週刊文春に連載されていた、百田尚樹の「幻庵」がやっと連載終了。12月31日に単行本として出るそうですけど、買う人いるのかな。タイトルは「幻庵」だけど、途中2/3くらいまではほとんど「本因坊丈和」といってもいい内容でした。それでも敢えて「幻庵因碩」を主人公にしたのは、そうすると丈和だけでなく、本因坊秀和、秀策といった人も登場させられるからに過ぎないように思います。内容も幕末囲碁史であって、人間としての幻庵因碩の描写はイマイチだったように思います。単行本として出すなら、出てくる対局の棋譜を全部載せて欲しいですが、無理でしょうね。
日別アーカイブ: 2016年11月2日
白井喬二の「白井喬二 戦後作品集 天の巻 坂田の金時」
白井喬二の「白井喬二 戦後作品集 天の巻 坂田の金時」を読了。収録作品と初出は、「坂田金時」(大衆文潮、1949年6月)、「児雷也劇場」(オール読物、1951年6月)、「銀嶺先生」(オール読物、1950年4月)、「鋳掛松」(苦楽、1947年5月)、「毒の園」(苦楽、1948年1月)、「悪七兵衛」(週刊朝日、1950年1月)。(「苦楽」は戦前のものと戦後のものがあり、戦前のものには国枝史郎の「神州纐纈城」が連載されていたことで有名ですが、ここの「苦楽」は大佛次郎が戦後主宰したもの。)白井喬二の昭和20年代の作品を集めたものです。(天の巻以外に、地の巻、人の巻が出ています。)白井喬二は誰が見ても長篇型の作家ですが、この時期の白井喬二は、長篇を自ら封じて、短中篇ばかりを書いていました。本人曰く、「大魚の鱗の一枚一枚を書くような作業」ということです。その作品群は戦前の作品のように大向こうをうならせることはなかったですが、戦中の「瑞穂太平記」のような作品に比べると、むしろ私には好ましく思われます。「銀嶺先生」は忍者の小説を書いていて、東大で甲賀流忍法について講演した伊藤銀嶺という作家が、新聞社にほらを吹いたために、明治座で忍術の実演をやらされる羽目になり、見事に失敗するお話です。白井自身も「忍術己来也」を書いていて、人からは忍術が出来ると思われたことがあるみたいで、その辺の経験を活かして書いています。他の作品もそれなりに読み応えがあります。
三遊亭圓生の「札所の霊験、居残り佐平次」
本日の落語、三遊亭圓生の「札所の霊験、居残り佐平次」。
「札所の霊験」は本来もっと長い噺で、仇討ちの噺みたいですが、圓生が語っているのは途中までで、この途中までを聴くと、笑える所はまるでなく、オチも無く、ほとんど怪談噺です。遊女の小増が、水司(みずし)又市に恋人を斬殺され、又市は出奔し、小増はその後富士屋の旦那に見初められその妻になるが、富士屋は二度の火事で没落。夫婦と子供で越中の高岡に移るが、そこの寺の坊主が又市のなれの果てで、又市は小増にいいよって自分のものにし、富士屋の旦那を斬殺して、結局それがばれて、という陰惨な噺。
「居残り佐平次」は前に志ん朝で聴いていますが、圓生もさすがにうまく、佐平次のどこか憎めないキャラクターを見事に演じています。