丸山眞男の「戦前における日本のヴェーバー研究」

丸山眞男の「戦前における日本のヴェーバー研究」を読了。1964年はマックス・ヴェーバー生誕100年の記念の年で、東京大学でそれにちなんだヴェーバーに関するシンポジウムが実施されましたが、その時の講演の記録です。まず冒頭で、丸山は「私はヴェーバ-学者ではない」と断ります。ヴェーバーから非常な学恩を被っているけれども、ヴェーバーに関係した論文は一本も書いていないと言っています。丸山はヴェーバーは最初は日本では大正時代に経済学・経済史の学者として受容され、その中世商事会社の研究などが評価されたとのことです。その後、日本のアジア進出と合わせて、ヴェーバーの「儒教と道教」などの東洋に関する理論を評価したり、また東洋優位的な発想で批判したりするものが現れたということです。戦時の動きとして興味深いのは、ヤスパースのヴェーバー論の影響で、昭和17年に安井郁という人が何と「求道者ヴェーバー」という論文を書いているということです。昭和17年といえば吉川英治の「宮本武蔵」の人気がピークだった頃であり、まさに求道者として描かれた武蔵が人気を博する一方で、学問の世界でも特定の学者を求道者に祭り上げるという動きがあったということは非常に興味深いです。思うに大衆小説や漫画といった大衆文化というものは、その時代の精神(die Zeitgeist)を自然と反映するということなのかもしれません。