NHK杯戦囲碁 三村智保9段 対 安斎伸彰8段(2023年1月22日放送分)


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が三村智保9段、白番が安斎伸彰8段の対戦でした。最初に局面が動いたのが左下隅から左辺で、黒がかかりっぱなしの石を放置して、白がかけて来たのにも受けず、白が小さく取るのではなく、左辺上方の黒に付けて大きく取ろうとし、更に左辺から中央に飛んで完全に地です、と主張してから黒が動き出したのがどうだったんでしょうか。結局左辺の中で生きるスペースは無く、黒は下辺から利かして左辺を捨てようとしました。しかし白はその利かしに来た石も含めて大きく攻めようとしました。結局白は左辺の黒だけでなく、下辺左の黒2子も取り、さらに中央で黒3子を取っているということになり、40目程度の地と中央に素晴らしい厚みが築けました。これに対し黒は下辺で1子噛み取って下辺右側を地にしましたが、これの収支は明らかに白が上回り優勢になりました。ただ黒は先手は取ったので、上辺右の2線に潜行していた石から一間飛びし、白2子を攻めました。これに対し白は右辺に打ち込み、どちらかがしのげればいい、的な感じで打ちました。しかしその後の折衝で結局白は両方を逃げ出すことになり、中央と上辺の黒とのねじり合いになりました。黒は上辺右からの白を攻立てましたが、ここで左下隅方面で得た厚みが十分働き白は連絡することが出来ました。そうなると中央の黒に眼が無く、右辺の白との攻め合いを目指すことになりました。しかし中央の黒は既にかなりダメが詰まっており、攻め合いは3手ぐらい白が勝っていました。黒は何とか劫には持ち込めましたが、中央に匹敵する劫材は無く、また手数で余裕がある白に冷静に劫材を消され、結局中央を全部取られて黒の投了となりました。前半で左下隅方面に非常に強い厚みを与えた盤面で、ねじり合いの碁にしたということで、三村9段の打ち方に無理があったように思います。

NHK杯戦囲碁 一力遼棋聖 対 辻󠄀篤仁4段


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が一力遼棋聖、白番が辻󠄀篤仁4段の対戦です。布石は白が左辺、黒が上辺と右辺の模様の張り合いみたいになりました。しかし白が右上隅方面で高く消しに行った所から、相手のノゾキに継がずに外すというのが連続し、戦いは上辺から中央に、更に左上隅と左辺にも拡大しました。形勢は白が上手く黒模様を消した一方で白が左辺を大きく地にし、更に中央も厚く白が優勢になりました。黒は中央を消しに深く侵入しましたが、この黒に眼がありませんでした。それで白を分断して攻め合いを目指すと思いきや、白をつながらせました。その結果中央の黒は単独で活きる必要がありました。これで黒が苦しいかと思いきや、黒は右側の白にワリコミ2発を決行し、これで中央の黒は右側の白を取って生還しました。白も振り替わりで黒3子を取り、下辺の黒地を大きく削減しましたが、全体の収支は黒の儲けが大きく、逆転で黒が勝勢になりました。ヨセでも黒が先に上辺に回りリードを拡げました。最後は盤面で黒が15目くらいよく、白の投了となりました。辻4段は中央右側のワリコミ2発をうっかりしていたようですが、一力棋聖を途中まで良く苦しめました。

NHK杯戦囲碁 林漢傑8段 対 山下敬吾9段(2023年1月8日放送分)


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が林漢傑8段、白番が山下敬吾9段の対戦です。黒の初手が天元で、白の2手目が5の5、とまるで新布石時代の初期の頃の碁のようでした。左下隅で劫含みの攻防が始まり、黒が白の右下隅に手を付け、劫立てを作ろうとしました。しかしここの攻防で黒は明らかに損をし、更に劫立てで左辺上方の白に迫りましたが、白が手を抜いて左下隅の劫を解消したので、黒は左辺上方の白への攻めでよほど得をしないと苦しい形勢になりました。しかし左辺上方の白も上手く黒の薄みを突いて中央に進出し、簡単には死なない形になり、形勢は白のリードとなりました。しかも黒の一等地である上辺への白からの出口が止まっておらず、すかさずそこを追及されて黒は益々劣勢になりました。しかし白が左下隅に残った黒を取りに行き、ついでに下辺左方で浮いている黒5子を攻めた中で何かの誤算があり、黒がその浮き石を逆に捨て石として取らせ、中央で締め付けが効いたのが大きく、右上隅、右辺、上辺、中央の黒模様の規模がかなり大きく地としてまとまりそうになりました。白は右上隅に付けて隅を一部地にしましたが、結局白の下辺からの中央への進出も黒に上手く止められ、黒が優勢でヨセに入りました。白はヨセで最善を尽くしましたが結局黒の1目半勝ちという逆転勝利となりました。林漢傑8段は次の準々決勝では鶴山淳志8段と当たり、いわゆるツルリンコンビの対決になります。なお、今回からAIの次の手の予想が座標ではなく、実際の盤上表示に変わりました。ただ盤が小さいので見にくいです。

NHK囲碁新春スペシャル


今日のNHKの囲碁の新春スペシャル、「定石対決」というのがあって、プロ同士の対戦に出題されたのは結果を白石だけで並べたものを再現するというもの。これ自体は確かに難しいですが、出題されたのは「大ナダレ定石」の一つの形です。びっくりしたのは右の女性プロ初段が、「この定石は存じ上げません」と言ったこと。しかも大ナダレ定石の途中の変化の多い所が分らないのではなく、小ナダレ定石と大ナダレ定石の分岐点で止まっていたので、そもそもナダレ定石というのをまったく知らないようでした。別にプロは定石を覚えるのに注力しなくてもいいと思いますが、ナダレ定石を知らないということは、呉清源さんとかの時代の棋譜をほとんど並べたことがないということでしょう。(ナダレ定石が生れたのは1930年代の戦前、そして戦後も流行廃りはあるものの{プロはナダレ定石や大斜定石のような手順が長い定石は嫌う傾向にあります。}盛んに打たれ多くの変化形が生まれました。)それはいくらAIの時代だと言ってもプロとしては恥ずかしいことだと思います。(故に武士の情けで名前はぼかしました。)なお、左の木部夏生三段はちゃんと最後まで再現出来ていました。

なお、左の棋譜は、1958年4月30日~5月1日の第1期日本最強位決定戦で、黒番が木谷実9段、白番が呉清源9段(互先、コミ無し)の棋譜で、実に右下隅、左下隅、左上隅の3隅で大ナダレ定石が出現しています。(白16は黒5の上、黒27は白26の右)

NHK杯戦囲碁 張栩9段 対 許家元9段


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が張栩9段、白番が許家元9段の対戦です。序盤の打ち方で面白かったのは、右上隅で黒が二間に低く挟んだのに、白が13の5にケイマした手で、初めて見ました。個人的には黒が上辺を受けて黒地がほぼ固まったので打ちにくい手に思いました。局面が動いたのは白が下辺左方に深く打ち込んでからで、結果として白は下辺を捨て石にし、左辺の黒を取りました。この結果は黒が一部左辺を突き抜くことが出来ましたが全体では白の成功で形勢は白に傾きました。その後黒は白の右下隅の構えを固めてもいいと付けたのですが、白は跳ね出して反発しました。しかし結局跳ね出した石からの一団が取られ、白は損をしました。しかし白から当てが利いて厚くなり、右辺の黒が危なくなりました。ここで右辺の黒をまともに逃げ出したのがまずく、読みに抜けがあり結局劫にもならず全部取られてしまいました。最初から尻尾を捨てて本体を逃がすか、あるいは劫に持ち込めれば黒が有望でした。その後ヨセで黒が猛追しましたが、右辺の損が大きく、結局白の2目半勝ちになりました。

NHK杯戦囲碁 鶴山淳志8段 対 村川大介9段


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が鶴山淳志8段、白番が村川大介9段の対戦です。この碁の戦いは、白が右辺に打ち込んで黒模様を制限しようとした後、それを3手打っただけ放置し、左辺から下辺へ展開する黒の急所に一撃した所から始りました。この一撃は黒が左辺からケイマに飛んでいる所のツケコシと、下辺の黒への横付けを見合いにしていました。黒はケイマの所を守ったので、城は下辺の黒に付けました。ここでの戦いは白が上手くやり、左下隅の白の薄味を黒への利かしで先手で補って活き、また下辺の黒を低位にしたことにより、優勢を気付きました。更に何より、左辺から延びる黒に眼がなく、白からずっと狙われたのはマイナスでした。(写真の局面)追い立てられたこの黒は結局上辺の白と左辺の白にもたれることで活きを図ろうとし、左辺は破ることが出来ました。しかしまだ二眼はありません。この後白がじっくり攻めていれば優勢を保てたと思いますが、黒の大石の途中の一間飛びに割り込んでいったのが、厳しいように見えて疑問の打ち方でした。実際この後、鶴山8段の厳しい打ち回しの結果、下辺から延びる白がほとんど取られかけたりしましたが、最終的には中央上半分の白が切り離され、二眼が出来ませんでした。そうなると黒の一団との攻め合いになりますが、黒のダメは結構空いており、結局白の一段が御用になってしまいました。先週に続き黒の大逆転で、鶴山8段の最近の好調ぶりが良く現れた碁でした。

趙治勲名誉名人の「囲碁と生きる」

趙治勲名誉名人の「囲碁と生きる」を読了。読売新聞で28回ほど連載されたもの。それに小林光一名誉棋聖との4回の対談がついています。この二人の戦いで誰もが思い出すのが、四度にわたった本因坊戦での死闘で、小林光一名誉棋聖は実にこの碁に勝てば本因坊奪取というのが7回もあり、そのことごとくに敗れます。対談を読むと、当時棋聖と名人を持っていて、そのタイトル戦でかなり消耗し、本因坊戦まで頑張りきれなかったということのようです。趙治勲名誉名人というと、私が大学生の時本格的に囲碁を覚えたばかりの頃が全盛期の始まりという時期で、趙名誉名人の碁は本当によく並べた記憶があります。あの頃の趙名誉名人の勝負にかける執念は本当にすごいものがありました。また小林名誉棋聖の棋風がある意味固まっていてそれほど色々な打ち方を試すということがないのに、趙名誉名人はそれに比べて柔軟で色んな打ち方を試していたと思います。現在趙名誉名人はNHK杯に出ていたり十分現役ですが、小林名誉棋聖がそれに比べるとやや冴えないのは、その辺りの柔軟性の差が今になって出てきたのかな、と思います。そういえば先日囲碁フォーカスで趙名誉名人の抱腹絶倒のエピソードが紹介されていました。それはNHK杯戦で自分のお茶を全部飲んでしまうと、何と何の断りもなく読み上げ係や記録係のお茶に手を伸ばしてそれを飲んでしまう、というものでした。実に趙名誉名人らしいです。全てが天衣無縫という感じです。

NHK杯戦囲碁 高尾紳路9段 対 富士田明彦7段


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が高尾紳路9段、白番が富士田明彦7段の対戦でした。この碁は、私がこれまで観てきたNHK杯戦の囲碁対局の中での最大の逆転劇でした。写真の場面で本来は碁は終わっていました。2箇所での劫争いで高尾9段に錯覚があり、右下方面の白7子で元々取られてたものが逆に黒5子を取り込んで生還しています。単純計算で24目の出入りですが、黒が右辺で1線を渡らされたり、中央で利かされたり、下辺の黒が弱くなった損も入れると40目レベルの失点でした。代償で黒は右上隅を白を半分取れましたが、この白はまだ活きる味が有り、実戦でも復活しました。富士田7段は勝勢になってからの打ち方が頑張り過ぎで、中央で黒2子をもっときっちり取っておけば紛れることはなかったのですが、頑張って受けたため、後でこの2子を生還させる手が生じ、それだけならまだしも、この白の一団が全滅し、50目以上の黒地が出来ては、黒が逆転しました。その後白が左上隅を切って行ったのを黒が妥協して、白が左上隅を取って差が若干縮まりましたが、最後左下隅から下辺で黒が左側の黒を捨てて締め付け、下辺の白を取ったので、ここで白の投了となりました。富士田7段に取っては9割方勝っていた局を頑張り過ぎで落としてしまい、悔しい一局でした。

NHK杯戦囲碁 関航太郎天元 対 芝野虎丸名人


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が関航太郎天元、白番が芝野虎丸名人の対戦です。井山裕太三冠王がタイトルを独占していた時代は、タイトル者同士の対戦ってほとんどあり得なかったので、何だか新鮮です。それから司会はいつもの星合志保3段でしたが、解説は孫喆7番で、お二人は新婚ホヤホヤです。星合さんが「この二人でいいんでしょうか」と照れていたのが印象的でした。序盤は左上隅で黒のケイマに白がツケコして、いわゆる卍に切り合った形が出来、いきなり激しくなりました。しかし結局白が上辺の黒を取り、黒が左上隅から左辺を取って見事に互角で分かれました。その後黒が上辺右側に打ち込みそこでも戦いが始まり、ここでも黒は上辺を捨てて中央を厚くしました。白がその後右辺に入って治まった後、右下隅の三々に打ち込みました。黒はこの三々の白を大きく取りに行きましたが、すぐに白はそれを利用して下辺に策動し、結果として黒地になりそうだった下辺の荒らしに成功しました。この時点は細かいながら若干白がいい感じでした。しかしその後白が下辺の黒の一部を取りに行ったのが小さく中央に打った黒が優勢になりました。ヨセに入っても戦いが続き、芝野名人がいくつか勝負手を連発しましたが、いずれも振り替わりで差は縮まらず、白の投了となりました。

NHK杯戦囲碁 大竹優7段 対 高尾紳路9段


本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が大竹優7段、白番が高尾紳路9段の対戦です。2人は初対局です。大竹7段は本因坊リーグにこの度入りました。序盤は左上隅で黒が左辺を重視した代償で白に封鎖されたのにすぐ動き、結果的に隅3子を白が取り、黒は中央に展開しました。しかし黒5子は眼が無く、大きく狙われていました。白は手厚い本手を打ち続け、にもかかわらず形勢は白が少しずつリードを拡大して行くという碁になりました。下辺から黒白両方の眼の無い石が絡み合う展開になりました。白は右辺下方の石と下辺から延びる石を連絡して右下隅を荒らすという作戦もありましたが、右辺であっさり外から利かせて1子を捨てて打ちました。この打ち方は明るかったと思います。結果的に中央は白が主導権を握り、左上の黒5子が飲み込まれ気味になりました。しかし左下隅から延びる白が攻められた時、下辺で白が1線に下がって眼を確保したのが緩着で、黒の左上隅の5子と中央が連絡気味になった時は、一瞬黒が逆転したかと思われました。しかし白は上辺には突入されましたが、黒4子を再度取り込み、これでコミガカリでしたが白の優勢でヨセに入りました。結局白の中押し勝ちとなりました。作れば2~4目半ぐらいの差だったと思います。