谷崎潤一郎の「武州公秘話」

jpeg000 229谷崎潤一郎の「武州公秘話」を読了。この作品は博文館の「新青年」に1931年から32年にかけて連載されたものです。小林信彦の「四重奏」の所で紹介したように、博文館から渡辺温が谷崎の原稿の催促にやってきますが、その渡辺が夙川の踏切で乗っていたタクシーが貨物列車にぶつかるという事故で亡くなります。谷崎はこれに責任を感じ、「新青年」にまず随筆を載せ、その後この「武州公秘話」を連載します。
お話は、ある種の変態的(嗜虐的)な性欲を持った武将の話です。小林信彦が谷崎の真似をして、フェティシズムにふける人物を小説に登場させることがあるのですが、小林が描く人物は単なる「ヘンタイさん」レベルの軽いものでしかありません。それに対し、本家の谷崎の書くものはどっしりと重く、おどろおどろしさが半端ではありません。
またこの作品は、谷崎が大衆小説を高く評価していて、自分でも試みたものですが、ストーリーテリングとしては、必ずしもうまくはなく、途中で筆を擱いたという感じになっています。そのため、武州公の本格的な変態ぶりはほとんど描かれることなく終わってしまっています。これについては、谷崎はずっと続編を書く気持ちを持ち続けていたようですが、結局果たせませんでした。
さらに、この作品では「筑摩軍記」「見し夜の夢」「道阿弥話」といった架空の書物から引用するという形で書かれていて、この辺りが大衆小説から学んだ技法かもしれません。

三遊亭圓生の「百川、文七元結」

jpeg000 226本日の落語、六代目三遊亭圓生の「百川、文七元結」。
「百川」は、有名な料亭の百川に勤めることになった、田舎者で百姓出身の百兵衛が、訛った言葉で勘違いを引き起こすお噺です。「主人家に抱えられた」が「四神剣の掛け合い人」に聞こえてしまい、魚河岸のお兄いさん達は、祭の出費が嵩んで、預かった「四神剣」を質入れしてしまっていたから、パニックになります。
「文七元結」は、これまで志ん朝、志ん生のものを聴いています。圓生はさすがにうまいと思います。この噺の聴かせ所は、長兵衛がお久を吉原に預けて作った五十両の金を、見ず知らずの文七にくれてやってしまうのにいかに不自然さを出さないかだと思いますが、圓生は長兵衛の葛藤がよく表現できていると思います。