イヴァン・ジャブロンカの「歴史は現代文学である 社会科学のためのマニフェスト」を読みました。丁度歴史学と社会科学の関係を考えていた所に、タイムリーに読売新聞の書籍欄で紹介されていて購入したもの。筆者は1973年生まれでパリ第13大学の教授。タイトルが示す通り、この筆者は歴史の記述と文学を、元はある意味一体化していたものが、19世紀から20世紀初頭の科学主義によって切り離されてしまったものを再び元に戻すことを提唱しています。そして単にそういう方法論を提案するだけでなく、その実践編として「私にはいなかった祖父母の歴史」という本を書き、歴史学の世界と文学の世界の両方から高い評価を得ているそうです。この筆者が主張するように、確かに歴史の記述は元は文学とは切り離されないものでした。我々がトロイア戦争に言及する場合には、ホメロスの「イーリアス」に準拠するしかありませんが、「イーリアス」は叙事詩であり、まさしく文学そのものです。また、例えば日本の第2次世界大戦の歴史について知ろうとする場合、歴史の教科書の単なる年代順の事実の羅列では、その時代をきちんと理解することはほとんど不可能です。その時代の日本の軍隊の中が一体どのような雰囲気であったのか、歴史の本に記述されているケースは非常に少ないと思いますが、野間宏の「真空地帯」や大西巨人の「神聖喜劇」のような優れた小説は、どんな歴史書よりも日本の軍隊の内実というものを読者に理解させてくれます。また、バルザックの「人間喜劇」は、登場人物の類型化によって、19世紀のフランス社会をどんな歴史書よりも的確に記述してくれます。以前書いたように、私は社会学における「理念型」が、その起源は文学における「フラット・キャラクター」(類型化されていて、いつも読者が期待するような行動を取る人物。E.M.フォースターの命名による)なのではないかと思うようになりました。
イヴァン・ジャブロンカの「歴史は現代文学である 社会科学のためのマニフェスト」
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