高森日佐志の「弔花を編む 歿後三十年、梶原一騎の周辺」を読了。筆者は梶原一騎の実弟です。「ワル」の原作者の真樹日佐夫が梶原の実弟ということは知っていましたが、その下にさらに弟さんがいたことは知りませんでした。その三男の日佐志が実父高森龍夫や梶原一騎などについて思い出を書いたものです。
まず梶原作品にイエス・キリストが登場する理由が分かりました。実父の高森龍夫は若い頃神学校で牧師を目指したほどのクリスチャンでした。しかし、周囲にはそれを隠し、葬儀の時にそれが明らかになって回りの者が驚いた、となっています。梶原一騎自身がクリスチャンだったとはどこにも書いてありませんが、一騎自身の葬式も最初仏式でやるかどうかもめて、結局父親と同じキリスト教式の葬儀になったそうです。
梶原の作品では、巨人の星の星一徹、柔道一直線の車周作のように、実力を持ちながら世に受け入れられない人物がかなりの迫真性をもって登場しますが、それは実父の龍夫の人生がそういうものだったからのようです。
また、梶原の自伝的漫画「男の星座」は、梶原が「巨人の星」で有名になる前に梶原の死により終わっていますが、この本ではその始まりの様子が書かれていました。講談社は漫画に吉川英治の「宮本武蔵」のような人間ドラマを持ち込もうとしていたとのことで、私は梶原作品に大衆文学のストーリーテリングの影響を感じるのはやはり間違っていなかったと思います。
またこれは遺族サイドからの証言なので割り引いて考えるべきでしょうが、梶原の晩年の裁判沙汰は、ショーケン(萩原健一)が覚醒剤で逮捕され、その黒幕が梶原一騎だと警察が思い込んで、無理矢理に案件を作り出して起訴した、とされています。元々梶原一騎自身は中学生の頃から掻っ払いや万引きを繰り返していて(梶原の中学生時代は戦後の混乱期で、大人も皆闇取引をやっていたり、風紀の乱れていた時代でした)、ずっと道徳家を装っていてそれが世間にばれたということではなく、以前も書きましたが、梶原自身は常に善と悪との間で揺れ動いていて悩み苦しんでいたのだと思います。最初の奥さんであった篤子さんも、梶原をそういう「複雑な人間」と描写しています。
高森日佐志の「弔花を編む 歿後三十年、梶原一騎の周辺」
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