etracerによる各種PCL86の測定


etracerを買った最大の目的である、色んなブランドのを入手したPCL86の特性値を測定してみました。PCL86は3極管とビーム管の複合管であり、測定はそれぞれ別に行ないました。etracerは12AX7のような双三極管については、1度に両方の特性が取れますが、さすがに種類が違うと一緒には測定出来ないようです。
EIのはPCL86シングル超三結アンプキットに最初から付いて来たもので、販売元でチェックしたペア品です。なので3極管特性は良く揃っています。しかしビーム管部はそうでもないです。この辺り、ペア管の選定にはどこを重視すべきなのかがまだ良く分かっていません。Mazdaの2本がかなりバラバラですが、この2本はeBayで別々の売り手から買ったものなので仕方ないかと。Lorenzの4本(内2本がITT、後の2本がSELブランド)はマッチ品として売られていたものですが、特性を見る限りまったくマッチ品ではないです。これとは別にAmazonで買ったKT77のクワッドを測って見ましたが、こちらはきちんと揃っていました。また、EDICRONのはエレキットのサイトで補修品(同社のPCL86シングルアンプ用)として売られているものですが、確かにペアとして売られているものではないにせよバラツキがかなり大きいです。なお、今私が実際に超三結アンプに使っているのはITT Lorenzのです。なお、特性が揃っているからといって実際に聞いてみて音がいい訳ではありません。むしろばらついていても、聞いてみるとまったく問題を感じないことの方が多いです。なお、etracerでPCL86を測定する時のcfgファイルを付けておきます。(3極部用と5極部用)もしかすると間違いがあるかもしれませんが、少なくとも測定結果はほぼレファレンス値に近い結果が出ています。

PCL86-etracer-cfg.zip

なお、参考までにPCL86のピン配列を私なりに分かりやすく書いておきます。

① 三極管のグリッド
② 三極管のカソード(陰極)
③ 五極管(実際にはビーム管)の第2グリッド
④ ヒーター1(三極管、五極管共通)
⑤ ヒーター2(三極管、五極管共通)
⑥ 五極管(ビーム管)のプレート(陽極)
⑦ 五極管のカソード(陰極)、ビーム形成電極、三極管と五極管の間のシールドの全てに接続(下のPhilipsのデータシートにある図だと、五極管みたいな書き方がしてありますが、実際には一番上のグリッドはカソードにつながっていて、他の2つのグリッドを取り囲んでビーム効果を出します。下右の五極管{ビーム管}のみの図解を参照。)
⑧ 五極管のグリッド1
⑨ 三極管のプレート(陽極)

なお、いわゆる三極管接続にする時は、③の第2グリッドと⑥のプレートをショートさせます。

真空管測定器:etracer

ジャーン!真空管測定器をゲット!台湾製のetracerというものです。一般に真空管測定器と言うと、1940~1960年頃の中古でちゃんと動くかどうかも分からないものをオークション等で買うぐらいだったのが、これは完全な新品で、2018年ぐらいから発売されているものです。しかもこれは単に各パラメーターを測定するだけでなく、いわゆるプレート特性図まで作ってくれる優れものです。私に使いこなせるか不安でしたが、やってみたら簡単でした。各真空管の設定ファイルを読み込み、それに従ってジャンパー線で配線を行ない、ソフトのRUNボタンをクリックするだけです。設定ファイルにない真空管のはデータさえあれば自分で作ることが出来ます。これでオークション等で入手したビンテージ真空管の特性をチェックして、ペアを選定したりとかが簡単に出来ます。グラフは手持ちのGolden DragonのKT88のものです。

次の真空管アンプキット:サンバレー SV-P1616D(部品大幅改)

2月に、音の工房のPCL86シングル超三結アンプキットで、プリント配線板ベースの真空管アンプキットの作成に成功、また部品のほぼ総取っ替えも大成功でした。
それで今度は手配線のキットをもう一度作りたいと思ったのと、現在KT77とEL34がそれぞれ4本余っているので、これが使えるアンプキットを探しました。結果としてサンバレーのSV-P1616D(真空管無し)、税抜き95,000円、を買いました。(本当は上杉佳郎さん設計の真空管アンプを自分でシャーシの穴開けレベルから作ってみたいですが、まだそこまでのノウハウと知識が無いです。)
他のページで書いたように、このサンバレーのアンプは本当は「買ってはいけない」と判断しているものですが、部品の大幅取っ替えを行えば大丈夫かと思いました。また、最初にここのアンプキットを組み立てたのはほぼ10年前なんで、さすがに色々批判されて多少はまともになっているかと期待しました。しかし、届いた現品の部品を見て、期待は悪い方に裏切られました。良くなるどころか、更にひどくなっていました。以下、どういう風に変えるか、どこがおかしいかを説明します。(以下の写真は左がキット付属のもの、右が私が自分で用意したものです。)

1.電源スイッチ
サイトの写真ではベークライトのボディーだったので、お、ついにNKK製トグルにしたかと思ったら、届いたのは黒い中国製トグル。しかも定格20A@12VDC、ってこれは自動車電装品用ですが…しかもタブ端子(ファストン端子用)!これだけでもサンバレーという会社の部品の選定がいかに適当かが良く分かります。DC12Vで20Aという定格は、NKKのスイッチの例で125VACに換算すると、せいぜい6A~8A定格に過ぎません。このアンプキットに付いているヒューズが5Aですから、この定格はちょっと不安があります。真空管アンプの電源部には大容量のコンデンサーが使われているため、スイッチONの瞬間にかなりの突入電流が発生します。しかもこのアンプにはスパークキラーは付いておらず、何も突入電流対策はされていません。速攻でNKKのS-21Aを注文しました。(2極単投=ON-OFF)こちらは125/250VACで15Aの十分ゆとりがある定格です。2極にしているのは、電源の+と-側を両方一度に入り切りする「両切り」にするためです。高電圧がかかる機器では普通両切りにします。なお、このNKKのSシリーズのトグルは上杉研究所の真空管アンプにも電源スイッチとして使われています。(型番は違います。)

それからスイッチONの時の突入電流を防ぐスパークキラーですが、何と10年経っても付いてきませんでした!たかが200円もしない部品なんですが。デフォルトのまま使うと、ON時のポップノイズでスピーカーが傷むだけでなく、中国製自動車用トグルの接点も損耗して行き、おそらく5000回も開閉すればダメになるのではないかと思います。(ダメにならなくても接点の損耗により接触抵抗が増加し、音質的にどんどん劣化して行きます。)ちなみに音の工房のアンプキットにはきちんとスパークキラーが付いてきましたし、エレキットのアンプはスパークキラーまたは遅延リレーで対処しています。トライオードの完成品は遅延リレーで突入電流対策をしています。何もしていないのはサンバレーのアンプだけです。ちなみにスパークキラーは電源トランスの0Vと100Vの端子に接続します。スイッチに並列に接続すると、スイッチがOFFの時でも50Hz、60Hzという交流がわずかですがスパークキラーのコンデンサーを流れます。

2.電解コンデンサー
電解コンデンサーで一番大事な電源での平滑用の温度定格が他のが105℃なのに85℃です。私が買ったのは当然105℃で電圧も350VDCにしていますが(キット付属品は315VDC)、高さがありすぎてケースに入らないので放熱も兼ねてケースに穴を開けることを考えています。また一応同スペックで高さが同じのも取り寄せ中です。

3.カップリングコンデンサー
同じ会社の真空管アンプマニアに海神無線という店を教えてもらって、ASCと言う会社のフィルムコンデンサーを買いました。しかし耐圧が付いてきたものよりちょっと低いので、別のものを検討しています。

 


4.セメント抵抗
カソード抵抗用に20Wのセメント抵抗が付いてきています。しかし、以前作ったサンバレーの300Bシングルのセメント抵抗は、下の写真のような状態になっています。(このグリスのようなしみ出して来ているのが何なのかは不明です。一応まだ動作はしています。)実はセメント抵抗の耐熱性ってあまり高くはなく、発熱が多い場合は、金属ケース固定抵抗を使うべきだと思い取り寄せ中です。しかもマニュアルにはこのセメント抵抗の細いリード線で、熱対策のため基板から浮かせて取り付けろとなっています。振動による音の劣化が懸念されます。

5.その他抵抗
その他の抵抗も、すべて定格を1ランク上げ(例えば1/2W→1W、1W→3Wなど)、TOAかVishayのものに変更します。音質のためと言うより、全体での発熱を下げるためです。

 

 


6.ボリューム
今回付いてきたのが、またも左の小型で摺動面が露出している安物です。ツマミも安物のラジオのようです。以前300Bシングルのアンプにもこれと同等のものが使われていて半年で壊れました。(摺動部が露出しているのでホコリやゴミ等が中に入れば短期間でダメになります。)当然右のアルプスアルパインのRKシリーズに変更します。穴径を大きくし、回転止めの穴を新たに開ける必要があります。

 


7.ACインレット
付いてきたのはアース端子無しのもの。確かにアース端子には普通接続しないので不要と言えば不要ですが、コネクターの物理的な固定には役に立っている筈です。ともかく少しでも安物をというのは徹底されています。

 


8.整流用ダイオード
これは品質とか信頼性の問題では無く、音質の向上策として、今回初めてファーストリカバリーダイオードを4本使って自分でブリッジにして使おうと思っています。


9.真空管ソケット
付いてきたのはプラスチック製。挿入しにくい上に固定も弱いです。ステアタイトというセラミック製のに変更。このアンプ、出力管を色々差し替えられますよというのがコンセプトのようですが、それであれば真空管ソケットは良質なものを使うべきです。そうでないと接触不良とか最悪ピンが折れると言うトラブルが予測出来ます。


10.配線材
サンバレーのアンプキットは、スピカー出力回りにシールド線を使いますが、上杉佳郎さんによれば真空管アンプにシールド線は不要で、却って高域が落ちたりすることがあるということであり、今回はシールド線は使わないつもりです。その代り、音の工房のアンプでマスターしたツイストペア線は使いまくろうと思っています。その他付いてきた線は細すぎで、もっと太いOFC線やテフロン絶縁の線を使う予定です。

以上見て来てお分かりになると思いますが、サンバレーのアンプキットは組み立てた直後はちゃんと音が出ていたとしても、半年、1年経つとトラブルとなることが十分予測出来るような、そんな安くて信頼性に疑問がある部品が多用されています。間違えても完成品を買わないように。完成品で買いたいならトライオードの真空管アンプの方が10倍まともです。キットを買う方も、安い部品は総取っ替えした方がいいと思います。サンバレーのサイトでカップリングコンデンサーのアップグレード用のものを売っていますが、そういうものを買ってそこだけ良くしても、他の部分が故障したら何の意味も無いですから。

3WアンプでJBLが鳴りました。

PCL86シングル超三結アンプに、駄目元でJBL4307をつないでみたら、何とプッシュプルの高出力真空管アンプでもきちんと鳴らせなかったのがわずか3W+3Wのシングルアンプがちゃんと鳴らせました!
但し条件付きで、サブウーファーを使用することです。JBL4307自体はサブウーファーは必要無いんですが、真空管アンプにとってはサブウーファーで低音をカバーしてもらうと楽になるみたいで、どの真空管アンプも高音での歪みが減ります。
このPCL86シングル超三結アンプの結果が良かったのは、
(1)超三極管接続を行うことにより歪み、特に高音の歪みが減る。
(2)超三結で出力管のインピーダンスが減りダンピングファクターが高くなる。このアンプのダンピングファクターは12.5です。上杉佳郎さんはダンピングファクターは10以上あれば良いと言っています。

PCL86の色々

今回の超三結アンプ用のPCL86、結局これだけ揃いました。左下の箱無しが最初から付いていた旧ユーゴスラビアのEiのもの。左上の4本は4本マッチでeBayで買ったLorenzのもの。左2本がITT Lorenzブランド、右2本がSEL (Standard Elektrik Lorenz)ブランドで、右の方が新しいようです。Lorenzの真空管はラジオ用ではテレフンケンのライバルであり、昔はナチスドイツの軍事用無線機にも使われたようです。その右はGEの真空管ブランドのMAZDA。ロンドン製となっています。マツダというと日本のもののように思われるかも知れませんが、あれ(マツダランプ)は東芝がGEのライセンスでマツダ名(日本語の松田ではなく、ゾロアスター教の光の神のアフラ・マズダから取った名前)で電球などを作っていただけです。その下のEdicronはエレキットのサイトで補修用で売っているもので、これもロンドンという表示があります。(HPはここで、この会社の内容を見る限りロシアや東欧、中国の真空管を仕入れて選別して売ってるだけの業者に見えます。)その左がPOLAMPでポーランド製です。PCL86は東欧のテレビの音声出力管として良く使われたようで、その関係でポーランドで生産されていました。このブランドが一番多く市場に出回っているようです。PCL86はこのようにラジオやテレビに使われたのでそれなりに生産量は多く、しかしヒーターの電圧が14Vと特殊なので(電源トランスのタップは6V、12Vはありますが通常14.5Vとかは無いです。但し春日無線のトランスが一部対応しています。)、素性のいい真空管の割りには安く手に入ります。入手していないものではPhilips製があります。これもeBayでいくつか出ていました。
取り敢えず今はITT Lorenzをアンプに挿して聴いています。気のせいかもしれませんがやっぱりEiのよりいいような気がします。(超三結では出力管の差は出にくいとされていますが。)

PCL86シングル超三結アンプキットの異常電圧部分の修理

PCL86シングル超三結アンプキットは、土曜日にポストした通り完成して問題なく音は出ていました。しかしながら各部の電圧チェックの内一箇所で本来35Vぐらいであるべきなのが80V以上出ており、気持ち悪いので販売元に聞きました。その結果、定電圧制御のツェナーダイオードの一つが壊れているということでした。こういうのがあるので部品総取っ替えをやっているのですが、半導体関係は知識が無いので付いて来たのをそのまま使ったらこれです。
それで、このツェナーダイオードとまた近傍で高い電圧がかかっていた電解コンデンサーとオペアンプを交換することになりました。交換部品は無償で送ってもらいました。

その作業に先行して今付いている部品を取り除きましたが、電解コンデンサーとツェナーダイオードは問題なく取り外せましたが、8本足のDIPであるオペアンプが、私が持っているツールでは全部一度に半田を溶かして引き抜くなんて出来ないので、ニッパーで足を切り、それから残った端子を取り除こうとしました。しかし今回オーディオ用銀はんだを使ったのが誤算で、通常の半田付け作業は問題無いんですが、リペア性が悪く、銅網で出来た半田吸い取り線でかなり時間をかけないと吸い取りがうまく行きません。それで半田ごてを当てすぎて、パターンの一部とランドを剥がしてしまいました。

それで今日、朝から補修をやりました。Amazonから届いたプリント配線板補修用具を使いました。
最初カーボン入り導電ペーストを使って、短い距離だから抵抗値が多少あってももいいかと思っていたのですが、よく考えたらカーボンペーストには半田が乗らないので、ランド部で電気的な接続を取ることが出来ません。なのでカーボンペーストはすぐエチルアルコールで拭き取りました。(単純にパターン切れの補修とかだったらカーボンペーストでもOKです。)
次に使ったのが写真の銅箔テープで、これがなかなか良かったです。裏に接着剤が付いていて、その接着強度が不安だったのですが、どうしてどうして短時間半田付けしたぐらいでは剥がれません。このテープと接続するパターンについて、ソルダーレジストを一部カッターで削って銅箔を露出させ、そこにこの銅箔テープを貼り、ただそのままだと裏面の接着剤のために導通しませんから、元のパターンの表面と銅箔テープの表面を半田でつなげて導通させました。テスターで導通を確認しました。
最後はサンハヤトのソルダーレジスト補修液を銅箔が露出している箇所に塗っておしまいです。我ながら器用に出来ました。昔銅張積層板を売っていてプリント配線板について身につけた知識が役に立ちました。

今回PCL86シングル超三結アンプキットで交換した部品類

今回、PCL86シングル超三結アンプキットを作成するにあたり、交換した部品。
交換した意図は、
(1)超三結アンプの実力を見るために、可能な限り良質の部品で組み立てる。
(2)抵抗の定格を上げることにより発熱を抑え、トータルでの信頼性と寿命をアップする。
(3)出来る限り一流メーカー品を使用する
です。
(1)足(インシュレーター)→オヤイデ製INS-BSに交換
(2)ヒューズ(2A)→Bussmann GMA-2Aに交換
(3)電源スイッチ(ミヤマDS-850、黄色LED照光、5A 125VAC)→NKK JWS-11RKKM(緑LED、10A 125VAC定格)に交換(LEDはミヤマのと推奨順電流値が違うため、電流制限抵抗を15kΩから820Ωに変え、更に10mAの定電流ダイオードを使用{定電流ダイオードだけでもOKですが、発熱源の分散のため抵抗も入れました。})
(4)その他スイッチ(ミヤマ製トグル)→NKK M-2022に交換
(5)カーボン抵抗 1/4W→1/2Wまたは1W、1W→3W、3W→5Wの高い定格のもの(多くがTOA製、その他TE製)に交換
(6)アウトプットトランス(東栄変成器、T1200、税込み一個2,090円)→春日無線 KA-5730(一個4,400円、リードタイプ)
(7)真空管PCL86(Ei製)→PCL86(MAZDA{製造英国}製他)
(8)電源ケーブル→オーディオ用電源ケーブル
(9)線材→OFCケーブル(太、細)
(10)電解コンデンサー(ルビコン)→日本ケミコン、KXJシリーズ(105℃温度定格)
(11)フィルムコンデンサー(東信工業)→アムトランス製、パナソニックポリプロピレンなど
(12)真空管ソケット→S-7Am-P 9ピンMT 基板用 日本製 アムトランスオリジナル
(13)その他→WAKO無鉛銀ハンダSR-4N
この内容で組んで、問題無く正常に動作しました。なお、フィルムコンデンサーなどかなりサイズが大きくなりましたが、実装スペースはギリギリ大丈夫でした。
写真は使わなかった部品です。

完成:PCL86シングル超三結アンプキット

完成しました。PCL86もキットに付属のEi製からMAZDA製に差し替え。今回部品を替えまくったので、万一動かなくて販売元で修理してもらうのに「最初から入っている部品以外で組んだ場合は知りません」と言われるんじゃないかと心配していました。
音の評価はこれからですが、真空管らしからぬすっきりした感じで鳴っています。
しかし、組立は結構大変でした。何せ半田付けしなければいけない箇所が多いですし、プリント配線板の端子は表面実装のように半田付けしないといけません。(リード線を穴に貫通させると反対側でショートする場合があるのでやるな、とマニュアルにあります。)

スイッチに関する間違った記述

ぺるけさん、という方がいて、真空管アンプの世界では有名です。「情熱の真空管アンプ」「真空管アンプの素」といった本を書かれていて、またWeb上にも色々と貴重な情報を上げておられ、私も勉強させていただいています。

ただ、そのぺるけさんがスイッチについて書かれたページには間違った記述が散見されますので、以下に記載します。

引用開始
微小電圧・電流でも高い接触安定を確保したい場合は、接点に金メッキを使ったものを使いますが非常に高価かつ滅多に売っていません。国産の信頼できるメーカーのものであれば、銀系メッキの通常タイプでもオーディオ信号回路で十分に実用になります。高い信頼性を確保したい場合は、押し当て接点のトグルスイッチよりも摺動接点のロータリースイッチの方が接触安定が良いです。
引用終了

訂正1
金メッキ接点のスイッチが非常に高価でかつ滅多に売っていないということは全くの事実誤認です。NKKスイッチズで販売している微小電力専用のスイッチは全て金メッキ接点ですし、パネル用のスイッチにも金メッキ接点はごく普通にあります。
価格も高くても銀接点に比べて100円未満のアップだと思います。(スイッチの種類によって違いますが、小型トグルのMシリーズでの例だと、銀接点のM-2022{2極ON-ON}が税込み372円、金メッキ接点のM-2022Gが449円です。{NKKのダイレクトショッピングでの価格})入手性もNKKのダイレクトショッピングだけでなく、ミスミ、モノタロウ、RSコンポーネンツ、Digi-key等で販売されていて容易に入手可能です。Amazonでもマーケットプレイスなどで売っていると思います、

訂正2
押し当て接点のトグルスイッチよりも摺動接点のロータリースイッチの方が接触安定が良いという事実はありません。
むしろロータリースイッチの方が複数の接点の接触力を均一に保ったり、回転させても均一の接触力を保たなければならないなど難しく、また摺動接点というのは人間の操作速度と接点の接触・分離の速度が同じであるため、その操作の間にアークが飛ぶ時間が長くなり、電気的な寿命はトグルに比べて一般に短くなります。さらにはロータリーは接点や絶縁物の摩耗粉が出やすいという問題もあります。例えばNKKのトグルスイッチであるMシリーズ(125VAC 6A定格)の電気的寿命は25,000回ですが、ロータリーのMR-A(125VAC 0.25A )は10,000回です。もう廃止になりましたが6A定格ロータリーのHS-13Xは7,500回です。
そもそもトグルの接点もロータリーの接点もバネの力で接点の接触力を保っており、そこに信頼性の大きな差はありません。
ロータリーやスライドなどでの摺動式接点は、自己クリーニング性といってこすり合わせられることにより接点表面の酸化や硫化部分を取り除くという長所がある一方で上記のアークの問題があり、トータルではトグルより一般的に信頼性は低くなります。またトグルのようなシーソー式接点でも、接触時に接点がスライドする機構を入れたりして、自己クリーニング性を持たせているものもあります。

訂正3
銀接点のスイッチを微小回路かつあまり操作されない所に使用すれば、どこのメーカーであれ、そのうち接点が酸化や硫化(空気中の硫黄分=亜硫酸ガスなどによる黒化)することにより、接触抵抗が増加し、1年以上経つとトラブルになる可能性大です。この場合は金メッキ接点が必要です。サンバレーという真空管アンプの会社のフォノイコライザーのMM/MCの切り換えスイッチ(銀接点のロータリー)が2年ぐらいで故障した話は別のページに書きました。