小林信彦の「決壊」

jpeg000 228小林信彦の「決壊」を再読了。2006年に講談社文芸文庫として出たもの。
「金魚鉢の囚人」(1974年7月号「新潮」掲載)
「決壊」(1975年11月号「新潮」掲載)
「息をひそめて」(1977年10月号「文学界」掲載)
「ビートルズの優しい夜」(1978年2月号「新潮」掲載)
「パーティー」(1980年5月号「新潮」掲載)
の5本の作品を新たに一つにまとめたもの。このうち、「金魚鉢の囚人」と「ビートルズの優しい夜」は、最初1979年の「ビートルズの優しい夜」に収録されたもの。「パーティー」は弓立社版「小林信彦の仕事」に収録されたものです。「息をひそめて」以外は、最初、文芸雑誌「新潮」に掲載され、名編集者の坂本忠雄氏のやりとりの結果として生まれてきた作品です。
「金魚鉢の囚人」は、作者が自分で言っているように、中年のDJである「テディ・ベア」に小林信彦自身を投影した作品です。投影はしていますが、他の私小説的作品と一線を画した純粋な虚構の作品で、よく出来た作品と思います。特にラストでのアクシデントと、主人公がそれを処理するやり方が印象的です。
「決壊」は葉山に自宅を買った著者の体験が反映された私小説的作品。放浪を続けて、収まるところを求め続けた筆者がやっと手にした安住の地が、土地の「決壊」によって脅かされる様子を描いたものです。この経験は、「ドリーム・ハウス」などの他の作品にも使われています。
「息をひそめて」は、これも私小説的作品で、筆者が大学は出たものの、空前の就職難の時期に遭遇し、やむを得ず叔父の経営する自動車用塗料の会社でセールスマンとして働く様子、それから横浜でイギリス人の遠い親戚が経営する不動産会社に移り、それから失業して池袋のアパートでひっそりと暮らす様子が描かれます。
「ビートルズの優しい夜」は、1966年のビートルズ来日公演のすぐ後で行われたあるTV番組関係者向けのパーティーでの様子を描いたものです。放送作家だった当時の小林信彦の不安定な心理が描かれている作品です。
「パーティー」は、ある不遇の映画監督に作者自身を投影させて、その監督がパーティーに出席した時の様子を描くものですが、三回連続で芥川賞候補になりながら、ある審査員から「小林信彦は既に放送作家などで活躍しており賞の資格がない」として受賞を取り逃がしたことへのルサンチマンがあふれる作品です。
どの作品も、「唐獅子シリーズ」や「オヨヨ大統領シリーズ」の作者とは思われないくらい、陰鬱な調子で一貫していますが、これが小林信彦のある意味本来の姿かと思います。坂本忠雄氏とのやりとりによる彫琢を経ているために、どの作品も完成度はそれなりに高いと思います。

「仁義なき戦い 代理戦争・頂上作戦」

jpeg000 212jpeg001 12「仁義なき戦い」第3作代理戦争と第4作頂上作戦を続けて視聴。まだ第5作完結篇が残っていますが、笠原和夫が脚本を書いたのは第4作までです。
「代理戦争」の名前の通り、広島・呉の地元のやくざの戦いながら、バックにいた神戸の山口組と本多会の代理戦争が描かれています。ただ、小林信彦の「われわれはなぜ映画館にいるのか」に出てくる笠原和夫の解説によると、何故広島で争う必要があったかについては、中国地方進出を模索する山口組と下関の合田一家の争いが背景にあるということです。
個人的には、役者の豪華さに酔いしれます。菅原文太、成田三樹夫、小林旭、松方弘樹、梅宮辰夫、田中邦衛、金子信雄、山城新伍といった綺羅星のごとき役者の見せる、裏切りにつぐ裏切りの群像劇に心を奪われます。