山中貞雄の「人情紙風船」

山中貞雄の「人情紙風船」を視聴。実はこの作品、Amazonの履歴を見ると以前も買っているのですが、ディスクは探しても見つからず、また視聴した記憶もないので、再度買い直したものです。
山中貞雄は白井喬二の「盤嶽の一生」を映画化しています。自作の映画について、白井はそのほとんどを嫌っていましたが、唯一の例外が山中の「盤嶽の一生」です。晩年になって「大衆文学百首」という短歌集を出した時の中に、「戦死せし山中貞雄をしのぶかな 盤嶽の一生 あの巧さ 良心 映画のふるさと」というのがあります。「盤嶽の一生」の中に、主人公の阿地川盤嶽が鉄砲で撃たれて足に怪我をし、他人から医者を世話をしてもらったのですが、その礼金を持ち合わせないため、夜中に西瓜畑の番をすることになります。そこに西瓜泥棒がやってくるのですが、山中の映画では、このシーンを西瓜をボールの代わりにしたラグビーのシーンで描いているそうです。(残念ながらフィルムは失われ現在観ることができません。)
結局、現在も残っている山中のフィルムは、この「人情紙風船」を含めてわずか3本だけです。山中貞雄は「人情紙風船」を撮った後招集されて中国大陸に渡り、28歳の若さでそこで病死します。
そういう経緯があってこの作品を観たのですが、私にはとても怖いホラー作品でした。海野という浪人の奥さんがとても怖く、こういう普段は従順だけど、突然無茶なことをする人って実際にいますよね。正直な所、これが山中貞雄の遺作というのは可哀想な気がします。明るい王道を行く時代劇を撮って欲しかったです。