本日のNHK杯戦の囲碁は、準々決勝第3局で、黒番が井山裕太5冠王、白番が羽根直樹9段の興味深い一戦です。布石で先週に続いて左下隅でまたもツケノビ定石が出てきて、本当にプロの間で流行しているんだなと思いました。囲碁の定石を覚える時、ほとんどの人がこの定石を最初に覚えますが、昔(1980年~2000年頃)はプロ棋士では特殊な局面を除いて打つ人はほとんどいなかったと思います。極論を言えば「置き碁定石」みたいな言われ方さえされていました。要するにプロははっきり形を決めないで、後の展開で色々な打ち方をする可能性(含み)を残すのが好まれていました。それに対してAIは形勢の判定が難しいぼんやりした手は評価が低く、部分的に簡明な別れをより高く評価する傾向があり、それにプロが影響を受けているということだと思います。(余談ですが、全盛期の小林光一名誉棋聖はそういう決め打ち的な簡明な打ち方を多用し、現在のAIの打ち方にある意味似ていました。)解説の村川大介8段によると羽根9段はそういう風潮に流されず従来と同じ打ち方にこだわっているとのことですが、自分は打たなくても相手は打ってくる訳で、そういう打ち方への対応は必要です。話が反れましたが、局面は井山6冠王が左辺の模様を大きくしたのと、また黒が右下隅の白の小ゲイマジマリに付けていった石があり、この二つが焦点でした。羽根9段は左辺の模様が完成する前に深く打ち込んで行きました。黒が鉄柱で応えたのに大ゲイマで軽く中央に進出しましたが、黒はその間を切断に来ました。羽根9段はここでシチョウアタリをにらんで右上隅の星の黒に付けて行きました。結果として黒は左辺に手を入れシチョウを解消して左辺を確定地とし、その代償として白は右上隅で黒を隅に閉じ込め、右辺を地模様にしました。その後は右下隅で白の小ゲイマジマリに付けていった黒と、左下隅から下辺に展開している白との競り合いになりました。黒が下辺で左側にコスんで左下隅の白に利かそうとしましたが、白は下辺の黒に打ち込んでいき、右下隅とつながって黒の根拠を奪いました。両方の石が中央に出て行くもつれた展開になりましたが、圧迫された白が黒に対して切断の強手を放ち、中央の黒を切り離して白のパンチが決まったかと思いました。しかし黒はうまく右辺に潜り込んで白の一等地でコミ以上の地を持って治まりました。これに対して白は黒の数子を取って中央に若干の地を作りましたが、左辺の黒地を減らせた訳ではなく、ここではっきり黒が優勢になりました。結局黒の中押し勝ちでした。やはり井山5冠王の戦いの中で見せる鋭さは第1級のものだと思います。
NHK杯戦囲碁 井山裕太5冠王 対 羽根直樹9段
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