白井喬二の「柳沢双情記」を読了。徳島県立図書館から取り寄せたのはいいのですが、何故か「禁帯出」扱い(それにしては誰も借りた形跡がない)で、神奈川県立図書館の中で読まないといけなかったのですが、全448ページでかつ2段組という大作で、結局一回では終わらず二回神奈川県立図書館に行かないといけませんでした。
タイトルに「柳沢」が出てくる通り、「柳沢保明(吉保)」とその配下である矢守田鏡圓とその弟の矢守田富次郎が悪役で、松平右京太夫(松平輝貞)とその配下である權堂倭文馬、さらにその部下である大木諄之介が、側用人同士で権力争いをして戦う話です。主人公は、その松平右京太夫の落とし胤で、大木諄之介の妹の小夜の子である大木十太郎です。小夜は綱吉の側女として献上される話があったのを、矢守田鏡圓が辻斬りで殺します。残された十太郎を叔父である大木諄之介が秘かに育てています。十太郎は世間知らずですが、剣の腕は道場で師範代にも負けないレベルになります。この作品は他の多くの白井作品を彷彿させる作品で、貴人の血を引く者が敵討ちを行うという設定は「伊賀之介飄々剣」ですし、世間知らずの若者が親の敵を相手に大活躍するというのは「坊ちゃん羅五郎」です。矢守田鏡圓と權堂倭文馬は、綱吉から命ぜられた儒教の聖堂(今の湯島聖堂)の建設地の調査を巡って争いますが、權堂倭文馬は相手の卑怯な罠にかかって、表に出られなくなり、切腹を決意しますが、一ヵ月の猶予期間の間に十太郎が矢守田鏡圓の旧悪を暴けば助かるということで、十太郎が活躍します。この十太郎がかつて大木諄之介がだまし取られた馬と家禄を取り戻すために、源八というならず者とその助っ人である榊原鐵山と戦い勝ちますが、その過程で榊原鐵山の二人の娘の内、妹の美佐保が十太郎に恋します。この美佐保は柳沢保明の屋敷に奉公に上がり、十太郎の敵討ちの証拠探しに協力します。
まあ全体のストーリーは予定調和的というかすぐ予測できるようなもので、新鮮さはあまりありませんが、白井の戦後の作品らしさが随所に見られます。
ところで、柳沢吉保って本当に色んな大衆時代小説で悪者扱いになっていますが、実際は結構善政を行い、武の時代から文の時代に幕府を導いた人で、決して悪人ではないと思いますが、例の赤穂浪士事件で浅野内匠頭に切腹を命じたのが柳沢保明ということになっていて、嫌われているようです。
白井喬二の「柳沢双情記」
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