サテンのMCカートリッジ

昔京都にサテン音響という会社があり、学生の頃そこのM-21というMCカートリッジを使っていました。この会社はもうありませんし、創業社長ももうお亡くなりになっています。しかしこのカートリッジは今でも忘れられない素晴らしい音のカートリッジでした。そもそもMC型のカートリッジを世界で最初に作ったのがデンマークのオルトフォンで、最初の製品はSPUというものでした。(今、そのレプリカを使っています。)この時にオルトフォンが採用した構造は、今でもMCカートリッジのおそらく8割くらいで採用されています、というか真似をしています。ところが、このサテン音響はオルトフォンのMC型に真っ正面から挑戦し、その欠点である所を全て解決した製品を出していました。オルトフォンのSPUの欠点とは、
(1)出力電圧が低く、昇圧トランスやヘッドアンプを必要としSN比が悪い。
(2)カンチレバーの後ろに十字型の枠があり、それにコイルを巻く構造です。このためMM型のような簡単な針交換が出来ませんでした。
(3)コイルを巻くのに鉄芯を使っていましたが、それは磁性体歪を発生させます。
上記3つ以外に、筐体が柔いというのも欠点でしたが、それは省略します。
サテンのMCカートリッジは、
(1)独自のリボン型巻線を採用し、出力電圧をMM型並みにした。
(2)針先の近くに、パンタグラフ状の金属バネを付け、針の振動はこのパンタグラフ状の金属を経由してコイルに伝えられました。針先とパンタグラフは接着されていないため、簡単に針交換が出来ました。しかもスタイラスユニットと本体の固定は、本体の中に磁気回路として入っている磁石でくっつけていました。
(3)コイルは歪の発生しない空芯コイルを採用していました。
といった構造で、オルトフォン型の欠点を全て解決した独自の構造を持っていました。
また(2)の構造はカンチレバーの共振とか、歪、群遅延特性といった問題をある程度解決しており、ビクターのMC-1、MC-L10、MC-L1000といったダイレクトカップル方式に先んじていました。現在こういう構造のMCはオーディオテクニカのAT-ART1000だけです。

以上のように素晴らしい製品でしたが、使いこなしは結構難しく、ビリツキが出るのをなかなか解決出来なくて苦労しました。針圧も0.01g単位で調整してください、みたいなことが書いてあって、本当は専用のアームを使わないと真価を発揮しなかったのかもしれません。