北杜夫の「夜と霧の隅で」を読了。芥川賞を受賞した表題作以外に四篇の初期の短編を収録したもの。「夜と霧の隅で」は、第2次世界大戦中のドイツの精神病院で、ナチスによる、治らない精神病者を殺害するという命令に抵抗するため、患者にロボトミーやインシュリン、アセチルコリン療法といった、当時効果も定まっていない療法を強行する医師の話。結果的にこれらの新しい療法は、慢性の患者に対してほとんど効果を発揮することなく、逆に一部では患者を死に至らしめてしまいます。というか私には、患者を殺すことと、どうなるかもはっきりしない新しい治療法を強行することは、トランプの裏表のような気がして不気味でした。精神疾患に対する療法は、今は当時より多少進んだのかもしれませんが、何故そうなるかもわからずに薬を使っているなど、大して変わっていないように思います。
他の四篇は、ちょっと奇妙な印象を受けるものばかりですが、台湾で幻の蝶を採集しようとする男の話がちょっと面白かったです。
北杜夫の「夜と霧の隅で」
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