塩野七生の「ローマ人の物語 悪名高き皇帝たち」の[三]と[四]

塩野七生の「ローマ人の物語 悪名高き皇帝たち」の[三]と[四]を読了。この二巻で取上げられている皇帝はクラウディウスとネロです。やはりこの二巻でも塩野七生は単純に「悪帝」「暴帝」とはせず、それぞれの良い所はきちんと認めようとします。特にクラウディウスは「悪帝」の一人として一まとめにされるのが可哀想なくらいで、体格にはまったく恵まれない貧相で貧弱な肉体の持ち主の学者(歴史家)皇帝でしたが、やるべきことはきちんとやり、ガリア人達の元老院議員を認めた演説は「寛容」の精神の頂点を示すものとして、今でも名演説とされています。ただ晩年に解放奴隷を側近に使ったのが元老院議員に恨まれたとか、配偶者には恵まれず最後は悪妻アグリッピーナに毒殺されてしまいます。
そのアグリッピーナの息子がネロで、言うまでもなく古代ローマで悪帝というのはまずはネロのこととされます。しかしそれもキリスト教徒を最初に弾圧した皇帝ということから、キリスト教徒から「反キリスト」として毛嫌いされたという面が大きいようです。実際にローマに大火が起きた時の対応は、現代の日本の政治家が見習うべきであるように迅速に被災者のテント村を作ったり、食料である小麦の価格を引き下げたりと精力的に活躍しています。しかしその大火が結局ネロが私邸を作るために放火させたのだという噂が立ち、その噂を消すためにキリスト教徒を放火犯に仕立てて殺害したということのようです。ただネロの最大の過ちは、軍団が自分にクーデターを起そうとしているという猜疑心に囚われ、ローマの有能で功績も非常に大きい軍団長3人を処刑したことでしょう。この結果、ローマの軍団の支持が離れ、最後は反乱を起され自死を強制されます。
結局、ティベリウス-カリグラ-クラウディウス-ネロとまとめて悪帝とされていますが、注目すべきはローマの国家そのものはこの間多少の危機はあったともびくともしなかったということであり、帝政(元首政)を取る限り、カエサルやアウグストゥスのレベルの人が続くはずがない、ということだと思います。