本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が本木克弥8段、白番が六浦雄太7段の対戦です。この両者は2020年8月にも同じくNHK杯戦で対戦しており、その時は六浦7段が勝っています。布石では黒が3隅で実利を得て地合いでリードし、白はそれに対して上辺の模様で対抗するという碁形になりました。右辺は白が2つ、黒が1つの弱石同士の絡み合いになりましたが、黒が右辺上方の白と上辺の白との連絡を脅かしながら、中央で白1子を緩めたゲタで取って弱石がなくなったので、これで黒のリードとなりました。それに対して右辺下方の白は依然として弱く、白はかなり頑張らないといけませんでした。黒は左下隅で白が小ゲイマに締まっていた所に後からかかって行き、左辺と左下隅を若干侵略しました。白はこの黒を狙って行きましたが、黒は白の右辺下方の石の連絡を脅かしつつ手厚く打って眼形を作り、白に付け入る隙を与えませんでした。黒はここを先手で切り上げ、上辺の白模様の削減に回りました。黒はここで強く白模様の中に踏み込んで行きましたが、白も数ヶ所に断点があって強くは戦えず、黒は踏み込んだ一団を無事に連絡させることが出来ました。盤面10目以上の黒のリードでヨセに入りましたが、白はウスミがあって右辺上方の石と上辺の連絡が切れてしまいました。これを見て黒が右辺で下に1線にハネたのが見合いの好手で、右辺下方の白が死ぬか、右辺上方の白が黒から見た花見コウになるかの見合いでした。結局右辺下方の白が死に、ここで白の投了となりました。
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NHK杯戦囲碁 鶴山淳志8段 対 大西竜平7段(2022年10月9日放送分)
本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が鶴山淳志8段、白番が大西竜平7段の、まあ言ってみればイケメン対決でした。大西7段の碁は大西ワールドという独特の世界観が特長ですが、本日の碁はどちらかと言えば、鶴山ワールドとも言うべき、力と力の全面対決という碁でした。布石は黒が盤面の右側、白が左側を占めあうプロの碁では比較的珍しい展開になりました。単純な囲い合いでは先番の黒に利があるため、白は右上隅に肩付いた石から中央に展開し、これを黒が攻める碁になりました。中央の押し合いで、白がじっと伸びて我慢すべきなのをハネていったのが、私から見れば打ち過ぎで、鶴山8段が待ってましたとばかりに切りました。白がそれに対し黒の反対側を切ったのがやり過ぎの第2段で、鶴山8段の大好きな碁形にしてしまいました。結局白は頑張れず中央でタネ石の4子を取られ、右辺から右上隅に展開して、結局振り替わりになりましたが、白の中央の損が大きく、ここで黒が優勢を通り越して勝勢になりました。ただ大西7段の碁は大体このように中盤まで劣勢で、ヨセで逆転して半目勝ちという碁が多いそうで、この碁も黒が固く打ったのと、途中小さなミスもあり、半目勝負かという局面になったこともありました。しかし結局黒の2目半勝ちに終わりました。大西7段は少し中盤の打ち方に誤算があったように思います。
NHK杯戦囲碁 小池芳弘7段 対 富士田明彦7段(2022年9月25日放送分)
本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が小池芳弘7段、白番が富士田明彦7段の、最近勝ちまくっている若手対決で、噛み合う対戦でした。しかも二人は高林拓二門下の同門で、富士田7段が先輩とのことでした。なので小池7段からすれば勝って「恩返し」したい所、富士田7段からすれば成長著しい後輩に先輩の貫禄を見せたい所でした。局面が動いたのが右辺の攻防で、白が右下隅にかかった石からの一団がまだ治まって、ないのに、右辺上方に打ち込んでいってからです。黒は右辺中央の石から右辺下方の白にもたれて強化し、右辺上方の石をボウシで包囲しました。白はここで右上隅の黒の二間高締まりの間に付けて行きました。ここの折衝で、黒が1子を捨てて下から当てて行ったのが冷静で、白が若干厚くなったものの、黒は右上隅から右辺で40目以上の地を確保し、黒が優勢になりました。黒はその後左下隅にも潜り込んで活きたため、4隅取った形で地合いは更に開きました。こうなると白は中央と左辺でどのくらい地を作れるかの勝負になりました。黒は右下隅からつながっているかが微妙な位置に出て行きました。結果から見ればこの「つながっているかどうか」が勝敗を分けるカギになりました。黒はその石の繋がりを確かにする手を打たず、白の左下隅を脅かしつつ中央に進出して白地を削減し、順調に優勢を保っていました。どこかでバックして中央と右下隅を確実に連絡しておけば勝ちだったと思いますが、実戦心理として、つながるだけで地にはならない手を打つには抵抗があり、それが災いしました。富士田7段が一瞬の黒の隙を衝いて1目を捨てて巧みに白の眼を奪い、そして中央と右下隅の白の分断を決行しました。中央の黒が上辺の黒とつながりそうでつながらないのも読み済みで、黒はもう一眼が作れず、大石が憤死しました。富士田7段の中押し勝ちで、まるで故加藤正夫9段のような殺し屋ぶりを1回戦に続いて発揮し、見事に先輩の貫禄を見せました。
P.S. 故高林拓二6段について、正直な所あまり知識が無かったので調べてみました。ご本人の棋士としての活躍はそれほどでもなかったようですが、弟子がすごいです。許家元九段、富士田明彦七段、小池芳弘七段、伊藤優詩五段、張瑞傑五段、外柳是聞四段、日野勝太初段。日野初段のインタビュー記事によると、高林6段に生前(2019年7月に亡くなられています)に1,000局以上対局してもらったそうです。通常囲碁の師匠は入門の時に一局だけ打って、後は弟子同士が対局するもので、木谷道場とかは特にそうだったと思います。例外的に石井邦生9段が井山裕太4冠を、その才能を見込んでやはり1,000局くらいオンラインを中心で打って鍛えた、というのがありますが、弟子達の素晴らしい活躍振りを見る限り、高林6段は、全ての弟子と多くの対局を繰り返したのかなと思います。ご本人の、例えば本因坊戦や名人戦リーグに入るとか、タイトルの挑戦者になる、タイトルを取る、そういう夢は残念ながら叶わなかったのですが、それを弟子に託して鍛え上げる、これはこれで素晴らしい棋士人生だったのではないでしょうか。
NHK杯戦囲碁 村川大介9段 対 河野臨9段(2022年9月18日放送)
本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が村川大介9段、白番が河野臨9段の対戦です。両者棋士の中のポジション的には近い位置にありがっぷりかみ合う対局です。白は珍しく両三々の布石、黒は両小目でした。黒が左上隅に二間にかかり白がケイマに受けたのに、黒は左辺から両ガカリ風にはさみ、白がコスミツケて黒が立って、白が中央に一間トビして上辺と左辺を見合いにしました。黒が上辺で二間に開いたので、白が左辺の星下へ挟む展開になりました。ここで左下隅の三々に対し星に肩付きしたのがいわばAI風の打ち方でした。白の這いに軽く一間に飛び、白が割り込んで黒が上から当て、白が継いだところで黒は手抜きし、左辺の白にボウシしました。ここからギシギシと石の絡み合う戦いになりました。結局白は左辺を捨てて中央を厚くし、切り離された下辺の黒4子を小さく取るのは出来ましたが、右下隅の黒の肩を衝いて下辺を目一杯拡げました。こうなると黒は取られかけていた4子を動き出す一手でした。この後の黒のサバキが見事で、黒は中央への進出を見せながら巧みにサバキました。その代償として右下隅を若干利かされましたが、結果として白の一等地で無理なく活きて、ここで黒が優勢になりました。白はその後上辺の黒模様に打ち込んでいったりして挽回を図りましたが、差は縮まらず、結局白の投了となりました。
NHK杯戦囲碁 許家元十段 対 蘇耀国9段(2022年9月11日放送)
本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が許家元10段、白番が蘇耀国9段の対戦です。この碁の焦点は、白が上辺左の黒3子に対し、10の3の黒の左横(9の3)に付けて行き、黒が上からはねて、白が切り違った所でした。お互いが頑張ればもつれた戦いになる可能性のある所でしたが、黒は簡明に黒3子を捨てて中央を厚くしました。この判断が明るく、全体で黒は弱い石が無くなり、打ちやすく局面をリードしました。その後右辺の攻防も、白は目一杯打って中央を厚くしましたが、黒は白1子を取り込んでつながり、更に局面を簡明にしました。その後黒は左下隅から中央に展開する白を攻めながら左辺から中央の模様をまとめ、白も中央の右下方向に地を作りましたが、盤面で黒10目以上のリードは変わらず、白の投了となりました。許家元10段の明るい打ち方が光った一局でした。
NHK杯戦囲碁 羽根直樹9段 対 林漢傑8段(2022年9月4日放送)
本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が羽根直樹9段、白番が林漢傑8段の対戦です。黒は序盤各所で地を稼ぎ、余し作戦でした。上辺の白模様を消しに肩付き白の伸びに一間に飛んだのは、軽く捌こうということだったと思います。しかし白が更に伸びた時、愚直に継いで、更に押さえ込んで行ったのは、強情過ぎで誰が見ても重い打ち方でした。白の右側は非常に厚いため、白に中央から煽られ、結局封鎖されました。白が右辺の穴を出て切りを入れたのが当然とは言え機敏で、結局黒は中央を逃げるのに右上隅の黒を捨てるしか無くなり、白の儲けは30目程度あり、ここで白が優勢になりました。ここで白が下辺で中央に一間トビして備えておけば黒の付け入る隙はなかったのですが、ちょっと欲張って左辺の黒地の形成を妨げ気味にケイマで煽ったのが少し失着で、すかさず黒に下辺に打ち込まれてしまいました。ここの戦いで白は2子を捨てざるを得なくなり、若干黒が挽回しましたが、左側の白が安泰になって弱い石が無くなりました。黒は中央にどれだけ地をまとめられるかが勝負でしたが、2箇所侵入口が開いており、なかなか大きな地には出来ませんでした。最後に白が左辺に踏み込み、左辺の黒を分断し、上下どちらかの黒が取られるということになり、黒の投了となりました。この左辺の決め手が無くても、盤面で白が良い形勢でした。
NHK杯戦囲碁 田中康湧3段 対 佐田篤史7段(2022年8月28日放送)
本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が田中康湧3段、白番が佐田篤志7段の対戦です。この碁は終始地味な応酬が続きました。しかし右辺の攻防で白が2箇所の断点の内、上を継ぎ、黒が下を切ってきた時にあっさり切られた右側の石を捨てたのは、ちょっと淡白な打ち方で、黒の右辺の地が大きく黒がややリードしました。しかし白も右下隅に潜り込んで下辺に展開して活きたのでやや挽回しました。しかし地合いでは黒のリードが続いていました。その後左辺の攻防から白が上辺左に展開しましたが、白に見落としがあり、取り込まれていた黒1子を逃げ出す手があり、ここに大きな劫が残りました。白は黒からの劫材を無くす手を打ってから劫を仕掛け、右下隅で損劫を打ってまでして劫に勝ちました。これで形勢は微細になり、半目勝負になりました。しかしその後の中央の攻防で黒に疑問手が出て、2目損しました。これが決勝点となり、白の2目半勝ちとなりました。佐田7段の形勢の悪い碁をヨセでひっくり返すという、得意のパターンの勝ち方でした。田中3段もヨセが得意ということでしたが、佐田7段に一日の長があったようです。
NHK杯戦囲碁 三村智保9段 対 余正麒8段(2022年8月21日放送)
本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が三村智保9段、白番が余正麒8段の対戦です。この碁は最初から最後まで黒の打ち回しが冴え、黒の名局と言ってもいいかという内容でした。左上隅で白が厚みを築いたので、白の右上隅の黒の星への上辺からの掛かりに対して黒は上辺を三間に挟み、結果的にこの上辺の黒白の競い合いになりました。上辺の黒が2線に付けて根拠を確保しほぼ活きたのに対して、白の上辺からの石はまだ活きていなくて黒から攻めを狙われていました。これを睨みながら、黒は右辺で通常大ゲイマに開くところを三間に開きました。上辺からの白が弱いので白は右辺には打ち込めないだろうという主張でした。しかし白は三間に開いた黒の肩を付き、黒が反発して中央に伸びたので白が押さえ込んでここから戦いになりました。右辺の黒の下方の石は白の1子を切り離して右下隅につながったので、後は右辺上方の黒だけが問題でしたが、こちらも白にプレッシャーをかけつつ巧みに左辺に連絡しました。こうなると黒の確定地の方が多く黒が優勢になりました。後は白が中央に地をどの程度まとめられるかが勝負でしたが、結局黒も中央に同等レベルの地を作ったので、差は縮まらず、黒の中押し勝ちとなりました。最後まで打てば黒の4目半~6目半ぐらいの勝ちだったと思います。ともかく三村9段の完勝譜であり、余8段はちょっと手が伸びなかったようです。
NHK杯戦囲碁 伊田篤史9段 対 関航太郎天元(2022年8月14日放送)
8月14日のNHK杯戦囲碁は、黒番が伊田篤史9段、白番が関航太郎天元です。実は伊田9段は天元戦の挑戦者に決まったので、この戦いはその前哨戦です。また今をときめく一力遼棋聖を倒して20歳にして天元位を取った関天元がどのような碁を打つのか興味がありました。布石は伊田9段が得意としているかなりの変則布石で、右上隅が三々、右下隅は目外しから普通の小ゲイマジマリより一路高く構えるというものです。黒が左下隅に下辺からかかったのを白がはさんだことにより、ここから戦いが始りました。途中の競い合いで、黒が下辺から一転して左辺に展開し、白は当然その間を裂いていったので、下辺から中央に延びる黒の石は弱くなり、その後ずっと攻め続けられるという、二人の棋風からすると反対の展開になりました。白はこの黒を攻めた代償に中央が非常に厚くなりました。また黒を攻めながら上辺にも地を確保した後、更に右下隅の黒の変則構えに付けていってここを活き、地合で先行していた黒を追い上げます。右辺で劫争いが起き、黒が右下隅に劫立てしたのに白は受けずに劫を解消し、黒模様だった右辺に白が居座り、この別れは白が良かったようです。白は結局厚みを活かして中央にも地を作り、黒はコミを出せない形勢となり投了となりました。関天元の自在の打ち回しが冴え、これなら一力遼棋聖に勝ったのはまぐれではないなと思いました。この二人の天元戦が楽しみです。タイトルは防衛してこそ一人前と言われますので、関天元にとっても大事なタイトル戦です。
NHK杯戦囲碁 上野愛咲美女流立葵杯 対 一力遼棋聖
本日のNHK杯戦囲碁は、黒番が上野愛咲美女流立葵杯、白番が一力遼棋聖の対戦です。この碁が動いたのは上辺と右上隅の攻防で、白が右上隅に置いていって、どちらかの白に渡る手を見せた時、黒は上辺に渡る手を打ちました。白は右上隅の地をえぐって右辺の白に連絡しました。黒はそれに対し、上辺の白を下から地を取りながら追い立てました。その後黒が上辺の白の一間飛びに覗きましたが、白は継がず右側から中央に飛出たので、黒は覗きを生かして白を2つに分断して攻める姿勢を見せました。この結果、上辺で黒と白で眼がない石が4つ絡み合うという展開になりました。黒がここでハンマーパンチと呼ばれる強烈な攻めを見せようとした時、白はまず左側の一団を左辺に展開してくつろがせました。それでは、ということで黒が右側の白を包囲する手を見せた時に、白は黒のケイマの連絡の薄みを付きながら巧みにしのぎ、右側の一団も包囲網を破ってほぼ安泰になりました。そこで黒は今度は左辺にまるでハサミのような打ち込みを決行しました。白はこの黒を包囲し、黒は活きに行きましたが、白の置きが利かしになっていて、場合によっては劫を決行すると脅かしながら、中央をうまく打ち回し、地合では白のリードになりました。最後下辺の攻防で、白はあちらこちらが薄い黒を割いていく手を打ち、黒は何とか下辺は活きたもの、中央のL字型の6子が結局飲み込まれてしまい、地合で大差となりここで黒の投了となりました。一力棋聖のハンマーピンチのかわし方が巧みでした。