白井喬二の「翡翠侍」

jpeg000 215白井喬二の「翡翠侍」を読了。1936年から37年にかけて、講談社の雑誌「富士」に連載されたものです。
足羽千之助(お嬢千之助)は三貫四百日(12.75Kg)のイボ付きの鉄棒を軽々と振り回す剛力で武芸に優れた男ですが、この上ない口下手で、ほとんど片言しか口にしません。元々千之助の祖父が弁舌が得意だったのが、却ってそれが殿様の勘気に触れ、お家は取りつぶしになります。そのために千之助はなるべく口をきかないように育てられました。
それに対し、宇治徳五郎は、町人ですが、きわめて弁舌さわやかで、大抵のことは言い負けません。その代わり腕の方はさっぱりです。
この二人が組むと、互いの弱点を補い合って無敵になります。そして二人で邪教である串曳教(くしびききょう)の虚偽を暴こうと立ち向かっていく話です。千之助の一族は、この串曳教によって、亡びると予言され、串曳教はその予言を真実にするために、秘かに千之助の一族を毒殺しています。ただ一人残ったのが千之助ですが、串曳教はそれも邪魔者視して秘かに殺そうとします。この陰謀にひっかかって、千之助は一度は殺されたかと思われます。ですが、実は千之助は生きていて、遺書で秘かに徳五郎にそれを伝えます。千之助が蘇って徳五郎の前に姿を現すシーンが感動ものです。
この二人の活躍に元家老の娘由加利がからんで、二人のうちどちらを婿にするのかというので、話を最後まで引っ張ります。
弁舌に優れた者と、武芸に優れた者の組み合わせというのは、「金色奉行」の白猫・黒猫と呼ばれる浪人のペアでも出てきましたが、この「翡翠侍」はその対照ぶりが徹底されています。
最後は、見事二人が邪教を成敗して、カタルシスがあります。ともかく白井喬二のキャラクター設定の見事さと、ストーリーテリングの巧さが光る作品です。

柳家小さんの「青菜、不動坊、禁酒番屋」

jpeg000 200今日の落語は五代目柳家小さんの「青菜、不動坊、禁酒番屋」です。
「青菜」は、植木屋があるお屋敷でお酒をご馳走になって、つまみに青菜を出そうかと主人がいったら、その奥さんが「鞍馬から牛若丸が出でまして、名も九郎判官(くろうほうがん)。」と答え、それに対し主人が「ああ、義経にしておこう。」と返します。そのやりとりがなんなのかを聞いたら、「青菜は食べてしまってない」(九郎→くらう)、「それなら良し」(義経→良し)という意味でした。そのやりとりにすっかり感心した植木屋は、家に帰って知り合い相手にそっくり真似をしようとします。ところが植木屋の奥さんが、肝心のセリフを「鞍馬から牛若丸が出でまして、名も九郎判官義経」と「義経」の所まで言ってしまったので、植木屋は「弁慶にしておけ」と答えるサゲです。
「不動坊」は、死んでしまった講釈師の不動坊の未亡人が、利吉と再婚しようとするのを、利吉の友人達が不動坊の幽霊に化けて結婚を邪魔しようとする噺です。脅かしている筈が、利吉からお金をもらって幽霊があっさり引き下がろうとする所が面白いです。
「禁酒番屋」は、ある殿様が突然お酒を飲むことを禁止したけど、こっそり酒を飲むものは絶えず、出入りだった酒屋が番屋のチェックをくぐり抜けて何とか酒を配達しようとする噺です。カステラだと称してチェックをする抜けようとしますがばれて、酒を「水カステラ」だと言い逃れをするのが楽しいです。