手塚治虫の「ネオ・ファウスト」

手塚治虫の「ネオ・ファウスト」を読了。これも手塚の遺作の一つで、第二部に入った所で中断したままになっています。
手塚治虫はその生涯でゲーテのファウストを3度漫画化しています。最初が世界名作劇場の漫画版的なもので、子供向けのごく普通のもの、2回目は何と舞台を江戸時代の日本にしてしまったもの。そして3回目がこれです。3回目の特徴は、
(1)掲載誌が朝日ジャーナル、ということもあって時代が1969-1970年の学生紛争の頃に設定されています。全共闘世代が読者に多かったんでしょう。
(2)メフィストフェレスが女性です。なのでファウストこと一ノ関博士が若返った坂出が恋するマリ(グレートヒェン)に嫉妬したりします。
(3)一ノ関博士の専攻が生命工学で、若返った坂出はバイオテクノロジーで生物を自由自在に作り出そうという野望を持ちます。これも掲載当時の時代を感じさせます。

手塚の娘である手塚るみ子は、一ノ関博士の「若返ってもう一度人生をやり直したい」というのは死を目前にした手塚自身の願望であったとしていますが、それはそうだと思います。
ファウストのニ部は単なるキリスト教的道徳の話を超えて、古代ギリシアや東洋も含めた壮大な話になります。手塚にはそっちの方が本領を発揮出来たんじゃないかと思い、中断未完となってしまったのは残念です。