もりたなるおの「芸術と戦争―従軍作家・画家たちの戦中と戦後」

jpeg000 61もりたなるおの「芸術と戦争―従軍作家・画家たちの戦中と戦後」を読了しました。この本を読んだきっかけは、小林信彦の「ぼくたちの好きな戦争」で戦争中に風刺漫画家で活躍する秋間広次のモデルが近藤日出造であることを知り、その近藤日出造について小林はさらに「一少年の観た『聖戦』」の中で、戦犯ではないかと非難しているのを知ったことです。もりたなるおは相撲小説が有名で以前よく読みましたが、作家になる前は漫画家で近藤日出造の弟子です。なので近藤日出造の戦中の活動について書かれていないかと思ってこの本を取り寄せました。
この本では近藤日出造は直接小説の主題としては取り上げられていませんが、風刺漫画家岸丈夫の章で登場し、近藤日出造と加藤悦郎が戦争中、どぎつい風刺漫画を書いていたことは出てきます。
その他、この本で取り上げられている人は、井伏鱒二、火野葦平、藤田嗣治、東郷青児、吉川英治、横山大観、林芙美子、柳家金語楼など色々です。
藤田嗣治については、戦争画に打ち込み、非常にリアルな戦争画を多数書きますが、アッツ島玉砕、サイパン玉砕といった絵でリアルになりすぎて、軍部から「戦意を削ぐ」として活動を止められ、それでありながら、戦後は逆に戦犯として活動を差し止められそうになり、それで日本を捨てフランスに移住したとあります。こうした事情は今回初めて知りました。
また、日露戦争の旅順攻防戦を書いた戦記小説「肉弾」の著者の櫻井忠温が戦後公職追放になって苦労したりなども初めて知りました。
小説家、画家、漫画家などの戦争との関わりは様々ですが、戦争に積極協力した人も一概には責める気にはなれません。

小林信彦の「地獄の観光船」

jpeg000 57小林信彦の「地獄の観光船」を再読了。「地獄の読書録」「地獄の映画館」に続く、「地獄の」シリーズの3作目です。キネマ旬報誌にて1977年1月号から1981年3月号まで連載された「小林信彦のコラム」を単行本化したものです。元々2年の予定だったのが、読者に好評だったため、2回延長されて4年2ヵ月間の連載になっています。この間、1978年と1981年の2回、キネマ旬報の読者賞を受賞しています。テーマは映画が大部分ですが、それに限定されることなく、TV番組や本まで幅広く取り上げられています。1978年のコラムには「入谷映画村」で「進め!ジャガーズ 敵前上陸」が上映された時のことが書かれていますが、これが「袋小路の休日」での「根岸映画村」の題材になっています。

古今亭志ん朝の「芝浜、百川」

jpeg000 60先日の「文七元結」が良かったので、今度は同じ志ん朝の「芝浜、百川」を取り寄せました。「芝浜」は桂三木助のが定番とされていますが、志ん朝も素晴らしいと思います。「百川」はお兄いさん達と田舎から出てきた店員のとんちんかんなやりとりが最高です。

小林信彦の「変人十二面相」

jpeg000 53小林信彦の「変人十二面相」再読。ジュブナイル小説で、元は中三時代とバラエティに1980年4月から1981年4月にかけて連載されたもの。小学二年生の女の子ミキが主人公ですが、これは小林信彦の下の娘さんが想定されています。家族構成も連載当時の小林家そのままです。小林信彦ファンの私ですが、その私でもあまり褒める所のない小説で、ストーリーもほとんどないも同然です。小学二年生の女の子の視点という点も成功しているとは言い難く、その子がパパの日記を盗み見て語る、など苦しい手法が使われています。タイトルの「変人十二面相」もまったく内容とは関係ありません。ただ、当時の世相はよくわかって、巨人に入った江川がその頃世間からどう思われていたかだとか、長島が突然解任されて世間にショックを与えたとか、1980年が冷夏だったとか、ジョン・レノンが殺された、とかそういうことを思い出すことができるだけです。ちなみに、小林信彦はマスコミに登場した最初の頃のキャッチフレーズは「長島を知らない男」で、まるっきりの野球音痴でしたが、いつの頃からかかなりの野球ファンに変わっていて、それがこの小説にもよく反映されています。
後、峰岸達さんのイラストはなかなかいいです。

小林信彦の「超人探偵」

jpeg000 52小林信彦の「超人探偵」を再読了。「神野推理氏の華麗な冒険」の続篇です。前編でオヨヨ大統領と思われる人物に香港で拉致された名探偵神野推理が、「シャーロック・ホームズの帰還」ばりに、華麗に復活します。前編は1話原稿用紙30枚だったのが今回のは50枚になったとのことで、その分ミステリー部分が本格的になっています。特に「ヨコハマ1958」のトリック破りが秀逸で、1950年代に横浜に住んでいたことがある小林信彦ならではの、土地勘がよく生かされています。
シリーズ全体でオヨヨ大統領とクロスオーバーしていますが、本巻ではさらに唐獅子シリーズともクロスオーバーし、須磨組(須磨組自体は既にオヨヨ大統領シリーズで登場していますが)や、学然和尚、ダーク荒巻などが登場します。

NHK杯戦の囲碁、小林覚九段 対 彦坂直人九段

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今日のNHK杯戦の囲碁は、黒番が小林覚九段、白番が彦坂直人九段の対戦でした。小林九段はタイトルをいくつも取り、今でも第一線で活躍する棋士で、彦坂九段もかつて十段を取った実力派棋士です。対局は下辺で白がさばきに出て、結局振り替わりになりましたが、この結果は少し白が損したようです。その後、白は頑張って各所で地を稼いで打ちましたが、黒が左辺の4線の白につけたのが鋭い一着で、その後の折衝で、白の左上の壁石が攻められ、結果的に黒は上辺をうまくまとめることができました。結局黒の中押し勝ちでした。

小林信彦の「地獄の映画館」

jpeg000 50小林信彦の「地獄の映画館」を再読了。1961年~1963年の映画評です。日本映画は1957年から1960年ぐらいにかけて観客動員数がピークを迎えますが、その後衰退に入ります。この本はその衰退が始まった時代の記録です。小林信彦らしく、植木等の「ニニッポン無責任時代」を最初から高く評価しています。その他、「ウェスト・サイド物語」やヒッチコックの「鳥」の封切り当時の状況がよくわかります。映画の衰退は、一般的にはテレビの普及のせいとされていますが、小林信彦はそれだけではないと指摘しています。

PENTAX Tethered Capture Plug-in for Adobe® Photoshop® Lightroom®

PENTAXから、PENTAX Tethered Capture Plug-in for Adobe® Photoshop® Lightroom®のK-1対応版が公開されました。これを使うとAdobeのLightroomの中から確かにテザー撮影できますが、できるのはシャッターを押す操作のみで、ライブビュー画面も表示されませんし、カメラの露出やAFの操作もできませんので、結局Image Transmitter 2を併用せざるを得ません。やりたいのは、テザー撮影して撮った画像をすぐLightroomで編集したいということだと思いますが、このプラグインは非常に中途半端なものです。

小林信彦の「ぼくたちの好きな戦争」

jpeg000 49小林信彦の「ぼくたちの好きな戦争」、たぶん3回目くらいですが読了。小林信彦の一連の「喜劇的想像力」に基づく作品の集大成ともいえる作品で、同時に小林信彦の作品の中でもベスト1ではないかと思います。
冒頭の、日本軍が酔っ払って玉砕する場面は、元々は筒井康隆がネタを提供したものだと思います。
お話しは、秋間三兄弟(秋間大作、秋間公次、秋間史郎)と大作の息子の誠を中心に進みます。三兄弟がそれぞれ、和菓子屋の主人、風刺画家、コメディアンという設定は実に小林信彦らしいです。また誠に関しては当然のことながら小林信彦自身が投影されています。ただ、誠は集団疎開には参加せず東京に残り、3月10日の東京大空襲を経験します。
秋間三兄弟の話に挿入された、架空戦記(日本がアメリカを占領する)が、「素晴らしい日本野球」、「ちはやふる奥の細道」などで発語訓練を重ねた上で生み出された傑作と思います。
戦争を喜劇として描写する、という困難な試みに、かなりの部分まで成功している、よくできた作品だと思います。