中里介山の「大菩薩峠」第16巻を読了。この巻でようやくというか少し話が進展しだします。まず、甲州の有野村でお銀の父親の元で世話になっている与八は、地蔵菩薩を掘り子供たちに教えという生活からやがて木食上人の生まれ変わりとして地元の人に敬われるようになります。
一方で、仏頂寺弥助と丸山勇仙の二人は、旅の途中で自分達の人生に何の意味があるのかを迷い始め、何と二人とも自殺してしまいます。人生の意味というより、この二人の登場人物に何の意味があったのかを読者が迷うことになります。
そして、長い間曖昧にされてきたお雪ちゃんの妊娠疑惑がこの巻ではようやく追及されていきます。まずはお銀様が、お雪ちゃんが自分の子供を堕胎してそれを後家のおばさんの墓の横に埋めてきたのだろうと決めつけお雪ちゃんを問い詰めます。一方で偶然病気になったお雪ちゃんを介抱した道庵が、お雪ちゃんに「性教育」を施す積もりで子供を産む上での注意点のようなものを話ますが、お雪ちゃんは異常な興味を見せ、逆に道庵に堕胎は悪かどうか、また堕胎の具体的なやり方についての質問を浴びせます。そしてお雪ちゃんが道庵に妊娠したことがあるのかどうかを問われ、青ざめる、という所でこの巻は終わっています。
途中、作者の述懐で、この小説がもう執筆開始から30年も経っていることが述べられます。ブラームスは第1交響曲を構想から完成させるまで21年かけましたが、それを上回る恐るべき気の長さです。30年かけて話がここまでしか進んでいないというのも逆の意味ですごいと思います。
中里介山の「大菩薩峠」第16巻
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