白井喬二の「孔雀屋敷」を読了。最初に出版されたのは1955年なのですが、実際は初出は戦前のものではないかと思います。というのは、1937年の「珊瑚重太郎」に話の展開が非常に良く似ているからです。主人公の山中児太郎は、ふとしたことから孔雀屋敷と呼ばれる武家屋敷に奉公することになりました。孔雀屋敷と呼ばれるのはそこの奥方が孔雀のように美しいからですが、でもその奥方と主人は不和で家庭内別居をしています。その理由は以前その屋敷に敵方の間者が入り込み、こともあろうに奥方がその間者と恋仲になったという疑いがあったからです。その間者はその屋敷の座敷牢に捕らわれていましたが、児太郎はその間者が本当に奥方と恋仲だったのかどうかという証拠を求めて、敵方の屋敷に乗り込みます。その時に屋敷に入り込むため、色々と話をでっちあげ、結局自分の姉を御姫様に仕立てて、その屋敷に結婚の相手を世話させるということになります。もちろん嘘の話ですから本当に結婚する訳にはいかないのですが、次から次に色々な縁談が持ち込まれて、児太郎がその度に窮地に陥ります。この次から次への窮地という展開が「珊瑚重太郎」にそっくりです。ただ、「珊瑚重太郎」の場合は、主人公は常に正義感に基づいて行動しますが、「孔雀屋敷」の場合は、自分の都合で、罪もない敵方屋敷の家来を斬り捨てたりしますので、さわやかさ、という意味ではちょっと劣ります。とはいえとても面白い作品で、最後も白井らしくうまくまとめて大団円です。
白井喬二の「孔雀屋敷」
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