NHK杯戦囲碁 小林覚9段 対 六浦雄太7段

本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が小林覚9段、白番が六浦雄太7段の対戦です。六浦7段は名人戦リーグに19歳の若さで入り、今後の活躍が期待出来ます。布石は黒が小目で二隅、白が星二隅というもので、どちらかというと黒の実利、白の勢力という対照になりました。黒が左辺を詰め、白が左上隅を受けた後、黒は上辺を中国流風に開きました。ここで白が右上隅の小目の黒の左側にいきなり付けて行ったのがAI流で、最近の流行です。黒は下に延びて受けましたが、白は下がり(画面の向きでは上に延び)、黒が押さえた時に白が隅をはね、黒は隅を受けずに曲がりました。白は左側に一間に飛び黒が更に延びた時、白は上辺真ん中の黒の右側に付けました。この手で出切りを先手で防ぎ、隅に延び込んでこの一団を安定させました。このワカレは若干黒が甘いかなと思いました。その後黒は右辺から右下隅に掛かり、白が一間に低く挟んで右辺で争いが始まりました。しかし激しい戦いにはならず、黒は右辺を渡って地を確保しながらつながり、白は中央に勢力を得ました。今後の焦点はこの中央の白が厚みとして働くか、あるいは黒に攻められる対象になるか、ということでした。そして黒はいきなりこの中央の白の断点を覗いて攻めに行きましたが、結果的にはこれが性急過ぎたように思います。白は当然継がずに下半分から左方へ一間に飛びました。黒も覗いた石を飲み込まれては意味がないですから逃げ出しましたが、一連の折衝で白の下辺の地がまとまって来ました。この辺り白は黒の攻めに反発せず固く受けていましたが下辺がまとまれば勝ちと判断していたようです。逆に黒は中央で目一杯に打っており、あちこち隙がありました。しかし中央を補強していては負けと判断し、右下隅は通常三々に入る所を白の一間トビを下から覗いて大きく地をえぐりました。こうなると白は中央の黒の薄さを咎めていかざるを得なくなり、まず急所に置いて行きました。その後の折衝の途中で左辺の黒にもたれましたが黒は受けていられず、白は左辺で地を増やし、なおかつ左下隅の黒に置きを敢行し、更に黒地をえぐりました。一連の折衝が終わった後、大ヨセで白が先手でしたが、六浦7段は最初に覗かれていた断点を継ぎました。これはヨセとしては0目の手でしたが、黒からは先手で左辺と中央の白の連絡を絶つ手があり、この断点を切られると色々と黒からヨリツキの手が生じるので結果としては正着だったと思います。しかし黒に大ヨセの先手が回った結果、形勢としてはかなり細かくなり、それでも白の勝ちであることを時間が無い中で読み切った六浦7段の冷静な形勢判断が光りました。最後は黒が投げ場を求めるような感じで無理な手を打ち、黒の数子が取られて黒の投了となりました。

NHK杯戦囲碁 鈴木伸二7段 対 孫喆7段

本日のNHK杯戦の囲碁は、第67期の一回戦第一局です。黒番が鈴木伸二7段、白番が孫喆(そん・まこと)7段の対戦です。鈴木7段は先期準々決勝まで行きました。孫7段は初出場です。布石はオーソドックスで大きな波乱もなく進行しました。局面が動いたのは、黒が下辺に打ち込み、左下隅のスソアキの弱点を突いていったのに白が手堅く受けて、黒が右下隅の白に肩を突いていってからです。白は肩付きに這わずに黒の間を割く形で反発し、ここから競い合いが始まりました。途中で白が左辺の黒に付けて行き、こちらでも競り合いが起きました。黒が下辺から踊り出したのに白は手を抜いて左辺で好形を得ました。この結果下辺の黒は強化されましたが、白は左辺で黒模様を侵略して黒2子を取り込んで若干の地を確保したのと、左上隅で2子を捨てて上辺で締め付けの形を作ることが出来ました。これに対し黒は左辺の損を取り戻そうと、右下隅で半分取られていた黒2子を継いで、この石を動き出しました。白はこれによって2つに分断されましたが、下辺の方は黒1子を取り込んで先手1眼有りほぼ活きなのと、右辺の白も問題なく治まりました。黒は何とか下辺から伸びる石に連絡しようとしましたが劫形になり結局中央のいい所を白に切られてしまいました。また白が右辺の黒と中央の黒の断点を覗いたのに対し黒が反発して結局中央の黒が切り離されました。この結果は黒が苦戦で、結局一団の黒石が眼2つで活きなければならなくなり、かなり何手も利かしを打たれ、これによって左辺から中央での白地が大きくなり、これで白が優勢になりました。黒は活きるために手を入れる前に白の上辺の構えに手を付けていってここの白地を減らすことに成功しましたが、結局後手で手を入れる必要があり、白に盤上で一番大きな下辺に回られました。実は下辺から中央の黒もまだはっきり活きておらず、白にノゾキから攻められました。黒は2回目のノゾキに反発しましたが、結局中央と下辺の2個所の5子が見合いになり、中央の方を取られてしまいました。これで黒の投了となりました。

NHK杯戦囲碁 第66期決勝戦 井山裕太5冠王 対 一力遼8段

本日のNHK杯戦囲碁はいよいよ第66期の決勝戦で、黒番が井山裕太5冠王、白番が一力遼8段の対戦です。井山5冠王は勝てばNHK杯戦3連覇、一力8段は勝てば3度目の決勝進出で3度目の正直ということになります。一力8段はまだ21歳ですが、この2人は既に7大タイトル戦で5度戦っています。しかし一力8段にとっては井山5冠王は厚い壁であり、7大タイトル戦挑戦手合いでは3勝16敗という結果に終わっています。特に2017年から2018年にかけて、王座戦・天元戦・棋聖戦と3連続の挑戦という大きなチャンスがありましたが、1勝も出来ず10連敗に終わりました。この結果はかなり一力8段にとってはショックだったと思いますが、しかし立ち直りは早く、第25期 阿含・桐山杯 全日本早碁オープン戦の2回戦で井山5冠王と当たり1勝しました。また2018年の王座戦でもタイトル奪取にはなりませんでしたが、2勝3敗となり後一歩まで迫りました。そういう二人による決勝戦でしたが、常に局面を動かす手を打ったのは一力8段であり、特に上辺に開いた白に黒が迫った時、それに受けずに逆に黒の開きの中に打ち込む、という積極策を採りました。黒はケイマに飛んで上辺右側の白にプレッシャーをかけましたが、それにも受けず左上隅の小目の黒につけてさばきに行きました。黒がはねた時、さばきでは切るのが普通の手ですが、一力8段はハネ返しました。こうした白の斬新な打ち方に井山5冠王は対応に苦慮し消費時間を先に使うことになりました。左上隅の折衝で、実利は白が取り、黒は左辺の白に付けて上辺を拡大しようとしましたが、ここで白が黒の根元をずばっと切ったのが、解説の趙治勲名誉名人もおそらくまた井山5冠王も予想していなかった強手かつ好手であり、ここから局面がもつれましたが、結果として黒は上辺に大きな地を築くことが出来ず、また切られて左辺に取り残された黒が弱くなりました。更には本来打ち込まれて攻められそうだった上辺右の白について手を入れずに補強した形になり、白の切りはこの対局のハイライトといっても良い手でした。その後黒が上辺右で取られかけていた2子を逃げ出し、ねじりあいが始まりました。結局黒と白の大石のどちらにも眼がなく、最初は攻め合いかと思われましたが、内ダメがかなり空いていて結局セキになり双方生き生きになりました。白は今度は左辺に残された黒を再度中央と切断して攻めに回りました。もしこの黒が取られてしまうと、セキだった筈の所がセキ崩れになって、中の黒が全部取られてしまいます。結果的に黒はうまく白3子を取ってつながりしのぎましたが、ねじりあいが一段落した結果としては白地が多く、白の優勢となりました。大ヨセで井山5冠王が右下隅を打ったのが意図が不明で、次に白が打った下辺の方が大きかったように思いますが、真意は分かりません。ざっと見た感じでは盤面でもかなり白が優勢という状況になり、井山5冠王の投了となり、一力遼8段が3度目の決勝戦で初めてのNHK杯を獲得しました。優勝インタビューでは、今回勝ったことだけに満足せず、TV囲碁アジア選手権に向けて頑張りたいとのコメントがあり、非常に頼もしく感じました。またこの2人のタイトル戦での戦いはこれからがむしろ本番になるのではないかと思いますが、一力8段が井山5冠王を下して初の7大タイトルを奪取する日も遠くないと思いました。

NHK杯戦囲碁 井山裕太5冠王 対 伊田篤史8段

本日のNHK杯戦の囲碁は、準決勝の第2局で、黒番が井山裕太5冠王、白番が伊田篤史8段の対戦です。序盤は伊田8段が色々と積極的に仕掛けていき、もし井山5冠王が最強に受ければ激しい戦いになるというのが数回ありましたが、何故かいつもなら常に最強の手を打つ井山5冠王が、手堅く受けていました。おそらく伊田8段の長所を封じるような打ち方を試みたのかもしれません。局面が動いたのは右下隅から右辺にかけての攻防で、黒が白の星に両ガカリし、白が右辺の黒にツケノビてというよくある展開になりました。黒は下辺も頑張ったので白は右辺に打ち込み、ここで激しい指し手争いになりました。右辺で攻め合いかとも思われましたが、黒は2子を捨てずに頑張り、白が眼を持って活き、黒も右下隅に連絡しました。また黒は白の2子を取り込んだので、両方を頑張った形になり、悪くはありませんでした。しかし先手は白に回ったのでまだまだ先の長い碁でしたが、勝敗を分けたのは双方が打った利かしの石の活用の仕方で、伊田8段が下辺の黒に打った利かしが聞いてもらえずあまり働かなかったのに対し、井山5冠王が左下隅の白に内側から両ノゾキした石と、上辺の白に対して利かした石は最後までよく働きました。左下隅は出切りの味でいろいろと利きがあり、結局手を入れざるを得ませんでした。また上辺の利かしは右上隅から上辺にサルスベリした時、白は最後の継ぎを省略出来ませんでしたし、何より白に取り込まれていたと思われた1子に結局生還する手が生じ、白の上辺の地が減り、黒が勝勢になりました。結局黒の中押し勝ちでした。来週はいよいよ決勝戦で、一力遼8段は3度目の決勝進出で3度目の正直での初優勝を狙いますし、井山5冠王は3連覇がかかります。

NHK杯戦囲碁 一力遼8段 対 許家元碁聖

本日のNHK杯戦の囲碁(時間変更で15:30から)は、一力遼8段と許家元碁聖の準決勝第一局。この二人は同じ21歳同士のライバルですが、対戦成績は一力8段から見て6勝1敗と片寄っています。許碁聖は碁聖戦で3連勝でタイトル奪取と、井山裕太5冠王に対し強みを見せました。一力8段は逆に井山5冠王に何度も挑戦していますが、まだ結果に結びついていません。ということは今時点ではこの三者はいわゆる三すくみの状態にあることになります。もっともこのところの井山裕太5冠王は、タイトル戦の対局過多で疲れが出ているだけで本調子ではないのかもしれませんが。
それで一力8段と許碁聖の対局ですが、序盤からかなり激しいねじりあいの碁になりました。全体を通じて許碁聖があまり普通ではない鋭い感じの手を出し、それに対し一力8段がまったく読み負けていないで、むしろその手をとがめるような感じの打ち回しを見せたということです。特に右辺のねじり合いで、許碁聖が切りが2箇所ある黒の外壁に対しハサミツケた時に、一力8段が直接その手を相手にせず、右辺の白を取り切った手がまさしくそんな感じでした。この右辺の戦いは、中央の所で大きな劫になりましたが、許8段が上辺の黒を取り込む手を劫立てにしましたが、一力遼8段が受けずに劫を解消し、結果的に右辺の黒は大きな地になり、その大きさも50目くらいありました。白は上辺の黒を取り込んだのと中央にかなりの厚みがあり、上辺からの白模様をどう拡げてまとめるかが勝負でした。白はまず左辺の黒の二間開きに圧力をかけましたが、黒は受けの途中で手を抜いて、中央で白模様の中に残された黒二子を動き出しました。黒はドンドン押していって中央に一直線の黒石が出来ました。しかし、この黒は左辺とはつながることは出来ず、どこかの白の包囲網を破るか中で活きるかということになりました。白はしかし中央下方の石がはっきり活きていないという弱点があり、そこを巡ってあちこちで石が切り結び、闇試合的な様相になってきました。左辺下方の白、左下隅の黒と白、中央と切り離された下辺の白、中央下方の白という感じで石が入り乱れましたが、結局下辺の黒は眼をもって活き、それと同じく中央下方の白もほぼ活きました。また左辺下方の白も結局眼をもって活きました。問題は左下隅で、白から見て一手寄せ劫で黒に余裕がありました。白はその後中央の黒に襲いかかりましたが、左辺で後手一眼あり、また中央で色々な効きを見て先手一眼を確保し、活きることが出来ました。この間に白も上辺の地をまとめたので、後は左下隅が勝負になりました。白はダメを詰めてこの隅を本劫にしました。白にとって悔やまれるは黒に対するダメの詰め方が一手間違っていたため、それで劫立てが一つ減ってしまいました。その劫立て一つの違いが大きく、結局劫は黒が勝ちました。途中どちらかがつぶれてもおかしくないような激戦でしたが結局作り碁になり、黒の7目半勝ちになりました。一力8段はNHK杯戦で三度目の決勝進出です。これまで2回は苦杯をなめており、今度こその思いは強いと思われます。相手は来週の井山裕太5冠王と伊田篤史8段の勝者です。

NHK杯戦囲碁 許家元碁聖 対 鈴木伸二7段

本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が許家元碁聖、白番が鈴木伸二7段の一戦で、準々決勝最後の対戦です。許家元碁聖の活躍は今さら言うまでもありませんが、鈴木伸二7段は経歴を見るとかなり苦労されてきたようで、たとえば入段の時も2回失敗し3度目にようやく許されています。しかし最近の活躍は素晴らしく、昨年は名人戦リーグに入り一流棋士の仲間入りをしました。しかも現時点でのタイトル保持者の3人に対してすべて勝ち越しているとのことで、これは全棋士中鈴木7段だけではないかと思います。布石は黒が2連星、白が両方小目でした。黒が左上隅に左辺からかかった時、黒はかけて、白はそれに対し出切りを敢行しました。これに対して黒は切られた一子は軽く見て、左辺を重視しました。その後局面が動いたのは右下隅の攻防で白が両ガカリし、黒がツケノビてという攻防で白が右下隅をはねた時黒が受けずに下辺を先着しました。勢い白は右下隅を当てて実利を得ましたが黒が下辺に開き、左下隅の白が薄くなりました。黒は左下隅からの白のケイマの間を分断することを狙っていましたが、白はコスんで受けて、黒は愚形になりますがすぐに出切りを敢行しました。これが厳しく、白はその後をうまく打って左辺と下辺に分断されたのを両方しのぎましたが、左辺の白は完全に治まった訳ではなく、何かと黒の狙いが残る碁になりました。大ヨセに入る前の形勢では地合は若干白がいいかなという感じでしたが、黒は厚みを活かして各所の白に寄り付き、特に上辺の白に対して策動し、何手も手を入れさせて得をしました。こうした寄り付きを積み重ねて、結局最終局面では盤面10目くらい黒がリードということで、白は投了しました。準決勝は今日勝った許家元碁聖と一力遼8段、井山裕太5冠王とい伊田篤史8段の組み合わせになりました。

NHK杯戦囲碁 張栩名人 対 伊田篤史8段

本日のNHK杯戦の囲碁は黒番が張栩名人、白番が伊田篤史8段という、興味深い組み合わせです。二人はまだ4局くらいしか対戦していないようですが、これから増えていくと思います。布石は4隅全部星という比較的最近では珍しい立ち上がりでした。一時例のAI流のダイレクト三々入りの流行で星を打つ棋士が減ったように思いましたが、最近では研究も進み、特に星打ちが問題ないことが再認識されたのではないかと思います。左下隅でも左上隅でも黒がカカリから付けていって同形の定石になりました。左下隅は双方が治まりましたが、左上隅はいきなり劫になりました。黒は劫立てで右下隅の三々に入っていた白に効かしに行きましたが、白は受けずに劫を解消しました。この結果右下隅の白は半死状態になりました。その後白が右上隅に両ガカリし、黒は右辺の白にツケノビて、白は右辺に展開しました。白の一子が上辺に残っており、白はこの石からコスんでツケノビた黒の出切りを強調しました。これに対して黒は右辺の白にハサミツケて、それから上辺の白にカケを打って包囲しました。白はカケた黒にツケコシを打ちそれから中央を出て行って最終的に出切りを敢行しました。ここの折衝は結局大きな劫になり、結局白は劫立てで右下隅を連打し、黒の下辺の模様を制限しました。その代償で黒は右上隅から上辺を地にし、さらに右上隅から延びる白の一団への攻めを見ました。この黒の白への攻めに対して、白が取られている石を活用しながら黒の急所にツケを2手連続で放ち、黒が反発した結果、また大きな劫になりました。白には中央に劫立てがあり、結局黒が謝った形になり、黒が上辺を取り切り、白は攻められていた一団が黒一子をポン抜き更に中央に利きも多くなり、これにより一団が安定したのと同時に左辺の地模様が大きくなり、ここで白が優勢になりました。さらにその後、白は右辺から黒の狭間を付いて下辺へ進出し、ここの黒地を大きく削減しました。これで白の勝勢になりました。その後左下隅のヨセで黒が若干得をしましたがその代償で白が中央の黒数子を取り込んで左辺が大きくまとまり、結局白の中押し勝ちになりました。

NHK杯戦囲碁 井山裕太5冠王 対 羽根直樹9段

本日のNHK杯戦の囲碁は、準々決勝第3局で、黒番が井山裕太5冠王、白番が羽根直樹9段の興味深い一戦です。布石で先週に続いて左下隅でまたもツケノビ定石が出てきて、本当にプロの間で流行しているんだなと思いました。囲碁の定石を覚える時、ほとんどの人がこの定石を最初に覚えますが、昔(1980年~2000年頃)はプロ棋士では特殊な局面を除いて打つ人はほとんどいなかったと思います。極論を言えば「置き碁定石」みたいな言われ方さえされていました。要するにプロははっきり形を決めないで、後の展開で色々な打ち方をする可能性(含み)を残すのが好まれていました。それに対してAIは形勢の判定が難しいぼんやりした手は評価が低く、部分的に簡明な別れをより高く評価する傾向があり、それにプロが影響を受けているということだと思います。(余談ですが、全盛期の小林光一名誉棋聖はそういう決め打ち的な簡明な打ち方を多用し、現在のAIの打ち方にある意味似ていました。)解説の村川大介8段によると羽根9段はそういう風潮に流されず従来と同じ打ち方にこだわっているとのことですが、自分は打たなくても相手は打ってくる訳で、そういう打ち方への対応は必要です。話が反れましたが、局面は井山6冠王が左辺の模様を大きくしたのと、また黒が右下隅の白の小ゲイマジマリに付けていった石があり、この二つが焦点でした。羽根9段は左辺の模様が完成する前に深く打ち込んで行きました。黒が鉄柱で応えたのに大ゲイマで軽く中央に進出しましたが、黒はその間を切断に来ました。羽根9段はここでシチョウアタリをにらんで右上隅の星の黒に付けて行きました。結果として黒は左辺に手を入れシチョウを解消して左辺を確定地とし、その代償として白は右上隅で黒を隅に閉じ込め、右辺を地模様にしました。その後は右下隅で白の小ゲイマジマリに付けていった黒と、左下隅から下辺に展開している白との競り合いになりました。黒が下辺で左側にコスんで左下隅の白に利かそうとしましたが、白は下辺の黒に打ち込んでいき、右下隅とつながって黒の根拠を奪いました。両方の石が中央に出て行くもつれた展開になりましたが、圧迫された白が黒に対して切断の強手を放ち、中央の黒を切り離して白のパンチが決まったかと思いました。しかし黒はうまく右辺に潜り込んで白の一等地でコミ以上の地を持って治まりました。これに対して白は黒の数子を取って中央に若干の地を作りましたが、左辺の黒地を減らせた訳ではなく、ここではっきり黒が優勢になりました。結局黒の中押し勝ちでした。やはり井山5冠王の戦いの中で見せる鋭さは第1級のものだと思います。

NHK杯戦囲碁 一力遼8段 対 余正麒8段

本日のNHK杯戦の囲碁は、本日より準々決勝で黒番が一力遼8段、白番が余正麒8段の対戦です。二人共に7大タイトルの挑戦経験があり、同じく二人共に井山裕太5冠王の壁に阻まれていますが、近い将来どちらも7大タイトルを取るのはまず間違いないと思います。右下隅で、黒の一間締まりに白がいきなり横付けしました。最近では珍しくない打ち方のようです。結果として黒の厚み、白の実利になりましたが、将来の劫が残りました。左下隅で黒が下辺から掛かったのに、白はある意味置き碁定石とも言われていたツケノビ定石を選択しました。この定石は自分も固まるけど相手も固めるので妙味がないとされ、プロで打つ人は少なかったのですが、今はAIの影響でむしろ簡明でマギレが少ない打ち方として採用されるようになっています。黒は隅への伸び込みではなくコスミを選択しました。定石完了後、黒は下辺から押していって下辺の拡大を図りましたが、白はハネてそれに対し黒は切ってここから戦いが始まりました。黒は左辺に根を下ろし、左下隅の白に対する狙いを残しました。ここでのその後の折衝の結果、黒は白2子を取ってはっきり活き、代償に白は左上隅を固め更に中央に厚みを築きました。この結果は互角か黒に不満がない、というものでした。黒はその後白の中央の厚みの断点を覗いて行きました。白は当然継がずに反発し、黒も覗いた石を担ぎ出して、ここでまた戦いになりました。黒は覗いた石の一団を上辺の黒に連絡し、白に断点を継がせれば互角でしたが、敢えて切りを決行しました。当然白は中央と上辺の連絡を遮ってきましたが、そこの折衝の結果、大きな劫が発生しました。白は左辺で取られていた白2子を生還させる手を劫材にしましたが、黒は構わず劫を解消しました。この結果、黒は上辺の白を取り込んで大きな黒地を得ました。代償で白は左辺の黒を取り込み左辺を大きな白地にしました。しかしこの収支は黒が得しており、ここではっきり黒が優勢になりました。左辺もまだ攻め取りになる可能性が残っています。白はその後右上隅を侵略し、更にそれに絡めて上辺での策動を狙いましたが、結果として手はありませんでした。その後右下隅で劫が始まり、白はそこで活きましたが、黒が左下隅で隅に寄りついたことで左辺に置きからの手が生じました。最初劫かと思いましたが、結局取られていた黒石が活きる手が出来、ここで白の投了となりました。

NHK杯戦囲碁 結城聡9段 対 井山裕太5冠王

本日のNHK杯戦の囲碁は黒番が結城聡9段、白番が井山裕太5冠王の対戦です。上辺で右上隅にかかった白を黒が挟み、白がそれを更に挟み返し、更に左上隅にかかっていた黒もあって早くも競い合いが始まりました。結果として白は右上隅に実利を若干確保しましたが、黒は右辺方面に厚みを築きました。先手の白は右下隅にかかって右辺に展開し黒の厚みの効果を削減しました。その後黒が左上隅で両ガカリし、ここでまた競い合いが始まりました。その過程で白が左辺の黒の急所に覗いていったのが面白い手で、結果的に黒は覗いた白を取り込み、外側に切った白石をシチョウに抱えました。部分的には白が損していますが、シチョウアタリからシチョウの逃げ出しが大きな狙いとなり、実際に後で実現しました。白は右下隅から下辺にかけて策動し、その後シチョウの逃げ出しを決行しました。この逃げ出した白が単体で活きるという選択肢もありましたが井山5冠王は敢えて攻め合いにしてこの白を取らせ、代償として締め付け、黒の勢力圏だった下辺で左下隅とつながる地を持ち、かつ黒数子を取りこむという大きな戦果を挙げ、白が優勢になりました。その後黒が右辺で寄りついて白2子を切り離して戦果を挙げましたが、白もその替わり中央の地を稼ぎ逆転には至りませんでした。ヨセで最後に黒が乱れたのもあって、結局白の4目半勝ちでした。井山6冠王の戦略のうまさが光った一局でした。