本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が藤沢里菜女流立葵杯、白番が小林覚9段の対戦です。白が両ガカリした右下隅から競い合いが始まり、白が右辺の黒の構えに打ち込んだため、黒と白で眼の無い2つずつの石が絡みあうという戦いになりました。黒はその競い合いの中で上辺を開いて地を稼ぎながら右上隅からの白にプレッシャーをかけました。白は右辺で2線のハネから上手く劫に持ち込みました。白の右下隅への2回目の劫立てに黒は受けずに劫を解消しました。この結果右下隅と右辺の下方の白が合体し、白は右上隅からの白だけをしのげば良くなりました。白はさらに右下隅からの黒にプレッシャーをかけ続けましたが、黒はその間各所で地を稼ぎ、地合は黒がリードになりました。しかし白の狙いは右辺からの黒石と中央を切断することで、狙い澄ました割り込みが炸裂し、黒2子を切り離し中央に16目ぐらいの白地が付いて白が逆転しました。しかしその後のヨセで黒が中央に取られた石の復活を匂わせて利かしに行ったのに受けずに左辺を打ったのが失着で、左辺の白の10数子が切り離されて取られてしまいました。こうなると左辺を打った目的だったヨセの手も無くなり、代償で黒の上辺を多少削りましたが白の損の方がはるかに大きく、白の投了となりました。藤沢里菜さん、強いです。
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NHK杯戦囲碁 安達利昌7段 対 秋山次郎9段
本日のNHK杯戦の囲碁は期が新しくなっての初戦で、黒番が安達利昌7段、白番が秋山次郎9段の対戦でした。お互いが地を囲い合う地味な布石から局面が動いたのが白が右下隅の黒の二間ジマリに置いていった時です。白は単体での活きは難しく、劫に持ち込みました。白からは右上隅に何劫か有り、黒は劫立てに応じていられず、劫を解消して右下隅を大きな黒地にしました。その代償で白は右上隅の地を取り、なおかつその周辺の黒を攻めることになりました。ここでの戦いが1段落した後、焦点は黒が左辺の白に打ち込んでいった辺りの戦いでした。この結果は黒白が中央でお互いに眼が無い集団が二つずつあるという激闘になりました。結果は黒にわずかに指運みたいなものがあり、黒が攻め合い一手勝ちで白の一段を仕留め、白の投了となりました。安達7段は秋山9段に初勝利です。
NHK杯戦囲碁 決勝戦 一力遼NHK杯戦選手権者 対 井山裕太三冠王
本日のNHK杯戦の囲碁は、決勝戦で黒番が一力遼NHK杯選手権者、白番が井山裕太三冠王の対戦です。この一局の攻防は左上隅の戦いが全てでした。黒が左辺で白からの押さえ込みを防ぐためにハサミツケたのに対し、白がそのツケに構わず出て行って黒を押さえ込みました。これは解説の山下敬吾9段も予想していなかった強手ですが、黒は結果として左上隅で活きましたが、活きるのに2手かけ、更に白から当てを先手で利かされ、タネ石の黒3子を取られてしまいました。プロの碁ではほぼ「オワ」と言っても良い差がついたと思います。(写真で一段落した後の左上隅の状況をご確認ください。)黒はこの結果、上辺の黒が孤立し一方的に攻められる石になりました。また左下隅で白がかけて来たのを出切って乱戦に持ち込もうとしましたが、白が下辺を捨て、左辺で黒のタネ石を取ってここで黒の投了となりました。ちょっと一力遼NHK杯戦選手権者の打ち方に誤算があったようで、一方的な結果になりました。井山裕太三冠王も一時期の7冠王から3冠にまで後退しましたが、再婚されてから調子が戻って来たようです。
NHK杯戦囲碁 井山裕太三冠王 対 張栩9段(準決勝第2局)
本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が井山裕太三冠王、白番が張栩9段の対戦です。対局が動いたのは右上隅で黒が当てたのに白が当て返して、黒の実利と白の厚みのワカレになりました。ここで白は右辺を開くかと思ったら、張栩9段としては珍しく右上隅の黒を押して行って右辺の模様と左辺の模様を合体させようとしました。黒がそうはさせないと中央と左辺の白を割っていった時、白は黒の壁に切りを入れて、上辺での策動を狙いました。これに対し黒は上辺を受けずに中央の黒を伸びきりました。これが好判断で、白はすぐ上辺に手を付けて行きましたが、大きな戦果は無く中央の黒を切り離したぐらいで、ここで黒がリードしました。その後左下隅と下辺と中央を絡めた戦いになり、黒が地を頑張ったので、白としては中央の黒を取ってしまわないと勝てなくなりました。しかし中央の白の壁にも断点があり、また右辺に取り残されていた黒1子も最後に働いてきて黒がしのぎ、地合では黒が15目程度のリードとなり、白の投了となりました。これでNHK杯戦の決勝戦は3年連続で井山裕太三冠王と一力遼8段の対戦になりました。
NHK杯戦囲碁 一力遼NHK杯選手権者 対 高尾紳路9段
本日のNHK杯戦の囲碁は、一力遼NHK杯選手権者と高尾紳路9段の対戦です。いやー、本当に囲碁を知ってて良かったという戦いの連続の面白い一局でした。右下隅で黒が下辺を2線に這ったのに白が手を抜き左上隅を打ちました。すかさず黒が跳ね上げ、白が押さえたのに黒が切って、いきなり戦いになりました。この戦いでは黒が下辺で忙しく、中央を打つ余裕が無く、黒5子を取られてしまいました。黒はこの損を取り返すには左下隅の白をいじめるかあるいは取ってしまわないといけなくなりました。これに対して白は最悪左下隅は捨てても締め付けて厚みを築ければいいという感じで気楽でした。黒は必死に頑張り最強の手や好手を連発し、結局白13子を取り、かつ中央もそれなりにいい形で顔を出せ、黒が頑張り切りました。しかし白も上辺の地模様が大きくなり、ここのまとまり具合が勝負になりました。白はそこで目一杯囲う手では無く、これぐらいで勝ちですよ、という囲いの手を打ちました。すかさず黒は上辺の白に付けて行きました。そこで白が反発したのでここでものっぴきならない戦いになりました。しかし、黒は右辺も頑張り、また白とのお互いに眼の無い石同士の戦いも、ぎりぎりの所で制し、黒の中押し勝ちになりました。一力遼NHK杯選手権者はこれまでNHK杯戦に4回出場し、全て決勝まで勝ち進んだという素晴らしい成績です。
NHK杯戦囲碁 伊田篤史8段 対 井山裕太3冠王
NHK杯戦の囲碁は、準々決勝の最終局で、伊田篤史8段と井山裕太三冠王の、ヘビー級同士の対戦です。最初から最後まで見応えのある応酬でした。局面はまず右下隅で動き、白が3子を捨て石に下辺で締め付け厚みを築きました。この厚みをバックに左辺で黒に対して5線から利かした後、左下隅から跳ね出して下辺の黒を切り離しました。白が左辺で切りを入れてここでも厚みを築き、下辺の黒の壁石の角に白が打ったのが迫力のある攻めでした。その後の攻防で白は上辺に先着し、黒は右上隅の地を囲った時、白は小目の黒に付けて利かしに行きましたが、黒は反発し、ここの攻防が一番見応えがありました。黒は最強の手を打ち右上隅も上辺もつながって上手くやったかと思いましたが、白も考慮時間を使って最善の手を打ち、ワカレとしては互角で、全局的には中央の黒がまだ弱いのに対して白がまた厚みを築き、黒が上辺に入っていくことがほぼ不可能になり、白の優勢となりました。黒はヨセでも白から先手3目の所で逆ヨセを打たれ、1目半ほど損しました。最後に劫が2箇所残りましたが、白は左上隅を捨てて最初の劫を継ぎ、そうすると下辺の黒が切り離され眼が無く、もう一つの劫が本劫になりました。黒は劫に勝つためには右上隅の一部を捨てるしか無く、先ほど左上隅で得した分より損が大きく、ここで黒の投了となりました。 井山裕太三冠王は一時期の7冠王からするとかなり後退していますが、その強さは健在でした。
NHK杯戦囲碁 芝野虎丸名人・王座 対 一力遼NHK杯選手権者
本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が芝野虎丸名人、白番が一力遼NHK杯選手権者の対決です。私の予想では今後の10年くらいの日本の囲碁界はこの二人を中心として動いて行くのではないかと思っています。この碁は右下隅から戦いが始まりました。黒の狙いは下辺で黒にほとんど包囲されている白の1子を戦いのどさくさで飲み込んで下辺を大きく地にすることです。その狙いで黒は右下隅から右辺に展開する白に挟み付けて行き、白が反発して中央に出たのでここで競い合いになりました。白がここでぼんやりと黒を封鎖気味にした手が面白く、黒は右辺の白1子を取り込みましたがこれは欠け眼で黒は半眼しかありません。なので包囲している白の薄みを突いて中央に出て行きましたが、白はその調子で同じく中央に進出し、下辺で取られかけていた石が働き、後にそれを生還させる手が残りました。中央の競い合いで、白の「天狗の鼻ヅケ」が決まり、黒のタネ石4子を取り戦果を上げました。黒はその代償として中央の白を攻めようとし、左辺にモタレて行きました。この時、白は中央を重視し左下隅を捨てたのが好判断で、黒は左下隅を大きく地にする戦果を上げましたが、中央の力関係が逆転し、右辺からの黒の大石が攻められました。この黒を白は激しく攻め、左辺の自分の模様に追い込みました。このため黒が活きてしまうと形勢が悪化する所でしたが、結局劫になって黒が右辺で眼を作る手を劫材にしたのを譲って劫に勝ち、左下隅と左辺の地を大きく確定し、一番大きな下辺の1子に連絡する手を打ち、勝勢になりました。その後すぐ黒の投了となりました。一力遼NHK杯選手権者の早碁での手の見えの速さと形勢判断の正確さが光った一局でした。
NHK杯戦囲碁 許家元8段 対 高尾紳路9段
本日のNHK杯戦の囲碁は準々決勝で黒番が許家元8段、白番が高尾紳路9段の対戦です。この碁で最初に戦いが起きたのが上辺で、黒が白の構えに打ち込んで競い合いになりました。黒は左辺から押し上げていって白の左辺に打ち込みを狙いましたが結局実現せず、白に中央と左辺の両方を好形に構えられ、この辺りは白のペースだったと思います。次に局面が動いたのは、白の上辺から延びる2つの大石と黒の同じく上辺から延びる一団の戦いでした。黒は右上隅に仕掛けて行きましたが、白は譲って右上隅は黒が大きく地をえぐりました。代償に白は右辺で黒1子をポン抜きました。中央は黒も白も逃げ逃げの形になりました。ここで白があくまでも黒への攻めを狙ってコスんで黒を割いて行ったのが失着で、すかさず右辺を上方に詰められ、ポン抜いた一団を活きに行かなければならなくなったのは誤算で、ここで黒が逆転ムードでした。そこから白は右下隅に仕掛けて行きましたが、結局右下隅は全部黒地になり、代償で下辺中央部が厚くなった白はこの下辺左側の模様の中の黒を左辺から切り離して攻めを狙い、あわよくば取ってしまおうとしました。黒は上手くしのいで白模様の中で活きましたが、白も色々と余得があって、ここで形勢は白がかなり挽回しました。しかし白は左上隅で更に劫を仕掛け、劫材は白有利で、劫に勝ちかつ黒に2手手を入れさせました。これで完全に半目勝負の状況になりましたが、黒にヨセでわずかに緩い手が出て、結局白の半目勝ちになりました。高尾9段の劣勢になってからの追い上げが見事でした。
NHK杯戦囲碁 河野臨9段 対 張栩9段
本日のNHK杯戦の囲碁は黒番が河野臨9段、白番が張栩9段の対戦です。この碁は下辺の左側での折衝がすべてと言って良く、黒がほとんど取られかけていた2子を活用しようと動き出しのはいいのですが、それを捨てて中央を厚くしても、この碁ではあまり厚みが働かない、ということで、丸ごと活きに行ったのですが、果たしてそれが良かったかどうか。結局劫付きの攻め合いになりましたが、白はどさくさに紛れて下辺で出切りを敢行し、黒はあちらこちらが薄くなりました。劫は一度白が勝ち、黒は原型からすると左辺で若干の厚みを築いた以外は何も得ていない形でした。それで黒は再度劫を蒸し返してこの石を復活させに行きましたが、劫材で中央を覗かれたのに受けず、黒2子を取り込まれてしまいました。こうなると右下隅から延びた白にまったく不安がなくなり、黒は劫に勝っても地だけのことであり、何も寄り付きの狙いが無くなったのは辛かったと思います。その後も打ち続けられましたが、結局中央にも黒地は大して付かず、黒の投了となりました。
NHK杯戦囲碁 井山裕太三冠 対 六浦雄太7段
本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が井山裕太三冠(棋聖・本因坊・天元)、白番が六浦雄太7段の対戦です。内容は序盤はお互いに我が道を行くような模様の張り合いでしたが、黒が下辺に侵入し、白が挟んで、その後更に黒が右辺に打ち込んで白がその間を割いていってと激しくなりました。黒は下辺の攻防で巧妙に左下隅と絡め、左下隅の地をえぐり、代償で下辺の黒は捨てて打つのかと思いましたが、1子も捨てずに全体を活きに行き、成功しました。これで下辺の白地がほとんど無くなり黒の大戦果でした。しかし代償で右下隅からの白が鉄壁になり、白は右辺の黒を出切って分断しました。この黒は単体では眼が無く、黒は右辺上方の白を包囲して攻め取りで締め付けを狙いました。白は攻め取りは面白くないので、単体で眼を作りに行きましたが、黒はそれを利用して劫に持ち込みました。黒は右辺を活きる手を劫材にして活き、代償に白は黒の包囲網を突き破ってポン抜きました。後は黒の上辺の地がどれだけまとまるかの勝負でしたが、白は左上隅に侵入し、かつ上辺も若干荒らして、後はヨセ勝負になりました。このヨセで白が下辺から左辺にかけての白地を確保する手を打たないで左辺上方の黒地を減らしに行ったのが疑問手で、黒にそちらに踏み込まれて、地が大きく減ってしまいました。中央にも白地はほとんどつかなかったため、地合で黒に及ばず白の投了となりました。