白井喬二の「文学者の発言」を読了。昭和21年9月という、太平洋戦争に負けて1年ちょっとで出された本です。わざと、「従軍作家より国民へ捧ぐ」に続けて読みました。戦争中、軍部の宣伝役として利用され、また「瑞穂太平記」のようなある意味時局迎合的な小説を書いていた白井が、戦後すぐにどのような発言をしているかに興味ありました。白井は自分自身があまり戦争に協力した、とは思っていなかったようで、講演などもほとんどしていない、と書いています。もちろん白井の時局迎合ぶりは、吉川英治のような露骨なものでなかったのは確かですが。(吉川英治の「宮本武蔵」には戦前版と戦後版があり、今読まれているのは戦後版の方です。戦後版は戦前版に比べると、天皇について書いたものがばっさり削除されたり、神功皇后の三韓征伐が三韓へお渡りになる、になったり暴力的な表現が弱められていたり、色々と書き換えられています。)
収録されている中では「具体案ばかりの発言」が面白く、そのタイトル通り、本当に具体案がいくつも提案されています。その中には、ラジオで国会のやりとりを中継しろ、などというのもあります。実際にラジオの国会中継が実現するのは1952年なので、かなり先見の明があります。また、国が「翻訳局」みたいなものを作って、全国に翻訳図書館を作って国民の教育に資するようにせよ、などもなかなかうなずける提案です。さらには、小学校の初等から論理学を教えろ、という提案もしています。
戦後は「大衆」の時代になり、大衆文芸の創始者である白井にとっては我が世の春が来た筈ですが、事実としては戦後は白井は忘れられた作家になってしまいます。ある意味歴史の皮肉のようです。
白井喬二の「文学者の発言」
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