国枝史郎の「蔦葛木曽桟」(下)を読了。未完なのかと思ったら、かなり強引ながら一応決着が付けられていました。これは雑誌「講談雑誌」に連載された時は、未完で終わってしまったのを、作品が平凡社の現代大衆文学全集(例の白井喬二が企画に関わって、第一巻が「新撰組」だったあの全集です)に入る時に、最後の四章分が削除されて、新たに結末が書き加えられたということです。しかし、この結末はかなり取って付けたもので、父の敵を取ろうとしている鳰鳥は百々地三太夫に幻術の奥義を習ってそれを身につけるのですが、折角身につけたその技術は敵討ちにはまったく使われることなく、敵は別の人間が討ってしまいます。また、本筋とはまったく関係ない、麗人族と獣人族の対立の話がまるで階級闘争のようにどんどん膨らんでいきます。この作品が事実上の国枝のデビュー作みたいですが、デビュー作から国枝の長篇の構成力の欠如が如実に現れています。この文庫本には雑誌連載の時の最終回も付属していて読み比べできます。
国枝史郎の「蔦葛木曽桟」(下)
返信