土師清二の「砂絵呪縛」(すなえしばり)(下)を読了。この作品を読んだきっかけは、あるWebサイトでこの作品を、白井喬二、国枝史郎と並ぶ伝奇小説の名作として紹介してあったのからなのですが、読み終わった後は、特に伝奇小説という要素は少なかったように思います。それよりも目立つのは、森尾重四郎という脇役に過ぎないのに、何故か非常に目立つキャラクターです。その性格は飄々としていて、何事も投げやりなその場任せな人物ですが、物語の冒頭では、墓を暴いて金の簪を盗んできた墓守職人を理由もなく切って捨てています。そしてそれを目撃した鳥羽勘蔵に誘われるままに柳影組に参加しますが、その仲間をあっさり裏切ります。また露路という純粋無垢な美女を盗み出して一緒に暮らしても、手を付けることはしません。実はこの作品は映画化される時に実に四社の競作となったそうですが、三社が主人公を小説の設定通り勝浦孫之丞にしたのに対し、阪妻プロだけが主人公をこの森尾重四郎にして、大当たりを取ったということです。阪東妻三郎の慧眼ぶりが光ります。この重四郎は、明らかに中里介山の大菩薩峠の机龍之助の系譜を引くニヒルで退嬰的な剣士ですが、この性格が当時のインテリの姿と重なって受けたようです。
土師清二の「砂絵呪縛」(下)
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