白井喬二の「神変呉越草紙、柘榴一角」

jpeg000 204jpeg001 10白井喬二の「神変呉越草紙、柘榴一角」を読了。
「神変呉越草紙」は、白井喬二の初めての長編小説です。前に紹介した「怪建築十二段返し」などの短編小説が今一つだったのに対し、この「神変呉越草紙」は実に面白い傑作です。お話は、蝦蟇毛仙人から、それを手にする者は最高の栄耀栄華を得ることが出来るというお宝の話を聞いた若者が、それを求めて秩父の山中を駆け巡ります。お宝の手がかりの地図は二つに分かれていて、若者が持っているのは片方だけです。このお宝の手がかりの地図を巡っての争奪戦がハラハラドキドキです。色々あって、若者はついにお宝を手にするのですが、そこからの展開がまたちょっと意表を突きます。
「柘榴一角(ざくろいっかく)」は幕府の隠密であった父親の仕事を継いだ柘榴一角が大活躍する話です。この一角の性格が「富士に立つ影」の熊木公太郎と同じで真っ正直で明朗闊達です。公太郎もそれなりの剣の達人でしたが、一角は23歳にして武道の大名人で、「100人までなら任せておけ」、「1000人までなら大丈夫」とどんどん強さがエスカレートしていきます。とにかくこの強さがとても魅力的です。最後は父親が探り続けて来た贋金作りの陰謀を見事暴いて大団円です。
なお、この書籍の表紙絵を描いているのは山藤章二、そしてカラーの挿絵を描いているのは、あの小島剛夕(「子連れ狼」、「ケイの凄春」、「乾いて候」の)です。

小林信彦の「<超>読書法」

jpeg000 202小林信彦の「<超>読書法」を読了。「本は寝ころんで」に続けて、1993年から1996年に週刊文春での書評連載に一部書き下ろしを追加したもの。
この頃(1990年代半ば)から、小林信彦のエッセイには政治的な発言が多くなります。私は小林信彦のファンですが、政治的な発言については一切信用していません。
この本でも、村山富市政権を褒めたり、青島幸男都知事を激賞したりしています。それから、この本では小沢一郎を非難していますが、いつの頃からか逆に賞賛したりしています。

池井戸潤の「花咲舞が黙ってない」

読売新聞に連載中の、池井戸潤の「花咲舞が黙ってない」が全然面白くありません。池井戸潤の作品の魅力は読んでいてのカタルシスだと思うのですが(池井戸潤の作品は出版されているものは全部読んでいます)、今回の連載では銀行の様々な不祥事が出てくるのに対し、花咲舞は平行員としてそうした不祥事の問題点を指摘するだけで、結局組織の論理に押しつぶされてしまう、という展開がほとんで、まったくカタルシスがありません。
一方で、何故か半沢直樹が突然登場し、実に格好いいセリフを吐いて目立つのですが、対照的に花咲舞はまったく目立ちません。
元々、花咲舞が出てくるのは「不祥事」という小説ですが、私はこの作品もあまり評価していません。池井戸潤の描写する女性というのが男性から見たある種の類型に近いもので、掘り下げが浅いからです。

白井喬二の「怪建築十二段返し」

jpeg000 201白井喬二の「怪建築十二段返し」を読了。
白井喬二の初期の短編4作、「江戸天舞教の怪殿」「全土買占の陰謀」「白雷太郎の館」「怪建築十二段返し」を集めたものです。
「怪建築十二段返し」はデビュー作です。いずれの作品も、伝奇的要素は満点で怪しげでかつまことしやかな話に興味をそそられるのですが、話の展開の仕方、まとめ方が今一つで、今まで読んだ「富士に立つ影」「新撰組」「盤嶽の一生」に比べると劣ります。
表題作の「怪建築十二段返し」もタイトル見ると、どんな怪建築かわくわくするのですが、実際に出てくる内容は期待外れです。
「全土買占の陰謀」には「富士に立つ影」にも出てきた黒船と船大工が出てきます。4つの作品どれにも怪しげな建築物が出てくるところが共通点です。

小林信彦の「東京少年」

jpeg000 198小林信彦の「東京少年」を再読了。2005年の作品で、雑誌「波」に連載されたものです。
小林信彦自身の2つの疎開の体験、埼玉への集団疎開と新潟への縁故疎開の体験を描いた自伝的作品です。
前半の集団疎開の時の体験を元にした作品としては、既に1966年の「冬の神話」があります。ただ違うのが、「冬の神話」が完全なフィクションとして作られているのに対し、「東京少年」は自伝的小説として書かれています。また「冬の神話」で不評であったあまりにも暗い、辛い体験の描写は今回はかなり抑えられたものになっています。
後半の新潟での「縁故疎開」の描写は、これまでも断片的に語られることはありますが、まとまって語られたのは今回が初めてと思います。新潟での縁故疎開は、家族が一緒であったこと、食料が比較的豊富であったことから、集団疎開のような陰惨な体験はしなくて済みますが、その代わり今度は戦争が終わった後、如何に東京に帰るかということが焦点になります。