・ウィルス存在確率が1ppm(1/100万)以下です。その滅菌をするためには、オートクレーブ(高温高圧の蒸気で2時間くらい処理する)、ホルマリンガス、酸化エチレンガス、ガンマ線等々、家庭で使うには不可能なものばかりです。ちょっと前にナイチンゲールの本当の功績について紹介しましたが、彼女の大きな功績は衛生の考え方に統計学的思考を持ち込んだことで、完全な対策でなくても、効果のある対策を積み重ねることで社会全体では大きな効果が出ることを実証したことにあります。感染防止は1か0かではなく、トータルでどれだけ感染の確率を下げるかです。

ヒュー・スモール著、田中京子訳の「ナイチンゲール 神話と真実」

ヒュー・スモール著、田中京子訳の「ナイチンゲール 神話と真実」を読了。これを読んだのは、こういう時期で治療の現場で奮闘する看護師さん達の元祖がどういう人だったのか、ちゃんと知りたくなったからです。既に一冊読んだのですが、それは中学生ぐらい向けのもので、物足らなかったので更に購入したものです。この本は、ナイチンゲールが成し遂げたことで本当に偉大であったものは何だったのかを明らかにし、逆に今まで「クリミアのランプの天使」として称賛され続けてきた彼女のスクタリの野戦病院での活動の彼女自身の評価はどうだったのかを明らかにします。
ナイチンゲールが実際に看護婦として働いた期間はわずか2年程度であり、彼女はクリミア戦争の現場から帰って来て以来、一度も看護婦として再度働くことをしていません。その理由の解明がこの本の主題です。ナイチンゲールは自身が働いたスクタリの野戦病院でのひどい状態が、一つはやたらと重傷の患者ばかりが送られて来ること、そして食料を含む物資が、非能率的な官僚組織のせいで不足して、患者が栄養不足に陥っていたことが原因だと信じていました。そして後者については自費で食料を調達したりして改善に努めています。しかし戦後の調査分析で明らかになったのは、そのスクタリの野戦病院での死亡率は他の野戦病院の倍でした。そして統計学と衛生学の専門家であるファー博士から、スクタリの高い死亡率は重症患者が他より多かったことでもなく、また食糧不足によるものではなく、病院それ自体の衛生状態の劣悪さ(湿度の高い湿地に作られ、下水処理はまずく、換気は悪い上に患者である兵士は高密度に詰め込まれ、等々)でした。多くの兵士は元の怪我で死んだのではなく、スクタリで新たに感染病にかかって死んでいました。これはナイチンゲールにとって衝撃の事実で、彼女は「不作為の罪」で多くの役人や医者、軍人を攻め立てましたが、知らなかったとはいえ、スクタリの基本的な衛生を改善することをせず、多くの兵士を死に追いやったのは自分だと思うようになりました。(実際に彼女は基礎的な衛生状態を改善すること無しに病棟の拡張までやってより多くの患者を受入れ、そして多くを死なせている訳です。)これこそナイチンゲールが帰国後二度と看護の現場に戻らなかった理由です。その代りに彼女は公衆衛生改善の権化となり、残りの人生の多くの力をそれに注ぎ込みます。そしてついに1875年に公衆衛生法を制定させ、各家庭の下水設備を整備する義務を定めます。ナイチンゲールの頃の平均寿命はわずか40歳ぐらいで、1930年頃にはそれが60歳ぐらいにまで延びます。これまでそれの主因は主として栄養状態が改善されたためとされていましたが、実際はこの法律のおかげでイギリスの家庭の衛生状態が大きく改善し、感染症にかかる人が激減した結果なのだそうです。
丁度今コロナ禍の真っ最中にあって、まさしく三密のような環境による感染が議論されている真っ最中に、この本でナイチンゲールの本当の功績を知ることが出来たのは良かったと思います。

スピリタスは消毒薬に使えないか?

スピリタスと言うポーランドのウォッカがあって、そのアルコール度数は96%で、世界で一番度数が高い酒として有名です。とても危険なお酒でストレートで飲んだりしたらひっくり返る可能性大です。ポーランドでは、果実酒を作る時のベースとかカクテル用に使っていて、ストレートで飲む人はほとんどいません。
その消毒液、何用ですか?新型コロナ対策で知っておきたい、正しい「消毒」の作法」というWeb記事で、小橋元教授なる人がこのスピリタスを消毒薬として使うことについて、「飲料用アルコールには香気成分と呼ばれるお酒独特の風味を出す成分や、糖分などが微量に含まれています。ですからこれをそのまま消毒用として使うとべたべたしたり、それを栄養にしてほかの細菌やカビなどが増殖することもありえます」などと言っています。これは大笑いのコメントで、この人はスピリタスというお酒を知らないようです。いわゆる乙類焼酎などには芋焼酎みたいに原料の風味が残っているものがあったり、またジンではジュニパーベリーという香味成分を加えています。また韓国の真露みたいな焼酎には砂糖が混ぜられている場合があります。しかし、スピリタスは、
(1)70回も蒸留を繰り返して96%というエタノール濃度を出しています。香気成分などもし入れていたとしてもこの過程で全部飛んでしまいますので無意味です。残った4%は単なる水です。通常の蒸留だと96%が限界で、何故ならエチルアルコールと水が共沸という現象を起こして一部が同じ温度で沸騰するので、蒸留では完全に水とエチルアルコールを分離出来ないんです。これ以上エチルアルコール濃度を上げるときはアセトンなどのさらに沸点が違う液体を混ぜて蒸留します。(ちなみに消毒用のエタノールも多くはサトウキビの絞りカスなどを使って醗酵させたものを蒸留して作られます。化学的な合成で作る方法もありますが、量的には蒸留で作られている方が多いみたいです。)
(2)直接飲む人もいない訳じゃないですが、上記したようにカクテルとか果実酒用であり、飲み口を良くするために砂糖を入れたりなんかしていません。というかストレートで口に入れるとその瞬間に舌が焼き付くような感じになりますので、砂糖などおおよそ無意味です。またこれで何かを拭いて乾いた後がべたついたりもしません。
といったお酒です。
ですので、手軽な消毒薬として使えます。ただ96%という濃度は高すぎるので、精製水で割って75%ぐらいの濃度にして用いればいいと思います。実際にポーランドでは家庭で消毒剤としても使うためにストックされているみたいです。
ただ、今同じことを考える人が沢山いて、500mlが一本4,000円以上しています。ここまでお金を払うんだったら、いくら品不足であっても普通のエタノールが買えます。なのでその意味でスピリタスを買う意味無いです。
私が買ったのはまあ消毒剤として使えるかテスト用と、残ったらカクテル用にでもしようと思ったものです。

IPAについてのおかしな情報

小波秀雄という方がIPAについてかなりとんでもないことを書いていますね。
一応私もこのブログで市販IPAをエタノールの代りの消毒剤に使うということを紹介しており、その責任も兼ねてきちんと書いておきます。
Amazon等で売っているIPAは基本的に工業用(インクなどの溶媒、機械部品などの油落とし、機器の洗浄)です。
それを「消毒」という用途を追加して販売している業者が紹介されていますが、それはそもそも違法行為です。大体販売している業者は単なる販売店であって製造メーカーではないケースがほとんどだと思います。そんな所に問い合わせて他に混ぜ物をしていなければOK、なんてあり得ないと思います。
後実験で使う試薬(当然純度が求められる)と工業用に大量に売られているIPAが同じ品質である保証なんてどこにも無いし、メーカーももちろんそんな保証はしていません。
つまり工業用のIPAを消毒に使うのはあくまで自己責任で場合によっては危険を伴うものであり、それ故私はIPA70%液は器物の消毒にしか使っていません。(手の消毒はポビドンヨードのハンドウオッシュでやっています。)工業用IPAを手指になんかとても怖くて使えません。(そもそもIPAはエタノールに比べ脱脂効果も刺激もはるかに強く、この意味でも手指消毒用には向いていません。大体通常のアルコールジェルなどにはわざわざグリセリンが加えてあって手の荒れを和らげるようにしているのに、それより脱脂効果が強いIPAをそれ自体で手指に使うなんて信じられません。)
日本薬局方で認定されて、病院で使われるIPAは当然のことながらメーカーの製造ラインを含めて厳しい基準があります。
https://www.sankyo-chem.com/wpsankyo/2714
にメーカーである三協化学の人の説明があります。
私も化学メーカーに10年いたので「工業用」の化学品のイメージは持っています。要するに馬鹿でかい反応釜で大量に作る訳です。もちろんそれなりの清掃とかはやるでしょうが、医療用のような厳密のものではもちろんありません。それでも(仮に何か不純物が入っていても)溶媒とか洗浄用で使うなら問題無いでしょ、と売っているのが工業用です。

(以下小波氏のHPへのリンクと引用)

(引用開始)
「消毒用」となってないものは使えないか?
今売られている汎用の溶剤は,メーカーで製造されている有機溶媒を小売業者が容器に小分けして,ラベルをつけて販売しているものです。実験で使われる試薬は,「特級」とか「一級」とあるのですが,大手試薬会社の営業の方に聞いたところ,昔は確かに特級といったら一級よりも精製の過程を入れていたのだけれど,今は技術が高いので最初から特級の品質のものができてしまうので,中身はちがいませんよと言われました。もう20年余り前の話です。

今回用いた製品については,通販サイトの情報に「消毒用」とあったものを買いましたが,缶にはその記載がなく,納品書に加筆されたような感じになっています。おそらく,消毒用の需要が発生しているので追加したのでしょう。業者に確認して他に混ぜ物をしていないとなったら,問題なく使えるはずです。とはいえ一般に溶剤で売られているものは中身が多すぎて持て余す可能性がありますが。
(引用終了)