NHK杯戦囲碁 一力遼8段 対 許家元碁聖

本日のNHK杯戦の囲碁(時間変更で15:30から)は、一力遼8段と許家元碁聖の準決勝第一局。この二人は同じ21歳同士のライバルですが、対戦成績は一力8段から見て6勝1敗と片寄っています。許碁聖は碁聖戦で3連勝でタイトル奪取と、井山裕太5冠王に対し強みを見せました。一力8段は逆に井山5冠王に何度も挑戦していますが、まだ結果に結びついていません。ということは今時点ではこの三者はいわゆる三すくみの状態にあることになります。もっともこのところの井山裕太5冠王は、タイトル戦の対局過多で疲れが出ているだけで本調子ではないのかもしれませんが。
それで一力8段と許碁聖の対局ですが、序盤からかなり激しいねじりあいの碁になりました。全体を通じて許碁聖があまり普通ではない鋭い感じの手を出し、それに対し一力8段がまったく読み負けていないで、むしろその手をとがめるような感じの打ち回しを見せたということです。特に右辺のねじり合いで、許碁聖が切りが2箇所ある黒の外壁に対しハサミツケた時に、一力8段が直接その手を相手にせず、右辺の白を取り切った手がまさしくそんな感じでした。この右辺の戦いは、中央の所で大きな劫になりましたが、許8段が上辺の黒を取り込む手を劫立てにしましたが、一力遼8段が受けずに劫を解消し、結果的に右辺の黒は大きな地になり、その大きさも50目くらいありました。白は上辺の黒を取り込んだのと中央にかなりの厚みがあり、上辺からの白模様をどう拡げてまとめるかが勝負でした。白はまず左辺の黒の二間開きに圧力をかけましたが、黒は受けの途中で手を抜いて、中央で白模様の中に残された黒二子を動き出しました。黒はドンドン押していって中央に一直線の黒石が出来ました。しかし、この黒は左辺とはつながることは出来ず、どこかの白の包囲網を破るか中で活きるかということになりました。白はしかし中央下方の石がはっきり活きていないという弱点があり、そこを巡ってあちこちで石が切り結び、闇試合的な様相になってきました。左辺下方の白、左下隅の黒と白、中央と切り離された下辺の白、中央下方の白という感じで石が入り乱れましたが、結局下辺の黒は眼をもって活き、それと同じく中央下方の白もほぼ活きました。また左辺下方の白も結局眼をもって活きました。問題は左下隅で、白から見て一手寄せ劫で黒に余裕がありました。白はその後中央の黒に襲いかかりましたが、左辺で後手一眼あり、また中央で色々な効きを見て先手一眼を確保し、活きることが出来ました。この間に白も上辺の地をまとめたので、後は左下隅が勝負になりました。白はダメを詰めてこの隅を本劫にしました。白にとって悔やまれるは黒に対するダメの詰め方が一手間違っていたため、それで劫立てが一つ減ってしまいました。その劫立て一つの違いが大きく、結局劫は黒が勝ちました。途中どちらかがつぶれてもおかしくないような激戦でしたが結局作り碁になり、黒の7目半勝ちになりました。一力8段はNHK杯戦で三度目の決勝進出です。これまで2回は苦杯をなめており、今度こその思いは強いと思われます。相手は来週の井山裕太5冠王と伊田篤史8段の勝者です。

NHK杯戦囲碁 許家元碁聖 対 鈴木伸二7段

本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が許家元碁聖、白番が鈴木伸二7段の一戦で、準々決勝最後の対戦です。許家元碁聖の活躍は今さら言うまでもありませんが、鈴木伸二7段は経歴を見るとかなり苦労されてきたようで、たとえば入段の時も2回失敗し3度目にようやく許されています。しかし最近の活躍は素晴らしく、昨年は名人戦リーグに入り一流棋士の仲間入りをしました。しかも現時点でのタイトル保持者の3人に対してすべて勝ち越しているとのことで、これは全棋士中鈴木7段だけではないかと思います。布石は黒が2連星、白が両方小目でした。黒が左上隅に左辺からかかった時、黒はかけて、白はそれに対し出切りを敢行しました。これに対して黒は切られた一子は軽く見て、左辺を重視しました。その後局面が動いたのは右下隅の攻防で白が両ガカリし、黒がツケノビてという攻防で白が右下隅をはねた時黒が受けずに下辺を先着しました。勢い白は右下隅を当てて実利を得ましたが黒が下辺に開き、左下隅の白が薄くなりました。黒は左下隅からの白のケイマの間を分断することを狙っていましたが、白はコスんで受けて、黒は愚形になりますがすぐに出切りを敢行しました。これが厳しく、白はその後をうまく打って左辺と下辺に分断されたのを両方しのぎましたが、左辺の白は完全に治まった訳ではなく、何かと黒の狙いが残る碁になりました。大ヨセに入る前の形勢では地合は若干白がいいかなという感じでしたが、黒は厚みを活かして各所の白に寄り付き、特に上辺の白に対して策動し、何手も手を入れさせて得をしました。こうした寄り付きを積み重ねて、結局最終局面では盤面10目くらい黒がリードということで、白は投了しました。準決勝は今日勝った許家元碁聖と一力遼8段、井山裕太5冠王とい伊田篤史8段の組み合わせになりました。

NHK杯戦囲碁 張栩名人 対 伊田篤史8段

本日のNHK杯戦の囲碁は黒番が張栩名人、白番が伊田篤史8段という、興味深い組み合わせです。二人はまだ4局くらいしか対戦していないようですが、これから増えていくと思います。布石は4隅全部星という比較的最近では珍しい立ち上がりでした。一時例のAI流のダイレクト三々入りの流行で星を打つ棋士が減ったように思いましたが、最近では研究も進み、特に星打ちが問題ないことが再認識されたのではないかと思います。左下隅でも左上隅でも黒がカカリから付けていって同形の定石になりました。左下隅は双方が治まりましたが、左上隅はいきなり劫になりました。黒は劫立てで右下隅の三々に入っていた白に効かしに行きましたが、白は受けずに劫を解消しました。この結果右下隅の白は半死状態になりました。その後白が右上隅に両ガカリし、黒は右辺の白にツケノビて、白は右辺に展開しました。白の一子が上辺に残っており、白はこの石からコスんでツケノビた黒の出切りを強調しました。これに対して黒は右辺の白にハサミツケて、それから上辺の白にカケを打って包囲しました。白はカケた黒にツケコシを打ちそれから中央を出て行って最終的に出切りを敢行しました。ここの折衝は結局大きな劫になり、結局白は劫立てで右下隅を連打し、黒の下辺の模様を制限しました。その代償で黒は右上隅から上辺を地にし、さらに右上隅から延びる白の一団への攻めを見ました。この黒の白への攻めに対して、白が取られている石を活用しながら黒の急所にツケを2手連続で放ち、黒が反発した結果、また大きな劫になりました。白には中央に劫立てがあり、結局黒が謝った形になり、黒が上辺を取り切り、白は攻められていた一団が黒一子をポン抜き更に中央に利きも多くなり、これにより一団が安定したのと同時に左辺の地模様が大きくなり、ここで白が優勢になりました。さらにその後、白は右辺から黒の狭間を付いて下辺へ進出し、ここの黒地を大きく削減しました。これで白の勝勢になりました。その後左下隅のヨセで黒が若干得をしましたがその代償で白が中央の黒数子を取り込んで左辺が大きくまとまり、結局白の中押し勝ちになりました。

NHK杯戦囲碁 井山裕太5冠王 対 羽根直樹9段

本日のNHK杯戦の囲碁は、準々決勝第3局で、黒番が井山裕太5冠王、白番が羽根直樹9段の興味深い一戦です。布石で先週に続いて左下隅でまたもツケノビ定石が出てきて、本当にプロの間で流行しているんだなと思いました。囲碁の定石を覚える時、ほとんどの人がこの定石を最初に覚えますが、昔(1980年~2000年頃)はプロ棋士では特殊な局面を除いて打つ人はほとんどいなかったと思います。極論を言えば「置き碁定石」みたいな言われ方さえされていました。要するにプロははっきり形を決めないで、後の展開で色々な打ち方をする可能性(含み)を残すのが好まれていました。それに対してAIは形勢の判定が難しいぼんやりした手は評価が低く、部分的に簡明な別れをより高く評価する傾向があり、それにプロが影響を受けているということだと思います。(余談ですが、全盛期の小林光一名誉棋聖はそういう決め打ち的な簡明な打ち方を多用し、現在のAIの打ち方にある意味似ていました。)解説の村川大介8段によると羽根9段はそういう風潮に流されず従来と同じ打ち方にこだわっているとのことですが、自分は打たなくても相手は打ってくる訳で、そういう打ち方への対応は必要です。話が反れましたが、局面は井山6冠王が左辺の模様を大きくしたのと、また黒が右下隅の白の小ゲイマジマリに付けていった石があり、この二つが焦点でした。羽根9段は左辺の模様が完成する前に深く打ち込んで行きました。黒が鉄柱で応えたのに大ゲイマで軽く中央に進出しましたが、黒はその間を切断に来ました。羽根9段はここでシチョウアタリをにらんで右上隅の星の黒に付けて行きました。結果として黒は左辺に手を入れシチョウを解消して左辺を確定地とし、その代償として白は右上隅で黒を隅に閉じ込め、右辺を地模様にしました。その後は右下隅で白の小ゲイマジマリに付けていった黒と、左下隅から下辺に展開している白との競り合いになりました。黒が下辺で左側にコスんで左下隅の白に利かそうとしましたが、白は下辺の黒に打ち込んでいき、右下隅とつながって黒の根拠を奪いました。両方の石が中央に出て行くもつれた展開になりましたが、圧迫された白が黒に対して切断の強手を放ち、中央の黒を切り離して白のパンチが決まったかと思いました。しかし黒はうまく右辺に潜り込んで白の一等地でコミ以上の地を持って治まりました。これに対して白は黒の数子を取って中央に若干の地を作りましたが、左辺の黒地を減らせた訳ではなく、ここではっきり黒が優勢になりました。結局黒の中押し勝ちでした。やはり井山5冠王の戦いの中で見せる鋭さは第1級のものだと思います。

NHK杯戦囲碁 一力遼8段 対 余正麒8段

本日のNHK杯戦の囲碁は、本日より準々決勝で黒番が一力遼8段、白番が余正麒8段の対戦です。二人共に7大タイトルの挑戦経験があり、同じく二人共に井山裕太5冠王の壁に阻まれていますが、近い将来どちらも7大タイトルを取るのはまず間違いないと思います。右下隅で、黒の一間締まりに白がいきなり横付けしました。最近では珍しくない打ち方のようです。結果として黒の厚み、白の実利になりましたが、将来の劫が残りました。左下隅で黒が下辺から掛かったのに、白はある意味置き碁定石とも言われていたツケノビ定石を選択しました。この定石は自分も固まるけど相手も固めるので妙味がないとされ、プロで打つ人は少なかったのですが、今はAIの影響でむしろ簡明でマギレが少ない打ち方として採用されるようになっています。黒は隅への伸び込みではなくコスミを選択しました。定石完了後、黒は下辺から押していって下辺の拡大を図りましたが、白はハネてそれに対し黒は切ってここから戦いが始まりました。黒は左辺に根を下ろし、左下隅の白に対する狙いを残しました。ここでのその後の折衝の結果、黒は白2子を取ってはっきり活き、代償に白は左上隅を固め更に中央に厚みを築きました。この結果は互角か黒に不満がない、というものでした。黒はその後白の中央の厚みの断点を覗いて行きました。白は当然継がずに反発し、黒も覗いた石を担ぎ出して、ここでまた戦いになりました。黒は覗いた石の一団を上辺の黒に連絡し、白に断点を継がせれば互角でしたが、敢えて切りを決行しました。当然白は中央と上辺の連絡を遮ってきましたが、そこの折衝の結果、大きな劫が発生しました。白は左辺で取られていた白2子を生還させる手を劫材にしましたが、黒は構わず劫を解消しました。この結果、黒は上辺の白を取り込んで大きな黒地を得ました。代償で白は左辺の黒を取り込み左辺を大きな白地にしました。しかしこの収支は黒が得しており、ここではっきり黒が優勢になりました。左辺もまだ攻め取りになる可能性が残っています。白はその後右上隅を侵略し、更にそれに絡めて上辺での策動を狙いましたが、結果として手はありませんでした。その後右下隅で劫が始まり、白はそこで活きましたが、黒が左下隅で隅に寄りついたことで左辺に置きからの手が生じました。最初劫かと思いましたが、結局取られていた黒石が活きる手が出来、ここで白の投了となりました。

NHK杯戦囲碁 結城聡9段 対 井山裕太5冠王

本日のNHK杯戦の囲碁は黒番が結城聡9段、白番が井山裕太5冠王の対戦です。上辺で右上隅にかかった白を黒が挟み、白がそれを更に挟み返し、更に左上隅にかかっていた黒もあって早くも競い合いが始まりました。結果として白は右上隅に実利を若干確保しましたが、黒は右辺方面に厚みを築きました。先手の白は右下隅にかかって右辺に展開し黒の厚みの効果を削減しました。その後黒が左上隅で両ガカリし、ここでまた競い合いが始まりました。その過程で白が左辺の黒の急所に覗いていったのが面白い手で、結果的に黒は覗いた白を取り込み、外側に切った白石をシチョウに抱えました。部分的には白が損していますが、シチョウアタリからシチョウの逃げ出しが大きな狙いとなり、実際に後で実現しました。白は右下隅から下辺にかけて策動し、その後シチョウの逃げ出しを決行しました。この逃げ出した白が単体で活きるという選択肢もありましたが井山5冠王は敢えて攻め合いにしてこの白を取らせ、代償として締め付け、黒の勢力圏だった下辺で左下隅とつながる地を持ち、かつ黒数子を取りこむという大きな戦果を挙げ、白が優勢になりました。その後黒が右辺で寄りついて白2子を切り離して戦果を挙げましたが、白もその替わり中央の地を稼ぎ逆転には至りませんでした。ヨセで最後に黒が乱れたのもあって、結局白の4目半勝ちでした。井山6冠王の戦略のうまさが光った一局でした。

NHK杯戦囲碁 一力遼8段 対 黄翊祖8段

昨日の(昨日はオペラ鑑賞だったので、録画で視聴)NHK杯戦の囲碁は黒番が一力遼8段、白番が黄翊祖8段の対戦でした。布石は黒が2隅小目、白が2隅星でした。左下隅で一力8段は白の星に対し、いきなり三々に入りました。以前買ったアルファ碁に関する本の中では「絶対に私はいきなり三々に入らない」と言っていましたが、このNHK杯戦でも既に2度目で、完全に意見を変えたようです。左上隅と上辺の折衝で、白は黒を無理矢理切り離し、また黒も上辺の白を押さえていって、いきなり攻め合いみたいな格好になりましたが、結局白が黒の4子を取込み、かなりの大きさの地を持って治まりました。黒は厚くはなりましたが、締め付けとかが利いた訳ではなく、この別れは白が打ちやすかったかと思います。黒がこの厚みを活かして右辺の白に迫った時、白がその黒に付けたのが若干問題手で、黒に跳ね出されて切断され、中央の浮いた白は黒の厚みを活かしての攻めの格好のターゲットになった感じです。しかし、黒が厳しく攻めるというより手厚く打った関係で、白は黒模様の中で居直り、それなりに地をもって治まった感じになったので、ここでも白がポイントを上げたと思います。そうなると黒は左辺の白を分断し、なおかつ下辺を拡げることになりますが、白は下辺についてもうまく侵入し、また左辺も大きな損をしないでしのぎました。これで下辺を他に影響が出ない形でしのげば白の完勝譜でしたが、上方の白と下辺の白の間で、ちょっと白に疑問手があり、下辺と上方の白を見合いにするような打ち方を黒にされてしまいました。白は下辺を優先したのですが、今度は一度は地をもって治まったかに見えた上方の白に手が生じ、結局この白が死んでしまいました。こうなると黒地が膨大で、さすがの白の好局もフイになりました。一力遼8段はしのぐが得意で攻めて相手の石を取るのは、相手のしのぐ手がすべて見えてしまって不得意だそうです。しかし本局ではこれしかないというわずかな勝ちパターンを見事に捉えて勝利しました。

NHK杯戦囲碁 許家元碁聖 対 小林覚9段

昨日のNHK杯戦の囲碁(先週に続き、今週もTOEICのため録画で視聴)は、黒番が許家元碁聖、白番が小林覚9段です。布石は両者星打ちという、最近では珍しいものでしたが、左下隅で競り合いが始まり、ほとんど見たことがない展開になりました。許碁聖が白に対して覗いたのに、白が反発しましたが、黒は下辺の黒に利かしてから、出切りを決行しようとしました。しかし白は途中で手を抜いて、覗いた黒を取り込みました。代償で黒は下辺で白4子を取り込みましたが、残った下辺の白は死んでおらず、この別れは白の小林9段が許碁聖の強烈なパンチをうまくかわしたという印象で、白が悪くなかったと思います。その後も白は黒のパンチをかわしたり、時には隠忍自重の手を打って我慢し、各所で地を稼いで白優勢な局面で進みました。黒は右上隅の石が弱く、また真ん中の石も左辺と切り離されると弱いですが、許碁聖は単につながるような手は打たず、上辺に踏み込んだ勝負手を放ちました。この勝負手はかなり無理気味で、黒ははっきり二つに分断され、両方をしのぐのはかなり大変そうでした。しかし許碁聖はその後も強手を連続し、結局左辺の白と中央の黒の振り替わりになりました。この振り替わりは白地の方が大きく、これで白勝勢かと思ったのですが、そこからの許碁聖の粘りが素晴らしく、結局中央の黒を攻め取りにし、左辺での白3子の抜きを先手にし、これで黒がかなり形勢を持ち直したどころか逆転したようです。その後ヨセで劫を含む小競り合いが続きましたが、黒地が優り、小林9段の投了となりました。

NHK杯戦囲碁 伊田篤史8段 対 村川大介8段

昨日のNHK杯戦の囲碁(TOEIC受験のため録画で視聴)は、黒番が伊田篤史8段、白番が村川大介8段の対戦です。この2人はどちらも7大タイトル経験者ですが、何と今回が初手合だそうです。名古屋と大阪で拠点は違いますが、このクラスで今まで当たったことがない、というのはかなり珍しいと思います。対局は、右下隅で黒の二間高開きに対し、白が裾からかかり、黒が手を抜いたので、星に付けていって、そこで争いが始まりました。白は隅で活きにいくかと思っていたら、黒の手に対し反発して黒を切り離したので、難しい局面になりました。右辺で黒は這って手数を延ばし、隅の白に当てていって劫が発生しました。白は左辺上部に劫材を打ちましたが、黒は右下隅の劫を継いで、右下隅にはかなりの大きさの黒地が出来ました。しかし白も左辺の連打で、左上隅がほぼ確定し、また右下隅にも大きな地が出来そうになっており、互角の別れでした。その後白左辺から中央で切り離された黒を攻めつつ左下隅からの地を拡大しようとした時に、黒が跳ね出していって白が切った後、黒がかけたのが上手い手で、ゲタで白を取る手を見せながら利かし、普通に囲い合いをするよりはるかに下辺から中央にかけての黒模様が大きくなり、黒が一本取りました。しかしその後白は下辺で取られていた石から跳ね出したのが鋭く、黒も予想外で戸惑っていました。しかしその後、取られていた石を動き出して、黒2子をウッテガエシで取るぞ、とやったのに、黒が継がずに他を打ったのが好手で、白は黒2子を取っても欠け眼で全体で2眼ありませんでした。元々取られていた石なので、大きく損をした訳ではありませんが、ちょっと誤算があったようです。白はその後も取られている石を最大限活用して利かそうとしましたが、あまり上手くいきませんでした。その後白が上辺を囲おうとした後、黒がそれを制限に行った後、白はその石と黒の中央の本体とを切り離しました。しかし黒は右上隅の白に上手く利かせながら、上辺を楽に活きることが出来、ここで白が投了となりました。しかしながら両者の持ち味が良く出た好局だったと思います。

NHK杯戦囲碁 河野臨9段 対 余正麒8段

NHK杯戦の囲碁、新春の第1局は黒番が河野臨9段、白番が余正麒8段です。布石は黒が右辺で変形の高い中国流(右辺の石が中国流より一路下)で、右辺から下辺の模様で打つかと思いましたがそうはならず、黒は足早に各所で地を稼ぎ、下辺はむしろ白の領域になりました。途中までは黒がいい感じでしたが、転機となったのは左辺の攻防で、黒の構えに対し白がハサミツケていったのが好手で黒はその手をうっかり見落としていた可能性があります。そこの折衝で黒の中央の3子が切り離され、黒はどうするかと思いましたが、黒はあっさりその3子を捨てて打ちました。黒からは下辺白へのシチョウアタリを打つ手が残りましたが、白が厚くなって下辺の模様が大きくなり、白が優勢になりました。黒はその後下辺へシチョウアタリを打ちましたが、白に受けられた後厳しい後続手段がなく、ちょっと形勢を挽回するには至りませんでした。その後黒は右辺の白を攻め、また左上隅から延びる白とからめ攻めにしようとし、左辺で取られている3子へのシチョウアタリの後続手段を打つのではなく、中央から曲げて利かせて白に3子を抜かせました。しかし右辺の白は結局下辺に連絡し、また左上隅からの白は上辺の黒、左辺の黒ともはっきり活きていなかったため利きが色々あり、黒の攻めは不発に終わりました。その後黒が下辺の白模様に対し頭を出そうとしたのに白がハネたのが打ち過ぎで真ん中から黒に出られて事件かと思いましたが、白は3子を捨てて黒の進出を止めて下辺に大きな地が完成し、ここで黒の投了となりました。