NHK杯囲碁 伊田篤史8段 対 河英一6段

jpeg000-81本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が伊田篤史8段、白番が河英一6段の対局です。伊田8段は先々期のNHK杯優勝者です。黒番の伊田8段は、右上隅を目外し、左上隅を大高目と意欲的な布石でスタートしました。しかし、黒は下辺では常識的な定石を打ち、模様の碁にはなりませんでした。黒は右上隅、左上隅とも3手かけて囲い、特に右上隅はいわゆるトーチカの変形みたいでした。そこに白が付けていったのですが、黒が外から押さえ、ここは劫になりました。白は劫立てで今度は左上隅に付けていきました。黒はこれに受けずに劫を解消しました。左上隅を白は2手打ちましたが、元々黒が3手かけていた所なので、辺で黒1子を抜きましたが、黒の損害は大したことはなく、ここで黒が優勢になりました。その後白は上辺の2間開きから中央に飛んで補強しました。それに対し黒は左辺で黒1子をぽん抜いた白の角に打ってこの白を攻めました。この戦いの結果、白は左辺でつながり、黒は中央が厚くなりました。これで多少白が盛り返しました。その後白は下辺で黒から打てば先手だった所を逆に白から付けていきました。黒は反発して下辺に潜り込みましたが、その代わり白に中央にはみ出され、中央の黒地が減りました。黒は形勢が容易でないと見て、盤上で唯一の弱石である上辺の白に対して置きを敢行しました。その結果また劫になり、白は劫立てで中央で黒をシチョウに抱えて振り替わりになりましたが、この結果は黒の儲けが大きかったようです。その後寄せになりましたが、黒が中央をまとめて10数目の地にしたのが大きく、盤面で黒が10数目リードでした。ただ、白から左上隅で切りを打って劫を挑む手があり、白が劫に勝つと黒は上辺の黒をつながないとなりませんでした。劫材も白から中央の黒に何手もありましたが、何故か白は劫を決行しませんでした。これが不可解で結局黒の5目半勝ちでした。

NHK杯戦の囲碁 趙治勲名誉名人 対 結城聡9段

jpeg000-73本日のNHK杯戦の囲碁は黒番が趙治勲名誉名人、白番が結城聡9段の対局です。趙名誉名人は二十五世本因坊ですが、60歳を過ぎたので、新たに名誉名人を名乗ることができるようになっています。対局は、黒が右辺で低い中国流に構えましたが、前半の焦点は左辺でした。黒は上辺に展開した白に対し左上隅は下から大ゲイマにかかりました。これに対し白は一間に肩に打ち、黒は隅に滑りました。その後の折衝で黒は封鎖してきた白に対し出切りを敢行しました。出切った石から黒は上を4本押しましたが、白は跳ねて反発しました。それに対し黒はすぐ切るかと思いましたが、一旦左上隅の白に効かしにいきました。これに対し白はそれを受けずに跳ねた所を伸びきりました。黒はそれから切っていきましたがちょっとちぐはぐでした。その後左上隅は劫になりましたが、その折衝の中で黒は左上隅を活きる手を打たされたのがちょっと癪な所で、ここの別れは白が中央で一子ぽん抜いているため、白の有利で終わりました。その後黒は左下隅の黒を動き出し、一旦は左下隅の星の白一子を包囲したのですが、すぐに白に動き出され、結果的に白は外に連絡し、黒は2つに分断され、下辺の黒が弱石となりました。ここまで完全に白のペースでしたが、ここからの趙名誉名人の頑張り方がすごく、まずは上辺に手をつけ、ほとんど白の勢力圏の中で無理矢理スペースを確保して活きてしまいました。その後中央に弱石が2つあったのですが、2つともしのいでしまったどころか、逆に右下隅の白を取ってしまいました。しかしそれで逆転かというと、それまでの貯金が大きくまだ白が優勢でした。白は右上辺で取られている石を攻め取りにさせようとしましたが、黒は締め付けを効かされると負けだと反発し、右上隅で劫になりました。白は取られていた右下隅の白を復活させる手を劫立てに打ちましたが、黒はこれを受けずに右上隅の白を取ってしまい、振り替わりになりました。この収支でも黒が得をし、半目勝負の形勢になりました。しかし、寄せでは白がわずかに厚く、終わってみれば白の半目勝ちでした。振り替わりに継ぐ振り替わりで、プロらしい面白い勝負で好局でした。

百田尚樹の「幻庵」、連載終了

週刊文春に連載されていた、百田尚樹の「幻庵」がやっと連載終了。12月31日に単行本として出るそうですけど、買う人いるのかな。タイトルは「幻庵」だけど、途中2/3くらいまではほとんど「本因坊丈和」といってもいい内容でした。それでも敢えて「幻庵因碩」を主人公にしたのは、そうすると丈和だけでなく、本因坊秀和、秀策といった人も登場させられるからに過ぎないように思います。内容も幕末囲碁史であって、人間としての幻庵因碩の描写はイマイチだったように思います。単行本として出すなら、出てくる対局の棋譜を全部載せて欲しいですが、無理でしょうね。

NHK杯戦の囲碁 謝依旻6段 対 張栩9段

jpeg000-67本日のNHK杯戦の囲碁は黒が謝依旻6段、白が張栩9段の対局です。序盤で左下隅で白は目外しを打ち、それに対し黒は浅くかかりました。左辺に展開した黒に対し白は右上隅の黒を切り離す覗きを打ちましたが黒はそれをすぐ受けず、中央に打って強大な厚みを築きました。(左上隅は結局黒はつなぎました。)この黒の厚みが働くかがこの碁の焦点でしたが、白は右下隅にかかり、黒は2間に高くはさみました。ここで白は右下隅に付けていきましたが、張9段はこの打ち方はアルファ碁を参考にしたと言っていました。先日の碁で高尾紳路9段もアルファ碁を参考にしたと言っており、コンピューターの打ち方がかなりプロにも影響を与えていることがわかります。白は右下隅で付け引いて、黒は隅をかけついで打ったのですが、その後の黒の打ち方が難しく、黒は左下隅に転じました。しかしここの折衝で黒は後手を引き、白に右下隅を圧迫する手を打たれてしまいました。この結果黒は右下隅で後手で小さく生きることになり、その反面白は中央で伸び伸びして、結果的にこの白への攻めがあまり効かず、黒の厚みが働きませんでした。白は右辺にも展開でき、更に右上隅の黒も小さく閉じ込めて活かすことになり、白の打ちやすい碁になりました。黒はその後中央に黒地を付けに囲いの手を打ちましたが、この囲い方が小さく、ここで白が優勢になりました。その後も戦いらしい戦いはなく寄せに入り、左辺と左上隅で劫になりましたが、勝敗には関係なく、劫自体も白が勝ちました。終わってみれば白の9目半勝ちの大差でした。女流のタイトルは独占している謝6段ですが、男性のタイトル経験者にはまだ分が悪く、このNHK杯戦でも羽根直樹9段に連敗しています。

NHK杯戦の囲碁 井山裕太棋聖 対 小林覚9段

jpeg000-57本日のNHK杯戦の囲碁は黒が井山裕太棋聖、白が小林覚9段の対局です。井山棋聖は7冠王ですが、このNHK杯戦だけ優勝が無く、準優勝が最高です。(これに対し将棋の羽生さんは全冠制覇の時はNHK杯も取っています。)しかし東アジアの早碁大会で優勝していますから、早碁が不得意という訳ではありません。対する小林9段は井山棋聖と10戦して5勝5敗と五分の星を残している、たぶん唯一の棋士です。対局は、黒が左辺に大きな地模様を築きかけ、そこに次にどちらが打つかが焦点になりましたが、黒は中央に伸びた白への圧力を重視し中央を優先して打ちました。左辺は白が開くことになり、左上隅にかかっていた黒が孤立したので、黒は左上隅に付けていきました。白はそれに対し、隅の地は多少黒にえぐられても、中央を重視しました。先手を取った白は左辺から中央に伸びる黒に対し出切りを敢行し、その結果左辺の黒は一眼もない形になりました。その後黒は中央の白に付けていって絞りを狙いました。一連の折衝で白がやや妥協して黒は白の二子を抜いたのですが、余分な石がくっついていて効率が悪かったのと、黒以上に中央の白が厚くなって、ここで白がはっきりリードしました。白は中央の厚みを活かし下辺に打ち込んでいきました。しかし白はここの折衝で何か錯覚があり、打った石を丸ごと取られてしまいました。ここで黒が逆転して優勢になりました。その後攻防が続きましたが、黒のリードはそのままで、最後白が時間つなぎに打った手が1目損で、ここで白の投了になりました。小林9段としては惜しい碁でした。また井山棋聖に取っては初めてのNHK杯戦制覇に向けて冷や冷やのスタートとなりました。

NHK杯戦囲碁 高尾紳路9段 対 林漢傑7段

jpeg000-48本日のNHK杯戦の囲碁は黒番が高尾紳路9段、白番が林漢傑7段の一戦です。高尾9段は現在名人戦で井山7冠に挑戦中で出だし3連勝で好調でしたがその後2敗し、現在3勝2敗です。対局は黒が右下隅で地を稼ぎ、黒が下辺に打ち込んできた白を左下隅に連絡させないように遮った所でいきなり劫になりました。黒は劫材が足らないかと思いましたが、左上隅の星の白に直接付けていく手を劫材にしました。高尾9段の解説によると、この手は以前は損劫だと思っていたのが、例のアルファ碁がいきなり付けていく手を打っていて、必ずしも大きな損にはならないということがわかって打ってみたそうです。結局劫は黒が勝ち、その代わり白は右上隅を連打しましたが、元々右上隅は黒が2手打っていましたので、劫の結果は黒が悪くなかったようです。その後白は上辺に打ち込んでいきましたが、折衝の中で黒が左上隅に利かす手を打ったのに白が手を抜きました。それはいいとして、黒が左上隅に置いていったのに対する白の対応が間違いで、この隅は5手寄せ劫ぐらいで、ほとんど白の丸取られとなりました。元々白地が10目くらいあった所が30目ほどの黒地になってしまい、ここで勝負は決まりました。その後白は下辺の黒に寄り付いていき、また劫になり、白は下辺と右下隅を大きく荒らしましたが、逆転には至らず、結局黒の中押し勝ちでした。

NHK杯戦囲碁 苑田勇一9段 対 新垣朱武9段

jpeg000-43本日のNHK杯戦の囲碁は黒番が苑田勇一9段、白番が新垣朱武9段の一戦。苑田9段は1手目が高目、それに対し新垣9段がいきなり2手目でかかり、苑田9段はそれに受けずに右下隅でやはり高目、新垣9段が左下隅を打って、苑田9段が左上隅を目外しという今まで見たことのない序盤でスタートしました。その後苑田9段は右下隅を白が手抜きしたのもあって大きく地にしかつ右辺を模様化しました。これに対し白は左下隅から左辺、下辺にかけて地模様を築きました。それから白が右辺を消しに行き、黒が反発して勝負はこの白に対してどのくらい攻めが利くかでした。結果的にはこの白は十数目の地を持って治まってしまい、むしろ黒の方が右辺から中央に飛んだ石の眼を心配しなければなりませんでした。白は左上隅の黒に対してもうまい手を打って地を減らすことが出来ました。全局を通じて戦いらしい戦いがなく、囲い合いになりました。こういう展開になると白のコミがものを言い、終わってみれば白の4目半勝ちでした。苑田9段はちょっとらしくない碁でした。

NHK杯戦囲碁 溝上知親9段 対 村川大介8段

jpeg000-36本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が溝上知親9段、白番が村川大介8段の対戦。黒は上辺に模様を作り、白が消しに行き、黒はそれを受けずに右辺をさらに拡げました。このタイミングで白は下辺の黒の眼を取って黒を攻めたてました。黒は中央に進出しましたが、ここで白が左辺の黒石に付けたのが、いわゆるもたれ攻めです。この攻めで白は地を稼ぐことが出来ました。ここまでは白がうまく打っていましたが、その後上辺の黒を攻めたのがちょっとまずく、黒はこの上辺を捨てて中央を大きく囲いました。その後更に黒は上辺右側の石も捨て、その代わり中央に80目近い巨大な模様が出来ました。しかし白の確定地も大きく、勝負は右辺と下辺の白の生死になりました。黒はどちらかを取れれば勝ちでした。その折衝では、両方が劫になる可能性がありましたが、溝上9段は劫材が足らないと見て、結局下辺の白の尻尾を取っただけに終わり、白は両方をしのぎました。これで白がわずかに優勢で、結局白の3目半勝ちでした。振り替わりに次ぐ振り替わりで、プロらしい見ごたえのある碁でした。

NHK杯囲碁 三村智保9段 対 羽根直樹9段

jpeg000-26本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が三村智保9段、白番が羽根直樹9段の対戦。序盤黒と白がお互いに中央に飛びあった状態で白の羽根9段が仕掛け、黒の一間飛びに中央から覗いて継がせ、すかさず黒がケイマに飛んだ所をつけこしていきます。覗きが働いて、黒が普通に切ると愚形になるという仕掛けです。その後の折衝で白は左辺を破ることが出来ました。この辺りで白が打ちやすい形勢になったようです。白はその後黒が上辺を囲おうとしたのに、すかさず上辺に左上隅からの連絡を見ながら侵入しました。これに対し黒は取られている2線の黒を引っ張り出して、締め付けを狙いました。その結果、白は上辺で地を稼ぎましたが、その代わり中央の白の大石が危なくなりました。しかし白はうまく劫に持ち込みました。劫材は白に多く、結局黒は包囲している自分の石を活きねばならず、劫は白が勝って、ここで白が勝勢になりました。その後白は黒の下辺に置いていく巧妙なヨセを見せ、ここで黒の投了となりました。

NHK杯戦囲碁 黄翊祖8段 対 芝野虎丸2段

jpeg000-15本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が黄翊祖8段、白番が芝野虎丸2段の一戦。黄8段は3大リーグに参加している強豪、タイトル戦への登場も近いと期待されています。芝野2段は各棋戦で勝ちまくっていて、勝率No.1です。対局は、上辺で黒が開いた所にすかさず白が打ち込んで、序盤から戦いになりました。黒は白の二間開きの間を分断して白を上辺に閉じ込めようとしましたが、白はうまく頭を出して、上辺の黒と右上隅の黒を分断出来ました。この時点では白がうまく打っていました。その後、左辺と左下隅、下辺を巡る戦いになりましたが、結局黒は左辺を、白は下辺をそれぞれ相手の数子を取り込んでの振り替わりになりました。この結果は互角でした。しかし黒は右下隅から下辺の黒を取り込んでいる白の壁に向かって開き、取り込まれている黒を攻め取りにさせることを狙いました。白もその危険性は察知し、下辺から右辺に向かって頭を出しました。その後、右辺の折衝に移り、白は地をえぐって儲けたのですが、その代わり、下辺からの白石を分断されてしまいました。黒は攻め取りを狙いましたが、一手寄せ劫でした。しかし黒は白4子をウッテガエシで取る手を打ち、これに白が受けると手が詰まって本劫になるという局面になりました。実は上辺の白は黒に攻められて両劫で活きていました。これは黒からすれば無限大の回数の劫立てが利くことになります。このため白は下辺を本劫にすることは出来ず、黒が白4子を先手で取って、なおかつさらに締め付けが利くことになり、ここで黒がはっきり優勢になりました。結局、黒の中押し勝ちでした。