獅子文六の「コーヒーと恋愛」

獅子文六の「コーヒーと恋愛」を読了。元々、「可否道」(かひどう)というタイトルで、1962年から1963年の読売新聞に連載されたものです。タイトルにもあるように、「コーヒー」が重要な役割を負っていて、主人公の坂井モエ子は、43歳のTV女優で、美人ではないけど脇役をやらせるとピカイチという、今で言えば市原悦子みたいな感じです。モエ子はこの時代としては珍しく、本格的なコーヒーを自分で入れており、コーヒーを入れる名手です。そんな関係で「可否会」(かひかい)というコーヒーマニアが集まる会の会員にもなっています。一緒に暮らしていた、8歳年下で新劇の劇団で装置担当だけどほとんどヒモみたいな勉ちゃんが、16歳年下のアンナという女優の元に行ってしまいます。一人になったモエ子に色んなドタバタが、というまあいかにも獅子文六という作品です。ただ、もう70歳を超えてからの作品で、ちょっと展開がもたもたするような所もあります。ただ、ちょっと面白かったのは初期のTV局の舞台裏が書かれていることで、この辺りは小林信彦の小説でおなじみの世界です。また、今はあまりインスタントコーヒーを飲む人も少なくなりましたが、この時代はインスタントコーヒーが10種類くらいも発売されていたのだとか。(そういえば三木鶏郎のCDに、森永インスタントコーヒーのCMソングが入っていました。これが、Dance in the kitchen, kiss in the kitchen という感じでとても洒落た名曲なんですが。森永は1960年に日本で初めてのインスタントコーヒーを売り出しています。輸入物のネスカフェはもっと早く1953年から日本に入っています。)
また、ちょっと嬉しかったのは、私は「おちゃをいれる」は「お茶を入れる」という表記が一番いいと過去に書いています。
獅子文六もこの小説の中で、「コーヒー」は「入れる」だと断言してくれています。