北杜夫の「夜と霧の隅で」

jpeg000 234北杜夫の「夜と霧の隅で」を読了。芥川賞を受賞した表題作以外に四篇の初期の短編を収録したもの。「夜と霧の隅で」は、第2次世界大戦中のドイツの精神病院で、ナチスによる、治らない精神病者を殺害するという命令に抵抗するため、患者にロボトミーやインシュリン、アセチルコリン療法といった、当時効果も定まっていない療法を強行する医師の話。結果的にこれらの新しい療法は、慢性の患者に対してほとんど効果を発揮することなく、逆に一部では患者を死に至らしめてしまいます。というか私には、患者を殺すことと、どうなるかもはっきりしない新しい治療法を強行することは、トランプの裏表のような気がして不気味でした。精神疾患に対する療法は、今は当時より多少進んだのかもしれませんが、何故そうなるかもわからずに薬を使っているなど、大して変わっていないように思います。
他の四篇は、ちょっと奇妙な印象を受けるものばかりですが、台湾で幻の蝶を採集しようとする男の話がちょっと面白かったです。

三遊亭圓生の「真景累ヶ淵~お累の婚礼」

jpeg000-3今日の落語、三遊亭圓生の「真景累ヶ淵~お累の婚礼」。
圓生が残した、「真景累ヶ淵」の録音の内、未聴は、この「お累の婚礼」と「お累の自害」と「聖天山」だけになっていました。基本的に陰鬱で楽しい噺ではまるでないため、もう打ち止めにしようかと思っていましたが、後三本なんで全部聴くことにしました。
そういう訳で「お累の婚礼」ですが、豊志賀の恨みで、江戸から連れ出した女房のお久の顔が腫れ上がってしまい、豊志賀だと思って誤ってお久を殺してしまった新吉。紆余曲折があって、結局新吉は博打打ちの甚蔵の兄弟分になってその世話になります。新吉はある時、お久の法事に出ますが、その時にお久の叔母で三蔵の妹であるお累と出会います。お累は、新吉に一目惚れします。しかしながら、ある時囲炉裏で転んで、熱湯を顔に浴び、顔がただれてしまいます。三蔵はそんなお累を不憫に思い、新吉を婿に取ることにします。新吉は婚礼の晩、お累の顔を見て、豊志賀のたたりだと思って恐れおののきます。