小林信彦の「怪物がめざめる夜」を再読了。1993年の書き下ろし作品です。小林信彦の第二期を飾る傑作と思います。Wikipediaの小林信彦の項に、「特に1993年の『怪物がめざめる夜』は、主人公である悪役の設定が凡庸であるとの批判があった。」とありますが、この批判は的外れもいいところで、このような誰が言ったかもわからないような批判をそのまま載せるのはどうかと思います。
作品の中で、複数のコラムニストによって一人の守備範囲が異常に広い架空のコラムニストをでっちあげるのは、小林信彦自身が、ヒッチコックマガジンの編集長だった時に既に考えていたことだそうです。しかしながら、当時は原稿が手書きだったため、筆跡でばれてしまうので実行に至らなかったということです。
この作品ではそのでっちあげられた架空のコラムニストが有名になり、実際の人間をその架空のコラムニストに充てざるを得なくなり、あるコメディアンを使うのですが、そのコメディアンがとんでもない怪物に育っていく過程が描かれた、一種のホラー小説になっています。そのコメディアンは毒舌という意味では初期のビートたけし、カリスマ性という意味では尾崎豊を思い起こさせます。
このコメディアンが怪物に育っていくのは、深夜ラジオというメディアを通じてですが、そのコメディアンがファンを扇動して、ファンが暴挙に及ぶ様は、現在ではインターネット上での炎上につながっています。そういう意味では、かなり時代を先取りした作品だと思います。
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