会社で所属している業界団体の1年に1回の総会で、九州(福岡)に行ってきました。おそらく40年ぶりくらいの太宰府天満宮です。来年のTOEICでの高得点獲得を祈りました。台風12号の接近が懸念されましたが、何とか保ちました。
月別アーカイブ: 2016年9月
白井喬二の「金襴戦」
白井喬二の「金襴戦」(きんらんせん)読了。
「珊瑚重太郎」と一つの巻に入っていた小説ですが、白井喬二の作品としては、今一つよく分からない作品です。大正14年に婦人公論に1年間連載されたものです。白井喬二の自伝によれば、何故かこのあまり出来がよくないと思われる作品が、太平洋戦争の時に陸軍恤兵部により兵隊に慰問品として送る小説として7-8回も選ばれて、大変な部数が前線に送られたとのことです。「戦」とついているのが兵隊向けと思われたのか、遊女が出てくるのが兵士の慰めになると思われたのか、理由は不明です。
お話は、飛騨の山奥の村で、金襴(金色の派手で高価な織物)を織っているのですが、その染め加工の時に出る鉱毒で、下流の村の農作物が被害を受け、金襴の村と下流の村で戦いになるという話です。主人公が、蝉の抜け殻を集めて漢方薬屋に売るという実に変わった職業の男なのですが、この主人公が白井喬二の主人公にしてはまるでいい所がなく、物語の冒頭で山の中の牢に捕らわれた死刑囚から伝言を頼まれるのですが、それを伝えるのをすっかり忘れてしまいます。その事が金襴の鉱毒を巡る戦いの直接的な原因になってしまいます。また、この男は、湯屋の遊女が人買いの男を殺したのに立ち会い、その遊女を連れて逃げるのですが、途中で遊女に心中を迫られまれ、遊女を置いて一人で逃げてしまいます。白井喬二はこの物語にきちんと結末をつけないまま終わらせてしまいます。
「仁義なき戦い 完結篇」
「仁義なき戦い 完結篇」視聴。
この第五部は笠原和夫の脚本ではありません。で、脚本の出来不出来を言うより、どこまで腹をくくって事実を抉って脚本化するかという点で笠原脚本よりも劣るように感じます。
また、配役もかなり変に感じます。第2部の主人公だった北大路欣也が復活するのはまあ許せるとしても、第4部で殺されたばかりの松方弘樹がいきなり別の役で復活するのは違和感ばりばりです。(しかもすぐまた殺されるし…)第2部では千葉真一が演じた大友勝利がこの部では宍戸錠ってのもイマイチかな。(宍戸錠は日活作品ではいいけど、他社作品ではイマイチという評あり。)また、柔道一直線の桜木健一が、格好いい所のまったくないチンピラ役で登場し、最後に殺されて、それで広能が引退を決意するというのも、何だかなあ、です。やっぱりこの作品は第4部までかなと思います。
小林信彦の「決壊」
小林信彦の「決壊」を再読了。2006年に講談社文芸文庫として出たもの。
「金魚鉢の囚人」(1974年7月号「新潮」掲載)
「決壊」(1975年11月号「新潮」掲載)
「息をひそめて」(1977年10月号「文学界」掲載)
「ビートルズの優しい夜」(1978年2月号「新潮」掲載)
「パーティー」(1980年5月号「新潮」掲載)
の5本の作品を新たに一つにまとめたもの。このうち、「金魚鉢の囚人」と「ビートルズの優しい夜」は、最初1979年の「ビートルズの優しい夜」に収録されたもの。「パーティー」は弓立社版「小林信彦の仕事」に収録されたものです。「息をひそめて」以外は、最初、文芸雑誌「新潮」に掲載され、名編集者の坂本忠雄氏のやりとりの結果として生まれてきた作品です。
「金魚鉢の囚人」は、作者が自分で言っているように、中年のDJである「テディ・ベア」に小林信彦自身を投影した作品です。投影はしていますが、他の私小説的作品と一線を画した純粋な虚構の作品で、よく出来た作品と思います。特にラストでのアクシデントと、主人公がそれを処理するやり方が印象的です。
「決壊」は葉山に自宅を買った著者の体験が反映された私小説的作品。放浪を続けて、収まるところを求め続けた筆者がやっと手にした安住の地が、土地の「決壊」によって脅かされる様子を描いたものです。この経験は、「ドリーム・ハウス」などの他の作品にも使われています。
「息をひそめて」は、これも私小説的作品で、筆者が大学は出たものの、空前の就職難の時期に遭遇し、やむを得ず叔父の経営する自動車用塗料の会社でセールスマンとして働く様子、それから横浜でイギリス人の遠い親戚が経営する不動産会社に移り、それから失業して池袋のアパートでひっそりと暮らす様子が描かれます。
「ビートルズの優しい夜」は、1966年のビートルズ来日公演のすぐ後で行われたあるTV番組関係者向けのパーティーでの様子を描いたものです。放送作家だった当時の小林信彦の不安定な心理が描かれている作品です。
「パーティー」は、ある不遇の映画監督に作者自身を投影させて、その監督がパーティーに出席した時の様子を描くものですが、三回連続で芥川賞候補になりながら、ある審査員から「小林信彦は既に放送作家などで活躍しており賞の資格がない」として受賞を取り逃がしたことへのルサンチマンがあふれる作品です。
どの作品も、「唐獅子シリーズ」や「オヨヨ大統領シリーズ」の作者とは思われないくらい、陰鬱な調子で一貫していますが、これが小林信彦のある意味本来の姿かと思います。坂本忠雄氏とのやりとりによる彫琢を経ているために、どの作品も完成度はそれなりに高いと思います。
「仁義なき戦い 代理戦争・頂上作戦」
「仁義なき戦い」第3作代理戦争と第4作頂上作戦を続けて視聴。まだ第5作完結篇が残っていますが、笠原和夫が脚本を書いたのは第4作までです。
「代理戦争」の名前の通り、広島・呉の地元のやくざの戦いながら、バックにいた神戸の山口組と本多会の代理戦争が描かれています。ただ、小林信彦の「われわれはなぜ映画館にいるのか」に出てくる笠原和夫の解説によると、何故広島で争う必要があったかについては、中国地方進出を模索する山口組と下関の合田一家の争いが背景にあるということです。
個人的には、役者の豪華さに酔いしれます。菅原文太、成田三樹夫、小林旭、松方弘樹、梅宮辰夫、田中邦衛、金子信雄、山城新伍といった綺羅星のごとき役者の見せる、裏切りにつぐ裏切りの群像劇に心を奪われます。