新春最初のNHK杯戦は黒番が余正麒7段、白番が高尾紳路9段の対戦です。この二人の対戦成績は余7段から見て8勝1敗とトップ棋士同士としては信じられない程偏っています。また、余7段は各棋戦で勝ちまくっていて7大タイトルにも2回挑戦していますが、まだ井山裕太7冠王には手が届かない感じです。布石は黒が右上隅で二間高ジマリ、そして左上隅の白の星に対しいきなり三々入りと、AIの打ち方を模倣した最近流行の布石です。黒は左下隅でもかかった後三々に入り両方で実利を稼ぐ展開でした。局面が動いたのは、白が下辺に開いた黒に打ち込んでからで、白は右下隅と下辺で活きましたが、黒も左下隅を封鎖している白に切りを入れ、こちらも下辺を荒らし、五分五分のワカレでした。その後中央での競り合いがあった後、白は右上隅に手を付けました。ここの折衝は劫になり、劫は黒が勝ちましたが、白は代償に左上隅を取り切りました。この結果は白が地を稼ぎ、黒の容易でない形勢になりました。ここで余7段は右辺を開いている白に横付けを敢行しました。付けてハネて継いだ黒3子は取られてしまいましたが、黒はこの3子を捨て石にして右上隅の白2子を先手で切り離して締め付けることが出来、これで黒が逆転しました。その後白は左下隅で劫を仕掛けるなどして粘りましたが、わずかに及ばず、黒の2目半勝ちになりました。白は右辺の対応が悔やまれます。正しく打っていたらわずかに白が優勢だったのではないでしょうか。
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NHKの囲碁の「新春お好み対局」
NHKの「新春お好み対局」を視聴。(1月3日放送)
内容は、
1. 「プロ VS. アマ ルーレット碁対局」
吉原由香里6段 対 きたろう(俳優)
2. 「脳内プロ・アマ混合ペア碁対局(13路盤)」
小山空也3段 対 大西竜平3段
3. 「プロ・アマ・AI囲碁混合ペア碁対局」
林漢傑 七段、AI(DeepZenGo)開発者:加藤英樹
戸島花(タレント) 対 山田彩(タレント)
の3種類の対局。
1.は途中でルーレットを回して、勝てば白黒逆に出来るというもの。結果は、一度ルーレットで逆にしてもらったものの、きたろうが吉原由香里6段に2回も負けたというものでした。
2.は13路のペア碁ですが、プロは目隠し対局というもの。将棋での目隠しはプロならある程度可能だと思いますが、囲碁の場合は13路でも無理ということが証明されてしまいました。小山3段はそれでもかなり正確に打っていましたが、大西3段が何度も間違えて、穴を出られて突き抜かれたり、アタリを継がなかったりで、碁になっていませんでした。
3.は19路のペア碁で、プロアマとAIとアマという組み合わせです。DeepZenGoにとっては、1回毎にアマの手で読みをリセットされてしまい、また30秒しか無いというのは不利かと思いましたが(私は天頂の囲碁7と対局する時は、天頂の囲碁7側を60秒の設定にしています)、結果は戸島花とDeepZenGoのペアの勝ち。戸島花ちゃんは囲碁講座のアシスタント終了時に初段の認定を受けましたが、その時はオマケ的な初段だと思っていましたが、今日の打ち方を見たら手所で実に正確に打っていて、初段は伊達じゃないなと思いました。
NHK杯戦囲碁 趙善津9段 対 志田達哉7段
本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が趙善津9段、白番が志田達哉7段の対戦です。志田7段は私が一番注目している棋士です。布石は白が左上隅と左下隅で地を稼ぎ、その代わり左辺の白がやや薄く、この白に対してどのくらい攻めが利くかがこの碁の焦点でした。志田7段は左辺の薄みは放置し、右辺の黒の構えに深く打ち込みました。ここでの黒の打ち方がやや疑問で、壁石の穴を継がずに、下がって白への攻めを伺いましたが、白は右上隅へすべってあっさり治まってしまいました。黒は代償で厚みを得たので、すぐ左辺の白に厳しい攻めを決行すれば、まだ先の長い碁だったと思いますが、ここで黒は右下隅で地だけの手を打ちました。これに対し白は左辺でノゾキに放置していた所を継いで黒のワタリを促し、そして中央に一手備えて左辺の白を補強しました。黒はそれから攻めに行ったのですが、ちょっとチグハグでした。左辺の白は上辺の白に連絡しようとしましたが、その結果劫になりました。白は右辺から中央で継ぎを打ちましたが、黒はそれに受けずに劫を解消しました。白は黒石にカケを打ち、結果として包囲していた黒が取られ、白が活きただけでなく、元々黒の勢力圏だった所に白地が20目ぐらい出来ました。取られた黒は一応攻め取りで黒は締め付けを利かせて右下隅をまとめましたが、白の得た利益の方がはるかに大きく、白の勝勢になりました。その後ヨセが続きましたが、結局黒が投了しました。志田7段はこれで準々決勝進出です。
NHK杯戦囲碁 今村俊也9段 対 黄翊祖8段
本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が今村俊也9段、白番が黄翊祖8段の対戦です。今村9段は棋風通り厚く打ち進め、ポイントは右辺で白がかけて来たときに、這って受けずに逆にケイマに踏み込んで白の切断を狙いました。結果的に黒も白もお互いに相手の石を取る振り替わりみたいになりましたが、黒は右上隅からの石を安定させられたのが大きく、白はまだ治まっていませんでした。黒は右辺にもう一手かけて取られていた石を助け白の全体を狙いました。白は右下隅の黒の二間ジマリに潜り込んで隅の地を取り、更にその外側の黒を攻めることで白の右辺の石のしのぎのたしにしようとしました。この黒と白の弱い石の絡み合いは下辺左の白にも波及してきました。そのあたりの折衝で白におそらく見落としがあり、右下隅からの黒と左辺の黒が上手くケイマで渡って連絡し、逆に白は中央の石を切り離されて取られてしまいました。これで形勢は黒が盛り返しました。しかし白も確定地が多く、勝敗はまだ分かりませんでした。黒は左上隅の三々に打ち込み、白地を荒らしに行きました。単独ではなかなか活きない所を上手く左辺の白にからめて行きました。ここで黒の好手、白の再度の見落としが出て、左上隅は白地となりましたが、左辺の10子くらいを切断され取り込まれてしまい、ここに30目ぐらいの黒地が出来ました。これで黒がはっきりリードし、その後数手打ち進めて白の投了となりました。今村9段の手厚い打ち方と、それによる攻めの余得の稼ぎ方のうまさが光った1局でした。
天頂の囲碁7との九路盤定先での対局、初勝利。
NHK杯戦囲碁 瀬戸大樹8段 対 結城聡9段
本日のNHK杯戦の囲碁は黒番が瀬戸大樹8段、白番が結城聡9段の対戦です。二人のこれまでの対戦成績は結城9段から見て何と16勝0敗だそうです。一流のプロ同士でここまで偏るのは珍しいと思います。布石は瀬戸8段の3手目の三々が珍しいです。最近星に打つと、AIの真似でいきなり三々に入る手が流行っており、三々がまた打たれるようになって来ているそうです。この碁の中盤での焦点は黒が右下隅の白に一間に高くかかり、白が一間に受けたのに黒が覗いていったことです。部分的には黒が相当損な手でしたが、黒の狙いは右上隅から延びた白の大石がケイマしている所をツケコシて、白を分断することでした。黒はこの狙いを決行しましたが、白から上手くかわす手を打たれ、中央で白1子を取って若干の地が出来ましたが、それより右下隅の損の方が大きく白が優勢でした。黒はそれでも更に白の一団に食いついていきましたが、ここでも白はアタリの1子を逃げずにポン抜かせて打ち、その代償に下辺で黒1子を先手で取って大石の活きを確保しました。これで白が勝勢になりましたが、黒が上辺で白に付けていったのが勝負手で、白は内側から押さえて受けておけば多少地が損でもそれで勝ちだったと思いますが、結城9段はそこは既に読んでいるという感じでノータイムで外から押さえました。黒は白地の中で二眼作って活きることはできませんでしたが、結局攻め合いで一手寄せ劫になりました。一手寄せ劫といっても劫材は黒の方が多く、また非常に大きな劫で白からはどこにもそれだけの大きさの劫材は無く、ここで白の投了となりました。結城9段はちょっと油断して好局を落としました。瀬戸8段は対結城9段からの初勝利です。瀬戸8段は2回戦でも河野臨9段といううるさ型を破っており、今期のダークホースになりつつあります。
依田紀基9段の「どん底名人」
依田紀基9段の「どん底名人」を読了。本人の一生を振り返って「遺書」の積もりで書いたものだそうです。依田9段というと、若い頃から知っていて、故藤沢秀行名誉棋聖を慕って集まっていた若手の一人で、よくその碁が秀行さんの講座なんかの題材に取り上げられていました。当時から碁の才能は素晴らしく、将来タイトルを取るのは間違いないだろうと思っていましたが、現時点で35のタイトルを取っており、予感は外れませんでした。でもまだ棋聖のタイトルは取っていませんし、いつまでも井山裕太7冠王にタイトルを独占させておかないで、依田さんみたいな今やベテランが奮起して欲しいものです。師匠の秀行さんは60代で王座のタイトルを取り、しかもそれを防衛したのですから。その秀行さんが「俺は50代になってから碁が強くなった」と仰っていたとあり、偉大なる秀行さんと同列に論じるのはおこがましいですが、私も50代になってから棋力がかなり向上したので嬉しかったです。
依田さんのこれまでは、バカラという博打にのめり込んで借金作ったり、最近多い優等生型ではない、昔からの「棋士」という感じがして、私はむしろ好感が持てました。碁打ちは碁さえ強ければそれでいいと思います。
稲葉禄子の「囲碁と悪女」
稲葉禄子(いなば・よしこ)の「囲碁と悪女」を読了。依田紀基9段の自伝である「どん底名人」を買おうとしたら、Amazonが一緒に買いませんかとお勧めで出して来て、表紙と題名に負けて(笑)ついポチってしまったものです。
筆者は私は知らなかったのですが、囲碁界では有名人みたいで、以前NHKの囲碁講座のアシスタントとかNHK杯戦の司会をやっていたようです。また、懐かしい白江治彦8段の義理の娘さんでもあります。筆者は日本棋院の院生になったけれど、プロ棋士には成れず、囲碁のインストラクターをやっていて、その仕事を通じて色々な人と交流した記録です。囲碁関係の本ですが、棋譜とかはまったく出てこないので、囲碁を知らない人でも楽しく読めるというか、囲碁をむしろ知らない人にお勧めかも。故与謝野馨さんと小沢一郎氏の対局の話と、最後の「ソウタとオシカナ」のお話がお勧め。故与謝野さんはカメラマニアでもあってPentaxの645Dを持っていましたし、私と趣味が近いなと思いました。「ソウタとオシカナ」は、筋肉の癌という不治の病で命を落とす天才数学者とその病気を知っていて結婚した女性棋士の話です。
NHK杯戦の囲碁 一力遼8段 対 本木克弥8段
本日のNHK杯戦の囲碁は黒番が一力遼8段、白番が本木克弥8段の好カード。二人とも既に井山裕太7冠王への挑戦経験があります。まだどちらも結果は出せていませんが、どちらかがタイトルを取る日は遠くないでしょう。布石で黒が右下隅の白の星に対し、カカリではなくいきなり三々に入るのがAIの打ち方を真似た最近の流行です。黒の狙いは隅の地を取るだけではなくて、将来的に外側の白を攻めようということですが、その狙いが白もわかっているので、この打ち方はまだ結論が出ていないと思います。一段の折衝の結果、左上隅をからめたシチョウアタリの攻防もあり、結果として黒はシチョウに抱えられた石を動き出し、隅に若干の地を持ち、白は右辺を這って活き、黒はかなりの厚みを築きました。白はその後左下隅に付けていき、下辺に展開しました。先手を取った黒はシチョウアタリで途中まで打っていた左上隅に手を入れ、左辺の白への攻めを伺いました。白は左辺の白を下辺の白に連絡しようとしましたが、黒はそれを強硬に遮断しにいきました。結局白は左辺で活きることになりましたが、その代償で中央で黒を切断した2子を取られ、この一連の折衝は黒に軍配が上がったと思います。しかし本木8段はアマシ作戦に切り替え、地合で先行しました。ここで黒の一力8段には中央の模様を囲うか、下辺の白に手を付けるかの選択肢がありましたが、一力8段は下辺の白に手を付ける方を選択しました。この判断は微妙でもしかすると囲っていた方が良かったかもしれません。というのは黒は下辺を割り、右下隅の白を追い立てることに成功しましたが、白はその逃げる手が自然に黒模様を消しているので、あまり腹も立たない所でした。勝敗はヨセに持ち込まれましたが、黒は形勢が悪いと見たのか、右下隅で活きる手があるのをそのために損をするのを拒否し、劫にしました。この劫は当初一手寄せ劫でしたが、白がダメを詰めたので、本劫になりました。結局白が劫に勝ち、黒は代償として右上隅と下辺で得をしました。この結果はほとんど互角だったようで白がわずかにリードというのは変わりませんでした。さいごは半劫争いになりましたが、結局白は半劫を譲って半目勝ちでした。本木8段の冷静な打ち回しが光った一局でした。
洪清泉の「碁が強い人はどのように上達してきたか?」
洪清泉の「碁が強い人はどのように上達してきたか?」を読了。正直な所、がっかりした本でした。確かに洪道場からは一力遼、芝野虎丸、藤沢里菜といった今をときめくプロ棋士が多数出ていますが、この本に書いてあるような内容が特別なものとは思えません。日本では「ヒカルの碁」で囲碁の底辺が広がり、たくさんの子供が棋士を目指し、そういう才能を持った棋士の卵が集まる環境として洪道場がたまたまあった、ということだと思います。強い子供同士で切磋琢磨させれば、各人の棋力は自然に伸びています。かつて同じようにプロ棋士を輩出した道場に「木谷道場」がありますが、「木谷道場での訓練の仕方」のような本は見たことがありません。木谷道場も才能のある若手を集めてお互いに切磋琢磨させたことが一番大きいと思います。
個人的には、これからはこの本に書いてあるような従来型の強くなり方とは違って、最初からコンピューターをフル活用して強くなった棋士が登場すると思います。そっちの方にずっと興味があります。詰碁が重要とか棋譜並べがどうの、とかというのはもう聞き飽きています。私個人の体験からいっても、本当の意味で囲碁の力が上がったのはコンピューターと数多く対局しだしてからです。