白井喬二の「翡翠侍」を読了。1936年から37年にかけて、講談社の雑誌「富士」に連載されたものです。
足羽千之助(お嬢千之助)は三貫四百日(12.75Kg)のイボ付きの鉄棒を軽々と振り回す剛力で武芸に優れた男ですが、この上ない口下手で、ほとんど片言しか口にしません。元々千之助の祖父が弁舌が得意だったのが、却ってそれが殿様の勘気に触れ、お家は取りつぶしになります。そのために千之助はなるべく口をきかないように育てられました。
それに対し、宇治徳五郎は、町人ですが、きわめて弁舌さわやかで、大抵のことは言い負けません。その代わり腕の方はさっぱりです。
この二人が組むと、互いの弱点を補い合って無敵になります。そして二人で邪教である串曳教(くしびききょう)の虚偽を暴こうと立ち向かっていく話です。千之助の一族は、この串曳教によって、亡びると予言され、串曳教はその予言を真実にするために、秘かに千之助の一族を毒殺しています。ただ一人残ったのが千之助ですが、串曳教はそれも邪魔者視して秘かに殺そうとします。この陰謀にひっかかって、千之助は一度は殺されたかと思われます。ですが、実は千之助は生きていて、遺書で秘かに徳五郎にそれを伝えます。千之助が蘇って徳五郎の前に姿を現すシーンが感動ものです。
この二人の活躍に元家老の娘由加利がからんで、二人のうちどちらを婿にするのかというので、話を最後まで引っ張ります。
弁舌に優れた者と、武芸に優れた者の組み合わせというのは、「金色奉行」の白猫・黒猫と呼ばれる浪人のペアでも出てきましたが、この「翡翠侍」はその対照ぶりが徹底されています。
最後は、見事二人が邪教を成敗して、カタルシスがあります。ともかく白井喬二のキャラクター設定の見事さと、ストーリーテリングの巧さが光る作品です。
白井喬二の「翡翠侍」
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