(以下は2007年11月6日に書いたものの再掲です。)
小林信彦氏の最新刊です。私にとって新刊が出ると買いたくなる、今ではほぼ唯一の作家です。
内容は、和菓子屋であった小林家の、小林信彦氏の祖父の代からの盛衰と、その和菓子屋があった日本橋という土地の明治から大震災、戦争を経て戦後へ、という街自体の盛衰をからめて描いた作品です。
小林氏の自伝的作品には、他にも「和菓子屋の息子―ある自伝的試み」や「東京少年」などがありますし、自伝ではありませんが、太平洋戦争の時代を描いた「僕たちの好きな戦争」もありますが、そうした作品との重複は最小限に抑えられています。特に、腕のいい和菓子職人で同時に商売の「やり手」だった小林氏の祖父についての詳しい話は、今回が初めてで、その祖父-小林氏の父-小林氏の三代の歴史を、どろどろとした部分を匂わせつつも深入りせずに、ある意味淡々と描写していきます。小林氏自身が、実はその祖父に似たところが多く、生まれた時にまさにその祖父から「和菓子屋の相をしている」と言われたエピソードはちょっと笑えます。確かに小林氏の映画や小説、喜劇人の評論の「職人気質」な部分は、そのおじいさん譲りなのでしょう。
小林氏は、実は私の実父と同じ年の生まれです。ですが、実の父のことより、今では小林氏の経歴についての方がずっと詳しいのは何だか不思議な気持ちです。ですが、小林氏の作品を通じて、父の生きた時代を追体験してきた、とも言えます。
もう一つのテーマの、日本橋という土地の盛衰については、地方生まれの人間としては、東京に何年いてももっともなじみの薄い土地が日本橋周辺です。1990年代初頭に、ある韓国の財閥企業が日本支社を秋葉原から日本橋浜町に移しましたが、その関係で何度か通ったことがあるくらいです。小林氏も書いているように、その浜町あたりは、戦後緑地確保のため「浜町公園」が大きな面積を占めており、昔の面影を偲ぶことは困難です。
小林信彦の「日本橋バビロン」
1