NHK杯戦の囲碁は準々決勝第1局で、黒番が余正麒7段、白番が瀬戸大樹8段の対戦です。同じ関西棋院同士で、対戦成績は瀬戸8段から見て5勝2敗だそうです。対局は左上隅で黒が小目の白に一間高ガカリし、白が下に付けて定石が進行し、黒がカケ継いで白がケイマに受け、そこで黒は手抜きで左下隅の白の星に対しいきなり三々に入りました。この手はAIの影響による最近の流行です。ポイントはどちらが先手で切り上げ左辺の開きまたはハサミに回るかです。白は三本延びてから下辺をハネ、さらに隅からハネて、また下辺から二段バネしました。黒は二段バネに一本キリを入れてから隅で1子を切り取りました。ここで白は切った黒の1子をカケて制圧していれば本手でしたが、下辺を開いて頑張りました。左辺の開きは黒が打つことになりました。後に黒は白がカケて制圧しなかった1子を立って動き出しました。この後の折衝で、黒は強く下辺の白に付けたのが好手でした。白はハネて反発しましたが、黒が下から当て返して、白が1子を抜いた後、黒はさらにアテを利かそうとしました。これに対して白が継ぐのは利かされ、また切って劫を仕掛けるのは、大きすぎて劫材がありません。そこで白は黒の右下隅の二間ジマリに中から付けていき、戦線を拡大しました。白の右下隅の打ち方は多少無理気味でしたが、結局白は隅の黒の数子を取って治まりました。しかしその間に黒は下辺を2手打ち、下辺に大きな地を作りまた好形になりました。白は切り離された石を逃げねばならず、その反動で左辺の白も非常に薄くなりました。ここで黒の優勢が確立しました。その後黒は左辺の白を攻めましたが、途中までで保留し、一転して上辺に打ち込みました。この黒のしのぎで右上隅の白のシマリに付けていったのも好手で、黒は活きるのには苦労しなくなりました。この状態で黒は左辺の白への攻めを再開し、約半分をもぎ取って左辺も大きな地にしました。白としては最後のチャンスは上辺からの黒を全部取ることでしたが、前述したように黒は先ほどの好手で上辺に半眼ある上に、白は各所で連絡が不完全で、黒を取ることは不可能であり、ここで投了となりました。ちょっと一方的に余7段の好手ばかりが目立った一局でした。
「Igo」カテゴリーアーカイブ
NHK杯戦囲碁 張栩9段 対 芝野虎丸7段
本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が張栩9段、白番が芝野虎丸7段の好カード。この碁の見所は中盤以降の双方がっぷり組んだねじり合いに尽きます。まずは張9段が中央で取られている黒石の利きを利用して下辺の白石を切り離し、下辺の地を大きく確定させました。その後黒がさらに取られている石を使って利かしに行きましたが、芝野7段はここを受けずに右上隅の黒1子を切り離して頑張りました。黒はそこで取られていた黒を再度担ぎ出し、この生死が勝敗のカギになりました。途中、両アタリにされるのが分かっていて白が当て返して打ち、これが好手のようでした。黒はそこで左辺に出ましたが、白が進出を押さえずに、2線を1間に飛んだのがまた好手でした。黒は結果として左辺を割りましたが、眼は出来ませんでした。普通ならここで黒の投了ですが張9段は諦めずに左上隅にからめて行き、ここを劫にしました。劫材は黒に多く、結局左上隅は黒が活き、また取られていた大石もヨセコウ付きの攻め合いになり、黒がかなり持ち返したように見えました。しかし冷静に形勢を見れば、やはり取られていた石から動いて損を大きくしたのが悪く、白の優勢でした。黒は左上隅の攻防で劫材を使い果たしてしまったのが痛く、大石の攻め合いのヨセコウは白がとことん頑張りました。終わって見れば白の4目半勝ちでした。芝野7段の読みの深さと形勢判断の確かさが光った一局でした。
NHK杯戦囲碁 井山裕太7冠王 対 蘇耀国9段
本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が井山裕太7冠王、白番が蘇耀国9段の対戦です。意外なことに、この両者の対戦は1局だけで、蘇9段の1勝です。黒の布石は最近珍しい高い中国流です。白は右上隅に対し右辺から掛かっていくという珍しい打ち方でした。さらにその後、下辺が広く開いている状況で右下隅に掛かっていき、何か相手の地に嫉妬して先に狭い方に入るアマチュア的な打ち方でした。結果論から言えば、こうした打ち方がマイナスになりました。黒は左上隅に掛かっている石から左上隅に付けて跳ねてという最近流行の打ち方をしましたが、これに対し白は上辺を押して行きました。白が押して黒が伸びさらに白が押した時、黒は手を抜いて左辺を打ち、白が2子をたたいたのにさらに手を抜き、左辺から左下隅に滑りました。この結果は白は上辺で2子を取る手が残り、上辺を割ることが出来ましたが、黒も左辺を2手打てて悪くないと主張していました。白は形勢が容易ではないと見て、左辺の黒に置きを敢行しました。これは厳しい手でのっぴきならない戦いとなりました。この戦いで中央が劫になりましたが、黒は当たりを逃げる手がそのまま劫立てになりました。ここで黒は左下隅を活きる手があり、非常に大きな手でしたが、井山7冠王は下辺を外から押さえて打ち、敢えて左下隅を捨てました。この戦いの結果、白は左辺と左下隅で40目ぐらいの地を確保しましたが、黒は白の3子を取って中央が分厚くなりました。この厚みを生かして、右下隅に掛かった白と右辺で右上隅に掛かった白とをカラミにして攻め、結局白は両方をしのぐことが出来ず、右辺の右上隅に掛かった石は取られてしまいました。これで形勢ははっきり黒が優勢になりました。その後白は右上隅の三々の石を動き出して地をかすりましたが、黒の優勢は変わらず、黒の中押し勝ちになりました。
NHK杯戦囲碁 羽根直樹9段 対 伊田篤史8段
本日のNHK杯戦の囲碁は黒番が羽根直樹9段、白番が伊田篤史8段の対戦です。この両者は伊田8段が初出場した時にもぶつかり、その時は伊田8段のハードパンチが炸裂し、羽根9段が粉砕された感じでした。なので今回の興味は羽根9段が雪辱を果たせるかです。そういう意味で羽根9段の作戦としては、伊田8段の得意なねじり合いではなく、息の長い勝負を志向するのかと思っていましたが、予想は外れ、左上隅で白が挟まれた後かけたのを黒は出切っていき、白は隅を押さえ込むという最強の手で応じ、ものすごいねじり合いが始まりました。その結果、左辺で非常に大きな劫になり、白が劫立てで3子当たりにしたのに受けずに黒は劫を解消しました。この結果は左辺の白が活きている分、中央で3子抜いた白の厚みが勝り、白の優勢でした。しかしその後黒が上辺で白のはねていた所を切り、白が下から当てて1子を捨てたのはいいとして、その後上辺ですべったのが薄く、すかさず黒にうまいツケを打たれてしびれました。この結果は黒から白の2子を取って隅とつながる手ができ、結局白は2手打ってその手を無くしましたが、黒に余裕が出来て、その間に左下隅に手を回すことができ、形勢は黒がやや持ち直しました。その後黒は白の右下隅の三々に肩付きして右辺に展開し、白はこれを攻めようとしましたが、黒は上手くしのぎました。しかし白は下辺に打ち込み黒3子を取って下辺を大きくし、黒としては右辺上部の模様を大きくまとめないと勝てなくなりました。白は右辺からの侵入と右上隅への工作を天秤にかけ、どちらかで黒模様を侵食しようとしましたが、ここで白の打ち方に誤算があり、黒模様の中に打った石がすべて持ち込みになり、40数目の黒地が確定してしまいました。これは完全に黒の逆転で、その後白がヨセで頑張って差を縮めましたが届かず、結局黒の中押し勝ちで羽根9段は雪辱を果たしました。
河野臨・小松英樹・一力遼の「アルファ碁は何を考えていたのか?」
河野臨・小松英樹・一力遼の「アルファ碁は何を考えていたのか?」を読了。アルファ碁に関する本も実に8冊目です。この本ではアルファ碁対人間棋士の対局が6局、アルファ碁同士の対局が3局、そしてZenの対局が2局取り上げられています。小松英樹9段がその11局の中のある局面を取り上げて、問題とし、小松英樹9段、河野臨9段、一力遼8段がそれぞれどう打ってどうその後の局面を構想していくかを解説したものです。実際それぞれの説明を見ると、プロであればほとんど考えることが一致しているというのが分かり、「次の一手」もかなりの確率で一致している場合が多いです。このことは、AI碁の登場で、今まで人間が作り上げてきた棋理が否定された訳ではなく、AI碁の打ち方はむしろ人間が盲点となっている所を教えてくれた、という風に思えます。ただ、一力8段は、アルファ碁が星に対していきなり三々に入る打ち方を「自分は絶対に打たない」と書いていますが、先日のNHK杯戦の対本木克弥8段戦の碁で確か打っていたんじゃあ…
人間より強いAI碁の登場は、個人的な感想では、棋聖道策による手割りなどを使った棋理の確立、そして木谷実9段と呉清源9段による新布石の提唱、に続く第3の囲碁革命であると思います。今後もプロ棋士によるAI碁研究は続き、その中から新しい打ち方が出てくることを大いに期待しています。
NHK杯戦囲碁 余正麒7段 対 高尾紳路9段
新春最初のNHK杯戦は黒番が余正麒7段、白番が高尾紳路9段の対戦です。この二人の対戦成績は余7段から見て8勝1敗とトップ棋士同士としては信じられない程偏っています。また、余7段は各棋戦で勝ちまくっていて7大タイトルにも2回挑戦していますが、まだ井山裕太7冠王には手が届かない感じです。布石は黒が右上隅で二間高ジマリ、そして左上隅の白の星に対しいきなり三々入りと、AIの打ち方を模倣した最近流行の布石です。黒は左下隅でもかかった後三々に入り両方で実利を稼ぐ展開でした。局面が動いたのは、白が下辺に開いた黒に打ち込んでからで、白は右下隅と下辺で活きましたが、黒も左下隅を封鎖している白に切りを入れ、こちらも下辺を荒らし、五分五分のワカレでした。その後中央での競り合いがあった後、白は右上隅に手を付けました。ここの折衝は劫になり、劫は黒が勝ちましたが、白は代償に左上隅を取り切りました。この結果は白が地を稼ぎ、黒の容易でない形勢になりました。ここで余7段は右辺を開いている白に横付けを敢行しました。付けてハネて継いだ黒3子は取られてしまいましたが、黒はこの3子を捨て石にして右上隅の白2子を先手で切り離して締め付けることが出来、これで黒が逆転しました。その後白は左下隅で劫を仕掛けるなどして粘りましたが、わずかに及ばず、黒の2目半勝ちになりました。白は右辺の対応が悔やまれます。正しく打っていたらわずかに白が優勢だったのではないでしょうか。
NHKの囲碁の「新春お好み対局」
NHKの「新春お好み対局」を視聴。(1月3日放送)
内容は、
1. 「プロ VS. アマ ルーレット碁対局」
吉原由香里6段 対 きたろう(俳優)
2. 「脳内プロ・アマ混合ペア碁対局(13路盤)」
小山空也3段 対 大西竜平3段
3. 「プロ・アマ・AI囲碁混合ペア碁対局」
林漢傑 七段、AI(DeepZenGo)開発者:加藤英樹
戸島花(タレント) 対 山田彩(タレント)
の3種類の対局。
1.は途中でルーレットを回して、勝てば白黒逆に出来るというもの。結果は、一度ルーレットで逆にしてもらったものの、きたろうが吉原由香里6段に2回も負けたというものでした。
2.は13路のペア碁ですが、プロは目隠し対局というもの。将棋での目隠しはプロならある程度可能だと思いますが、囲碁の場合は13路でも無理ということが証明されてしまいました。小山3段はそれでもかなり正確に打っていましたが、大西3段が何度も間違えて、穴を出られて突き抜かれたり、アタリを継がなかったりで、碁になっていませんでした。
3.は19路のペア碁で、プロアマとAIとアマという組み合わせです。DeepZenGoにとっては、1回毎にアマの手で読みをリセットされてしまい、また30秒しか無いというのは不利かと思いましたが(私は天頂の囲碁7と対局する時は、天頂の囲碁7側を60秒の設定にしています)、結果は戸島花とDeepZenGoのペアの勝ち。戸島花ちゃんは囲碁講座のアシスタント終了時に初段の認定を受けましたが、その時はオマケ的な初段だと思っていましたが、今日の打ち方を見たら手所で実に正確に打っていて、初段は伊達じゃないなと思いました。
NHK杯戦囲碁 趙善津9段 対 志田達哉7段
本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が趙善津9段、白番が志田達哉7段の対戦です。志田7段は私が一番注目している棋士です。布石は白が左上隅と左下隅で地を稼ぎ、その代わり左辺の白がやや薄く、この白に対してどのくらい攻めが利くかがこの碁の焦点でした。志田7段は左辺の薄みは放置し、右辺の黒の構えに深く打ち込みました。ここでの黒の打ち方がやや疑問で、壁石の穴を継がずに、下がって白への攻めを伺いましたが、白は右上隅へすべってあっさり治まってしまいました。黒は代償で厚みを得たので、すぐ左辺の白に厳しい攻めを決行すれば、まだ先の長い碁だったと思いますが、ここで黒は右下隅で地だけの手を打ちました。これに対し白は左辺でノゾキに放置していた所を継いで黒のワタリを促し、そして中央に一手備えて左辺の白を補強しました。黒はそれから攻めに行ったのですが、ちょっとチグハグでした。左辺の白は上辺の白に連絡しようとしましたが、その結果劫になりました。白は右辺から中央で継ぎを打ちましたが、黒はそれに受けずに劫を解消しました。白は黒石にカケを打ち、結果として包囲していた黒が取られ、白が活きただけでなく、元々黒の勢力圏だった所に白地が20目ぐらい出来ました。取られた黒は一応攻め取りで黒は締め付けを利かせて右下隅をまとめましたが、白の得た利益の方がはるかに大きく、白の勝勢になりました。その後ヨセが続きましたが、結局黒が投了しました。志田7段はこれで準々決勝進出です。
NHK杯戦囲碁 今村俊也9段 対 黄翊祖8段
本日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が今村俊也9段、白番が黄翊祖8段の対戦です。今村9段は棋風通り厚く打ち進め、ポイントは右辺で白がかけて来たときに、這って受けずに逆にケイマに踏み込んで白の切断を狙いました。結果的に黒も白もお互いに相手の石を取る振り替わりみたいになりましたが、黒は右上隅からの石を安定させられたのが大きく、白はまだ治まっていませんでした。黒は右辺にもう一手かけて取られていた石を助け白の全体を狙いました。白は右下隅の黒の二間ジマリに潜り込んで隅の地を取り、更にその外側の黒を攻めることで白の右辺の石のしのぎのたしにしようとしました。この黒と白の弱い石の絡み合いは下辺左の白にも波及してきました。そのあたりの折衝で白におそらく見落としがあり、右下隅からの黒と左辺の黒が上手くケイマで渡って連絡し、逆に白は中央の石を切り離されて取られてしまいました。これで形勢は黒が盛り返しました。しかし白も確定地が多く、勝敗はまだ分かりませんでした。黒は左上隅の三々に打ち込み、白地を荒らしに行きました。単独ではなかなか活きない所を上手く左辺の白にからめて行きました。ここで黒の好手、白の再度の見落としが出て、左上隅は白地となりましたが、左辺の10子くらいを切断され取り込まれてしまい、ここに30目ぐらいの黒地が出来ました。これで黒がはっきりリードし、その後数手打ち進めて白の投了となりました。今村9段の手厚い打ち方と、それによる攻めの余得の稼ぎ方のうまさが光った1局でした。